2010年7月25日日曜日

インセプション/NARIZO映画レビュー

国際指名手配犯のドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)はターゲットが夢の中に居る間に、その潜在意識の奥底に潜り込み、他人のアイデアを盗み出す犯罪のスペシャリストだった。
そんな彼に、実業家のサイトー(渡辺謙)が仕事を持ちかけてくる。報酬は、彼に掛かった容疑を白紙にして、もう一度、最愛の子供たちとの生活を取り戻すこと。
困難を極めるそのミッションは、「インセプション」。
サイトーのライバル企業グループの御曹司の潜在意識に入り込み、別の考えを植え付けて、その企業が崩壊する引き金を引かせようというものだった。


 こんなアイディアがあったのか!! 映画作品としての強いオリジナリティを持って、観客を荒唐無稽な世界観に一気に引き込み、あらゆる仕掛けで観客を翻弄し、煙に巻く。
映像が驚異的なだけではなく、綿密に計算され、見る側の解釈で幾つもの違った結論が導き出されるような素晴らしい脚本。
あれだけ複雑で多重構造の展開なのに、そこに混乱はまったく無く、150分の長さを忘れるエンターテインメントで、終わってすぐ、もう一度見たくなる中毒性を持った、久しぶりに衝撃的な作品の登場だった。

原案、脚本、監督、製作と常にマルチに作品に関わり続けているクリストファー・ノーラン監督(「ダークナイト」「バットマン・ビギンズ」)にとって、間違いなくひとつの到達点であり、代表作になるに違いない強烈な映像体験が、そこにあった。

加えて、キャストも曲者そろい。
渡辺謙は文字通りの準主役級で、太りすぎてて危うく気付かなかったトム・ベレンジャーや、アカデミー賞女優のマリオン・コティヤール、最初は大作映えせずに地味に見えたエレン・ペイジ(「ジュノ」の主役の女の子だよ)も話が進むにつれ、どんどん印象を強め、最後は何かとても可愛く見えてきた(笑)。そのほかノーラン作品常連の顔ぶれも含めて登場人物は多いけど、誰も彼もが魅力的だ。

言ってしまえば、「夢」の中に侵入する、「夢」版「マトリックス」の様な設定ではある。
しかし、誰もが夢を見たときに知っている「感覚」をリアルに細かい設定の中に散りばめる事で、荒唐無稽なストーリーに真実味を持たせることに成功している。
CG全盛の昨今においてライヴアクションにこだわり、超現実的な映像で夢の感覚が再現される。

どんな解釈でラストシーンを見たか、終映後に感想を交換するだけでも、1時間は盛り上がれる、そういう類の映画なので、とにもかくにも、この作品は映画好きな友達と、大人数で見に行くことをお奨めしたい。
誰かの感想を聞くことで、見逃していたかもしれない別の視点や解釈が生まれる。
それ自体、どう解釈するかで180度結末の意味が変わってしまうような、意味深なラストシーン含めて、ノーラン監督は映画を通じて観客への「インセプション」に成功しているのだ。



2010年7月17日土曜日

トイストーリー3/NARIZO映画レビュー

アンディはすでに17歳。大学進学のために家を出て行こうとしていた。そんな中、手違いから「サニーサイド」という名の保育園に寄付されてしまう「おもちゃ」たち。
アンディに最も気に入られていたカウボーイ人形のウッディは、家へ帰ろうとみんなを説得するが、他のおもちゃたちは保育園での新しい子供たちとの出会いに心を膨らませて、誰も彼の声に聞く耳を持とうとしない。
だが、この「サニーサイド」は、おもちゃを破壊する凶暴な幼児たちばかりが集まった、おもちゃたちにとっての地獄だったのだ。果たして、おもちゃたちの運命は....。



 アニメーションスタジオ「ピクサー」が「トイストーリー」を世に送り出した1995年から、スタジオの成長とともに看板作品として愛され続けてきたシリーズが遂にエンディングを迎えた。

このシリーズがこんなにも愛されたのは、1作目が世界で初めてフル3DCGで制作した長編アニメーションだなんて理由ではなく、玩具の視点から見た世界を、愛情たっぷりに生き生きと描いて見せたユニークな作品だったからに他ならない。

いつかは壊れ、または飽きられ、忘れられ、捨てられてしまう玩具の「楽園」として登場する「保育園」の真実という、サスペンス的(笑)要素が散りばめられ、ロッツォやビックベビー、ケンと言った新キャラクターも、とてつもなく曲者。中古の玩具しか出てこないこの作品では、それぞれが元の持ち主の思い出を背負って動いていて、まるで引退した企業戦士たちのようでもあり、とてつもなく人間くさい。

繰り広げられる冒険は、3D映像になって、その迫力を大きく増し、テンポよく、一気にエンディングへと駆け抜ける。

1作目が世に出てから15年。
製作者たちの子供が成長して巣立っていく様に、この作品では遂に、玩具たちの持ち主、アンディも大人として巣立っていこうとしている。
そこには「おもちゃ」たちとの別れが待っている。
この作品が貫いたルール通り、玩具は人間と会話をすることは無いが、アンディとおもちゃ達のココロが通じ合ったかのようなそのシーンのために、まるでこのシリーズは計算されて来たんじゃないかとさえ思ってしまうような。
それは切なくもポジティヴで、実にディズニー/ピクサーらしい物語の終焉になっていた。
そして、あたかもピクサースタジオが看板キャラクターとして愛し、愛され続けてきたウッディとバズから卒業し、次の発展を遂げていくために永遠の命を与えたように見えるような....素晴らしいエンディングだった。

つまり「トイストーリー3」は、単にキッズ向けのCGアニメではなく、かつて、「こども」だった全ての「大人」が楽しめ、名作として長く記憶されることになるに違いないファミリーエンタテインメントなのだ。








2010年7月4日日曜日

踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!/NARIZO映画レビュー

強行犯係係長に昇進した青島俊作(織田裕二)は、新湾岸署の開署式まであと3日と迫る中、高度なセキュリティシステムが導入された新湾岸署への引越しで陣頭指揮をとっていた。その引越しの真っ最中に、湾岸署内で次々と事件が発生。引越しのどさくさに紛れて、青島や恩田すみれ(深津絵里)らの拳銃が3丁盗まれ、連続殺人事件へと発展していく。
湾岸署には特別捜査本部が設置され、管理補佐官の鳥飼誠一(小栗旬)とともに青島は捜査を開始。しかし、ついには、高度なセキュリティシステムをクラッキングされ、犯人の手によって多くの署員が新湾岸署に閉じ込められてしまう。犯人の要求は、かつて青島が逮捕した犯罪者9人の釈放だった。



テレビシリーズが大好きだったこともあって、内容の酷さは覚悟していても、ついつい見に行ってしまった7年振りの最新作。
結論から言うと、覚悟通りの出来栄えだった。魅力的なキャラクターを動かすだけで、何とか無駄に思えるほど長い尺の興味をギリギリのところで持続させる、いつもの手も、いかりや長介の亡き後は、もはや限界だ。

例え背骨になるストーリーに魅力がなく、延々とどうでも良い話につき合わされたとしても、これまでは最後にヒロイックな青島と室井(柳葉敏郎)の立場を超えた友情なり、事件解決に向けて、一気に盛り上げて得られるカタルシスなりが「映画」として許せるギリギリの結果をもたらしてきたと思うのだが、本作にはそれすら感じられない。
過去三作の中で、最もノレない作品だったと言って良いだろう。

つまるところ、どこまでも観客は単にスタッフとキャストが織り成す「同窓会」的内容に付き合わされるだけだった。
人気に乗っかれば、安易な企画でも映画化出来てしまうテレビ局主導のキラーコンテンツが、ファンを相手に胡坐をかいている。意地悪く言えば、これはそのレベルの映画だと思う。もちろん、多かれ少なかれ、過去の2作もそうだった。それでも、繰り返し言うが、ここまで酷くはなかった。
だから、これを2度見たいとか、DVDを買おうなんて気には、全くなりそうにない。

新キャラクターとして登場する和久伸次郎(伊藤淳史)や鳥飼誠一(小栗旬)は頑張っているし、久々に見た篠原夏美(内田有紀)も魅力的だったが、活かしきれなかったのは残念。
唯一、面白かったのは署長、副署長、刑事課長のスリー・アミーゴス(北村総一朗、斉藤暁、小野武彦)によるお馴染みのサラリーマン的コントシーン位のものだ。

そんなわけで、別に映画じゃなくても良いジャンというファン向け映画。それでも、「踊る大捜査線」は好きだからと言う方は是非。