2011年1月31日月曜日

RED レッド/NARIZO映画レビュー

年金係のサラ(メアリー=ルイーズ・パーカー)と電話でおしゃべりをすることを何よりの楽しみとしている引退したCIAエージェントのフランク(ブルース・ウィリス)。彼の平和な生活はある日、特殊部隊の急襲によって崩壊した。引退したかつての仲間たちのところにも刺客は送り込まれ、知り過ぎた老スパイたちを抹殺しようとしていた。フランクはかつての上司、ジョー(モーガン・フリーマン)や同僚のマーヴィン(ジョン・マルコヴィッチ)を訪ね、反撃を決意する。

前にもスタローンが往年のアクションスターを集めて無敵の傭兵軍団のスカスカな馬鹿映画を撮っていたけれど、この作品は、似て非なるもの。いや、圧倒的に面白い。

そもそも、アクションスターが集まって悪をボコボコにしたところで、初めこそその豪華な顔ぶれに驚きこそすれ、意外性は皆無だ。しかし、「RED」には、意外性の魅力があふれている。
引退したスパイたちの顔ぶれは、ブルース・ウィリスはまぁ、良いとして(笑)、モーガン・フリーマン、ジョン・マルコヴィッチ、ヘレン・ミレンと個性あふれるいずれも演技派揃い。
筋肉りゅうりゅうってワケじゃないし、到底、凄腕のスパイには見えないけれど、そんな彼らが、ブチ切れて、キレまくる、そのギャップが既に可笑しい。ツボなのだ。

特に威厳ある女王陛下なんかをいつもなら重厚に演じる名女優ヘレン・ミレンが、マシンガンを嬉しそうにぶっ放す画のイッちゃってる感。
いや、彼女に限らず、爺さんたちも、みんなが元気で、やたらと活き活きしている。
かつての敵は今日の友と、ロシアの老スパイまでもが手を貸して、現役世代に嬉々として対峙する。
老人特有ののんびりした可愛さと、激しいアクションのギャップ。友情と、愛。そして、ほとばしる馬鹿。

原作は僅か60ページばかりのグラフィックノベルらしいが、あの老人たちが暴れまわる続きを出来れば俺は、もう一度、見てみたい。

2011年1月22日土曜日

ソーシャル・ネットワーク/NARIZO映画レビュー

世界最大となったSNS“Facebook”を作ったマーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)は、かつての親友であり共同創立者だったエドゥアルド・サベリン(アンドリュー・ガーフィールド)とウィンクルボス兄弟との間で、それぞれ大きな訴訟を抱えていた。ハーバードの学生時代。
ガールフレンドのエリカ(ルーニー・マーラ)と別れた晩に腹いせと悪戯心でマークが立ち上げたサイト“フェイスマッシュ”はハーバード中の女子学生たちの写真を並べてランク付けするというものだった。そして、それが全ての始まりだった。


監督は「セブン」のデヴィッド・フィンチャー。彼が今回題材に選んだのは、世界最大のSNSの創業者で史上最年少で億万長者の仲間入りを果たしたマーク・ザッカーバーグのエピソード。登場するのも実在の人物たちだ。
ここで誤解する人も居るかもしれないが、これは、IT業界やインターネットサービスについて描いた作品ではない。まだ若く未熟さを残しながら、僅か数年で成功の階段を駆け上がった青年の苦悩を描いたドラマだ。
むしろ、“Facebook”やSNSについて何も知らなかったとしてもこの映画は楽しめるものになっている。

作品は終始これまで見たことの無いテンションで貫かれ、早口で膨大な量の台詞が飛び交う。その殆どのシーンは会話で、画的に興奮させるようなアクションは殆ど何も無いにもかかわらず、そのテンポに飲み込まれた観客は、あたかもその場に居合わせたかのような興奮を体験するコトになる。
まさに新しいアイディアが形になり、サービスとして成長していく過程の熱量が描かれる。
しかし、その反面の虚しさ、孤独も同じくらい強く描かれ、リアルで見応えある人間ドラマが展開する。
この辺り、デヴィッド・フィンチャーの卓越した演出センスが冴え渡っている。

若くして成功をおさめ、富を手中にし、世界最大のソーシャルネットワークを築いたはずのマークが、実は誰よりも友達が少なく、孤独で、全く幸せそうに見えない...真実はともかくとして、この作品の彼は一貫して孤独だ。
変化と成長の過程で何かを見失い、置いてきてしまったかのような、虚しさと寂しさで溢れている。
それが何なのか、一番、美しく描かれていたのがかつて、気まずく別れたガールフレンド、エリカであり、成功者となった彼がその彼女に友達申請を送るのをためらう、そんなシーンひとつとっても、これは間違いなくネット全盛世代のほろ苦くて痛い、青春映画なのだと思う。


2011年1月10日月曜日

アンストッパブル/NARIZO映画レビュー

ペンシルバニア州の操車場。運転士の操作ミスにより大量の可燃性化学薬品を積んだ貨物列車が無人のまま暴走を始めた。同じレールを機関車1206号で走っていたベテラン機関士のフランク・バーンズ(デンゼル・ワシントン)と若い車掌のウィル・コルソン(クリス・パイン)は、間一髪で正面衝突を回避。しかし、積載貨物の重量と、列車の速度で凶器と貸した機関車を停止させようとする鉄道会社の策は次々と失敗。機関車1206号の二人は暴走機関車を追跡し、最後尾に連結して、1206号のブレーキで停車させる最期の賭けに出る。2001年にアメリカで起きた列車暴走事故を題材に、「トップガン」のトニー・スコット監督が映画化。

 実話の映画化。文字通り、息をつく暇も無い99分。
熱い男気、カッコいいおっさん達、家族の絆、ライヴアクションに徹底的にこだわった映画史上初、実車両での転覆脱線シーン。間違いなくトニー・スコット監督、近年の最高傑作になったと思うのがこの「アンストッパブル」だ。

とにかく、その重量、圧倒的存在感と、迫力で、さえぎるもの全てを破壊し、暴走する機関車のすざまじさは、かつて経験したことの無い映像体験を与えてくれる。

リストラ直前のベテラン機関士と、家庭に深刻な問題を抱える新米車掌という、なんとも華の無い境遇のプロフェッショナルが、反目を乗り越えて暴走機関車を身体を張って止めに行く。
会社のためではなく、自分の大切な家族が待つ街を救いたいために無謀とも思える奇策の実行を決断する。

この作品が素敵なのは、キャラクターが魅力的で、かつドラマが適切に描かれていた点だと思う。
単に二人をヒーロー扱いするのではなく、むしろ問題を沢山抱えた普通の人間が危機を救うことになった、その背景となるエピソードをバランスよく盛り込んだ脚本の成果は大きく、感動的な「家族」の映画になっている。

加えて、見る者を選ばずに、熱くさせる演出からは、アクション映画の大家として知られる監督の経験と力量の大スパークを感じさせる。
色気は無いが、プロフェッショナルの格好良さが、題材だけでなく作り手からも伝わってくるような素晴らしい大作映画だ。
ライヴアクション万歳。



2011年1月1日土曜日

キック・アス/NARIZO映画レビュー

コミックヒーローに憧れる冴えないオタク高校生のデイヴ(アーロン・ジョンソン)は、とうとう自前のスーツを身に着け、身体を張ってヒーローになりきり始める。何の特殊能力も武器も持たない彼が、ボコボコにされながらも悪に立ち向かう姿はいつしか、ネット動画でヒーロー「キック・アス」として有名になっていった。
やがて、街の犯罪王フランク・ダミコに復讐を果たすため、犯罪と戦う父娘デュオ、“ヒット・ガール”(クロエ・グレース・モレッツ)と“ビッグ・ダディ”(ニコラス・ケイジ)に出会った彼は、本当の戦いへと巻き込まれていく。


 冴えない高校生が活躍し、成長する童貞コメディのオタクヒーロー版。設定の妙もあるが、展開もアクションもB級コメディとして甘く見ていたものが、いつの間にか真剣に見入ってしまうほどの素晴らしい出来。
キャスティングの方も、ブラッド・ピットがプロデュースしているだけあって、ニコラス・ケイジがまるでバットマンみたいな「ビック・ダディ」を演じていたりと、中々豪華。特に、「ヒット・ガール」を演じた若干13歳のクロエ・グレース・モレッツの殺人天使の様なキュートな凶暴性には目を釘付けにされた。勿論、特に目だった特徴も無い主人公のイタさや、かっこ悪さをコメディとして笑えるレベルで魅せつつ、終盤に向けて成長させることに成功した主役のアーロン・ジョンソンの自然体にもキラリと光るものかあった。
もしかしたら、この作品は5年後の映画スターをいち早くキャスティングしたコメディ映画として、記憶され続けることになるかもしれない。

冴えない駄目な少年が、判り易くとてつもない犯罪組織に立ち向かっていく極めてシンプルなストーリー。
作品は、アメコミへの愛とオマージュに貫かれつつも、余計な部分は一切なく、テンポも気もちよくて、判りやすい。久しぶりにブラックに味付けされた笑いと残酷の同居。リアルな痛さが笑いを誘う。
117分は、あっという間だ。
そして、アクションシーンは、アイディアからカット割まで完璧にカッコいい。
ヒーロータイツを履いたキモオタクのコメディ映画という偏見を捨てて、一級のアクション映画として広く多くのアクション映画ファンに見て欲しい。
そんな映画だった。