リンカーンと言えば奴隷解放を実現させたアメリカの自由を象徴する存在。
暗殺されたんだよな、子供のころにお気に入りだった東京タワーの蝋人形館は何故かリンカーンの暗殺シーンが再現されてたから、子供心にインパクト絶大だった。
あれ、まだあるのかな?
南北戦争ね...アメリカの内戦でしょ?
改めて考えると、リンカーンの名前は知っていても、当時のアメリカについては知ってるようで、意外と知らないことに気付かされる。
しばらく見たい映画がなくて、劇場から足が遠ざかっていた間に、自宅に届いていたBlue-layで「リンカーン秘密の書」を見返して、この作品の公開に備えてはみたものの、リンカーンがヴァンパイアハンターだったなんて設定の作品が、当時についての理解を深める助けになるはずもなく。(笑)
不勉強のまま久しぶりに硬派な新作と向かい合う事になった。
この作品は、スティーブン・スピルバーグ監督によるアメリカ第16代大統領、エイブラハム・リンカーンの伝記映画だ。
と言っても、「貧しい家の男が苦学の末、アメリカ大統領になった」なんていうありがちな説教臭い偉人伝にはなっていない。
奴隷制度を廃止する法律、米国憲法修正第十三条を可決させるまでの苦悩の日々を中心に、政治家たちの思惑が交錯する政治劇としてそれは描かれる。
ちょっと想像すれば理解できる話だが、イマイチ、ピンと来ていなかった当時の事実をこの映画は、現代の観客に突きつける。
例えば、当時の黒人奴隷は、立派な財産だったと言う事実。
奴隷解放は、ある意味、奴隷の持ち主から財産を取り上げるという政治運動だった。
そして大規模農園の安価な労働力として黒人奴隷を大量に働かせていた南部の政財界にとって、それは許されるものではなかった...なんてコトが政治家たちの背景に見え隠れする。
奴隷制度は好ましくないと、腹では理解していても、自らの政治基盤や経済基盤が、その制度のうえに成り立っている政治家たちの葛藤も描かれる。
それから解放された黒人たちが、街にあふれたら大変だと言うような、漠然とした恐怖。
リンカーンが法の下での人種平等をなんとか法律の下に宣言しても、人間としての平等は認めることが出来ない社会。
彼らの参政権はおろか、女性に参政権を与えるなんてことは、輪を掛けてとんでもないと言うような価値観の時代の物語なのだ。
それだけに可能であれば、ほんの少しでも「南北戦争」について知識を仕入れてから作品と向き合ってみるコトをお奨めしたい。
それだけで数倍、この作品は興味深いものになるはずだ。
物語の中に南北戦争のシーンもあるにはあるのだが、しかし、殆どの時間は議会とホワイトハウスの中だけで繰り広げられる。
スピルバーグの作品としては、極めて地味だが、派手なVFXの代わりにトミー・リー・ジョーンズやデヴィッド・ストラザーンといった円熟の俳優人の演技が、緊迫感あるドラマに華を添える。
そして何より誰より、リンカーンを演じたダニエル・デイ=ルイスだ。
この作品の演技でアカデミー主演男優賞に輝いた彼はもう、リンカーンそのものにしか見えない。
華奢で物静かで、見た目は疲れきった男が、信念の前に別人の様な烈しさと強さを見せる。
ひとりの父親であり、弱さや葛藤する姿も見せる、人間リンカーンをこの作品は描いている。
そして、その信念のためには大きな声で言えないような汚い手も使ってみせる。
作品で描かれた当時と、現代はまるで環境が違う。
しかし、不思議と変わらないのは、どうやら保身や目的のために手段を選ばない「政治家」という職業の生態なのかもしれない。
傾いた経済や、震災からの復興、憲法の改正論議と領土問題、決して明るくないニュースが続く中で、現代の政治家達が、どんな汚い手を使っても実現させたい信念があるとすれば、なんだろう?
それが私利私欲と保身を約束するものばかりではない事を祈るばかりだ。
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