2009年12月13日日曜日

カールじいさんの空飛ぶ家/NARIZO映画レビュー

この家で君と出逢い、君と約束をした...愛を誓い、夢を見た。
78歳のカールじいさんは、最愛の妻エリーを亡くしてから、家に引きこもっていた。いつしか、再開発の波にすっかり取り残された彼の家。立ち退きの日が迫ったある日、彼は人生最初で最後の旅を決意する。目指す場所は、エリーと夢見た約束の地。南米にある伝説の滝パラダイス・フォール。その方法は、エリーと過ごした想い出の家に無数の風船をつけ、家ごと大空に飛び立つというものだった。


商業的な映画作品というのは、企画・開発の過程で多かれ少なかれ「今」それを創るコトのマーケティング的な意味を問われる。

子供が大喜びするようなキャラクターや、夢のあるストーリーで常に話題をさらってきたピクサーアニメーションスタジオは、生長する我が子からの親が子離れする話でもある「ファインディング・ニモ」や、前作、「WALL・E」辺りから、従来の魅力に加えて、よりオトナに訴えるようなテーマ性を強めてきた。


 そして、ピクサーは主人公に78歳の老人をもってきて、「カールじいさんの空飛ぶ家」で、本格的にオトナをターゲットにしたファンタジー映画に挑戦した。

世界的な経済危機で、オトナたちの信じていた価値観が揺らぎ、何となく自信を失ったり、希望が見えなくなったりしているこの時代に、家庭やパートナーと過ごす「幸せ」という、基本的なテーマをぶつけてきたピクサーの作戦は、ベタだが、確実に当たっている。

音楽だけで内向的なカールと活発なエリーが結婚し、幸せな生活を送り、やがて死別する過程を見せた序盤の一連のシークエンスは、暖かくも深い感動を呼び、観客はそこで一気にカールに感情移入してしまう。ある種、感動のピークを冒頭に持ってきてしまう様な凄い展開なわけだが、そのせいで、本当に冒頭にしか登場しない妻のエリーの存在の大きさが、観客には強く印象付けられる。

冒険を共にすることになる少年や、子供が大喜びしそうな動物キャラ達との出逢いを通じて、過去の想い出に閉じこもっていた老人が、自分の足で新たな人生に踏み出し、輝きを取り戻すというこのストーリーは、高齢化が進むニホンの大人達にとっても、「見たかった」エンタテインメントである事は間違いないだろう。

原題はシンプルに「up」。
確かに、ちょっとキモチが「上がり」、俺にすら、いやぁ~結婚もいいかもね...と思わせてしまう様な作品なので、カップルで見ても、夫婦で見ても、勿論、独りで見ても、シアワセな一本だ。

直ぐに当たり作品の続編を量産して、陳腐化させてしまう近年のアメリカのエンタメ業界において、常に果敢に新しいストーリーとキャラクターで挑むピクサーの挑戦心に、心から拍手しつつ、ピクサーの次回作は「トイストーリー3」(笑)。
久々の人気シリーズ続編だが、ストーリーを重視する彼等の事だから、期待してしまうよネ。これは。

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