2013年3月21日木曜日

オズ はじまりの戦い

夢と野望にあふれているが自堕落でいい加減な生活を送っているカンザスのサーカス奇術師オズ(ジェームズ・フランコ)が、気球ごと竜巻に巻き込まれて美しい魔法の国・オズに降り立たち、伝説の魔術師として、オズを救う。

アメリカ童話のマスターピース「オズの魔法使い」の前日譚。
童話に出てくる魔法使い「オズ」が、どのようにしてやってきたのかをサム・ライミ監督×ディズニーで映画化した作品だ。

 自堕落なオズのカンザスでの暮らしぶりを4:3のモノクロで、オズの世界へ吹き飛ばされてからをカラーワイドで描き分ける演出は、その色彩的ギャップが非常に大きいこともあって美しくも怪しい極彩色の魔法の国を強く観客に印象付ける。

 美術が素晴らしいことに加えて3Dを強く意識した演出が全編に貫かれ、視覚的に非常に楽しい。
ところが、どういうわけか、3Dで見られる劇場が少ない気がする。
ここはケチらずに強く3Dでの鑑賞をお奨めしたい。
 世界の広さを感じられる立体感は「アリス・イン・ワンダーランド」のそれをはるかに超えているように俺は感じた。
 3Dで見ること、良くも悪くもディズニーランドのアトラクションが130分続いているような内容なので、これは絶対だ。

 喋る猿とか、奇妙な種族、かかしやライオンがちょっと出てきたりと、原作を知っていると楽しめそうなキャラクターや設定が、ちょこちょこ出てくる。
 オズで出会う魔女たちも、「テッド」でヒロインをやっていたミラ・クニスやレイチェル・ワイズ、ミシェル・ウィリアムズなどいずれも美人揃いで楽しい。
しかし、子供向けのファンタジーでありながら、この作品をより一層ユニークにしているのは、主人公がオズで、演じるのが、ジェームズ・フランコだという点だと思う。
 つまり、「オズの魔法使い」の主人公ドロシーが童話らしく少女だったのに対して、本作は、駄目で嘘つきな大人、いやオヤジが主人公なのだ。

 子供の様な感性を持ち、大人としては到底褒められた者ではないオヤジが、彼の住んでいた現実世界とはかけ離れた場所へ放り出され、人々から頼られてしまうことで、成長していく。
 この作品が描くのは、駄目オヤジが立派な大人になって、世の中の役に立つという、何気に大人も笑わせつつ楽しめる内容だ。

 力ではなく、知恵とオズが奇術師として磨いてきたトリックを駆使した「マジック」で、人々と協力し、悪辣な本物の魔女と対決する。

 リアルに見せる為にCG感を感じさせないコトに腐心して創られた大作とは全くアプローチを別として、この作品では非常にファンタジックにCGとセット撮影、ライブアクションの融合によってオズの戦いを描き出す。
 夢があり、遊びを感じさせるフィナーレだ。

 ところで、よく考えて見れば、ディズニーランドという場所は、それそのものが、オズの繰り出すマジックみたいなものだよね。
 ディズニーの製作者たちが、嬉々としてこの作品に取り組みたい理由が、ちょっと判るような気がした。
久々にディズニーの王道を行く、実写映画だと思う。
 

2013年3月16日土曜日

クラウドアトラス

俺は、客席で静かに感動し、しばらく余韻に浸っていた。

3時間近い大作だが、まるで時間の長さを感じさせなかった。
 紡がれたその壮大なストーリーがクライマックスを迎えたとき、その驚愕の構成力と、計算し尽くされたシナリオに圧倒された。

 こんな気持ちになる作品に出会ったのは、いつぶりだろう。

 1849 年、南太平洋。 
奴隷売買を任された若き青年ユーイング(ジム・スタージェス)に訪れる試練と瀕死の航海の物語。

 1936 年、スコットランド。
若き作曲家フロビッシャー(ベン・ウィショー)による幻の名曲「クラウド アトラス六重奏」創作秘話。

 1973 年、サンフランシスコ。
殺し屋に命を狙われながらも無数の人命に関わる原子力発電所での企業汚職を暴こうとするジャーナリストのルイサ・レイ(ハル・ベリー)の物語。

 2012 年、イングランド。
不当に老人施設に監禁された三流の編集者ティモシー・カベンディッシュ(ジム・ブロードベント)が仲間の老人たちと施設から脱出する物話。

 2144 年、ネオ・ソウル 。
自我を持ったクローン人間ソンミ 451(ペ・ドゥナ)がクローンを解放する革命に身を投じていく物語。

 2321 年、現代文明崩壊後のハワイ。
ヤギ飼いのザックリー(トム・ハンクス)が地球を救う旅に出る物語。

 6つの時代を生きる箒星のあざを持つ6人の主人公。

 時代を隔てた物語が交互に語られるが、注意するとそれは、巧妙に繋がりをもって動いている。
 各時代に登場する人物たちは、同じ魂を持って別の時代のエピソードへと輪廻する。
 性別や国籍を超え、その魂は別の姿で、業を背負いながら生き続けている。
 過去の人物やエピソードが、様々な形で後の時代に影響を与える。
そして、物語が進むに連れ、それぞれの物語が壮大なひとつのテーマをもっていることに観客は気付かされる。
 例えばトム・ハンクスは、1849年には青年の財産を狙う悪徳医師として登場し、1936年のストーリーでは、若き作曲家の弱みに付け込むホテルの支配人。
 1973年には、記者に極秘書類を渡す原発の研究者、2012年には自分の作品をこき下ろした書評家をパーティ会場から突き落とす作家、2321年には地球を救う男に転生する。

 時代と肉体は変わるが、魂はそれを超えてストーリーの中で次の時代へと旅を続けているのだ。

 主要キャストが各エピソードでどのキャラクターを演じていたかが、明かされるエンドロールは、必見だ。
 その役をやっていたのが、誰だかまるで判らないケースが幾つもあって、メイクアップ技術の物凄さに驚愕させられる。
それを理解したうえで、もう一度、それぞれのキャラクターに注意しながらこの作品と向き合ってみると、もしかしてまた違った「クラウドアトラス」に出会えるかもしれない。

 「マトリックス」のウォシャウスキー姉弟がプロデュース。
 「ラン・ローラ・ラン」のティム・ティクヴァが監督したこの作品は、1億ドルを超える制作費を投じたものだという。
 輪廻転生、業、といった仏教的な観念が根底に流れ、ドイツ、アメリカ、香港、シンガポールの4カ国が製作に名を連ねる一大プロジェクト。
この作品をSF超大作映画などという使い古された陳腐な表現に押しはめて語るのは勿体無いし、未見の人に不幸な思い込みを植えつけてしまいそうで嫌だ。
 この作品が素晴らしいのは、メカやVFXやアクションではなく、人間の営み、生き様を描いたドラマ演出と、その構成力なのだ。

後世に残る記念碑的な存在になることは間違いない作品だ。
 

2013年3月2日土曜日

ジャンゴ 繋がれざる者

これは間違いなくクエンティン・タランティーノの最高傑作だ。
 正統派かどうかなんてのはどうでも良い。
 この30年間に公開された西部劇の中で一番面白いかもしれない。俺はそう思った。

 キャラクターは全員くせもので悪辣かつ残忍、血煙上がるガンファイトは冴え渡り、ストーリーは痛快でシニカル、惹き込まれる魅力をもった娯楽作品だ。

 インターナショナルなマーケティングに明け暮れた末、ハリウッドの大作はオリジナリティを失った。
 キャラクターの内面を表現するドラマよりも、派手で判りやすい画をひたすら追求し、中身がスカスカの空虚なアクション大作を量産した。
 この作品にはそんなハリウッドが、アクション娯楽作品を作るうえで何処かに忘れてきた大切なものが、いろいろ詰まっている。

 簡単に言えば黒人の奴隷が、賞金稼ぎになって、白人の悪人どもを皆殺しににしながら悪趣味な農園主の元で虐待されている生き別れの妻を救いに行く話しだ。

 ストーリーの根底に流れているのは義理人情、純愛であり、そこに描かれる怒りは、ながい我慢と忍耐の末に爆発する感情の発砲だ。
 アメリカ映画界でも屈指の映画オタク、タランティーノが愛しているブラックムービーや、日本の仁侠映画、時代劇の価値観が、この西部劇の中には息衝いている。
それを感じ取れる俺たちは、一触即発のメキシカンスタンドオフで、キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)やジャンゴ(ジェイミー・フォックス)の怒りが爆発する展開に、思わず喝采を贈ってしまう。
人種差別の歴史が影を落とすアメリカ人よりも、客観的にストーリーを楽しめる日本人のほうが、純粋に娯楽として作品を楽しめるかもしれない。
 日本人が愛するヒーロー像にジャンゴやシュルツは重なるのだ。
つまり過激な手法も交えつつ、タランティーノはコマーシャルになり過ぎたハリウッドの大作が切り捨ててしまった泥臭さを現代風に演出して、皿の上に並べて見せたのだ。

 とにかくジェイミー・フォックスのジャンゴは最高にクール。
ちょっと肥えて、いけすかない悪役が板に付くようになったレオナルド・ディカプリオの農園主や、農園の奴隷頭を不気味に演じるサミュエル・L・ジャクソンなど、脇を固めるビッグネームの使い方も、実に良い。
 そして想像を裏切りつつも、怒りに繋がる伏線の張り方が上手い、素晴らしい脚本。
 これだけ挑戦的な娯楽作品に、今年のアカデミーは脚本賞を贈った。
それもまた痛快じゃないか。
 何度も言うけど、奴隷だった賞金稼ぎが、悪い白人を皆殺しにして妻を救う話だかんね。(笑)
 「どうだ、アカデミーを牛耳ってる白人のジジイども!」って、タランティーノが悪戯っぽく舌を出してそうな気がする。

 アクションの演出は、タランティーノのやりたい放題。 まさにキャリアの集大成。
 いろんな意味でタランティーノが爆発している。
いや、 ホントに、爆発してるんだ。(笑)
 これは、何度でも見たい映画の一本になった。
 長いはずなのに全く長さを感じさせない165分。
アクション映画が好きなら、タランティーノが好きだったら、 西部劇だぁ...とかって食わず嫌いは言わずに黙って、客席に座っておくべきだ。
大きなスクリーンで見ておかないと、絶対、後悔する。