そんな彼に、実業家のサイトー(渡辺謙)が仕事を持ちかけてくる。報酬は、彼に掛かった容疑を白紙にして、もう一度、最愛の子供たちとの生活を取り戻すこと。
困難を極めるそのミッションは、「インセプション」。
サイトーのライバル企業グループの御曹司の潜在意識に入り込み、別の考えを植え付けて、その企業が崩壊する引き金を引かせようというものだった。
こんなアイディアがあったのか!! 映画作品としての強いオリジナリティを持って、観客を荒唐無稽な世界観に一気に引き込み、あらゆる仕掛けで観客を翻弄し、煙に巻く。
映像が驚異的なだけではなく、綿密に計算され、見る側の解釈で幾つもの違った結論が導き出されるような素晴らしい脚本。
あれだけ複雑で多重構造の展開なのに、そこに混乱はまったく無く、150分の長さを忘れるエンターテインメントで、終わってすぐ、もう一度見たくなる中毒性を持った、久しぶりに衝撃的な作品の登場だった。
原案、脚本、監督、製作と常にマルチに作品に関わり続けているクリストファー・ノーラン監督(「ダークナイト」「バットマン・ビギンズ」)にとって、間違いなくひとつの到達点であり、代表作になるに違いない強烈な映像体験が、そこにあった。
加えて、キャストも曲者そろい。
渡辺謙は文字通りの準主役級で、太りすぎてて危うく気付かなかったトム・ベレンジャーや、アカデミー賞女優のマリオン・コティヤール、最初は大作映えせずに地味に見えたエレン・ペイジ(「ジュノ」の主役の女の子だよ)も話が進むにつれ、どんどん印象を強め、最後は何かとても可愛く見えてきた(笑)。そのほかノーラン作品常連の顔ぶれも含めて登場人物は多いけど、誰も彼もが魅力的だ。
言ってしまえば、「夢」の中に侵入する、「夢」版「マトリックス」の様な設定ではある。
しかし、誰もが夢を見たときに知っている「感覚」をリアルに細かい設定の中に散りばめる事で、荒唐無稽なストーリーに真実味を持たせることに成功している。
CG全盛の昨今においてライヴアクションにこだわり、超現実的な映像で夢の感覚が再現される。
どんな解釈でラストシーンを見たか、終映後に感想を交換するだけでも、1時間は盛り上がれる、そういう類の映画なので、とにもかくにも、この作品は映画好きな友達と、大人数で見に行くことをお奨めしたい。
誰かの感想を聞くことで、見逃していたかもしれない別の視点や解釈が生まれる。
それ自体、どう解釈するかで180度結末の意味が変わってしまうような、意味深なラストシーン含めて、ノーラン監督は映画を通じて観客への「インセプション」に成功しているのだ。