2013年5月1日水曜日

ラストスタンド

アーノルド・シュワルツェネッガーの「ターミネーター3」以来10年ぶりの主演復帰作。
 それだけで、もうどうであれご祝儀鑑賞だ。映画の日だし。(笑) 

シュワルツェネッガー演じるオーウェンズは元凄腕刑事ながら、多くの仲間を失った刑事生活に疲れて、平和な国境のど田舎で保安官として余生を過ごしている。
そこに脱走した麻薬王と、その手下どもが現れて、孤立無援の田舎町で、頼りない地元の保安官と多勢に無勢の闘いを繰り広げる。

 かつては辣腕だった老保安官が立ち上がるというプロット自体には、何の新鮮さも無いが、まぁ、それはいい。
しかし、その設定に真新しさは無くても、幾らでも面白いアイディアを用いることは出来たはずだ。

 しかしどうだろう、この余りにも大味な内容は。
 誰ひとりとして、魅力を感じられるキャラクターがおらず、シュワルツェネッガーと対峙する麻薬王にも、なんら悪の魅力が無い。
アクションにもまるで新鮮味はないし、FBIの指揮官を演じたフォレスト・ウィテカーなんて、いい役者なのにただの無能なデブでしかない。
決してつまらなくはない。
 退屈ではなかったし、眠くなったりもしなかった。
しかし、二度見たいと思えるような愛せる映画ではなかった。
どうせご祝儀鑑賞だから、たいして期待してなかったというのもあるが、これは、シュワルツェネッガーの復帰作という前振りに助けられただけの小品だ。
 最近の邦画の出来が、以前にも増して上がってきているだけに、見た目だけ派手で大味な作品の見劣り感を半端なく大きなものに感じるのだ。

と、思ったら監督は、キム・ジウンじゃないか。
 彼の作品は、韓国らしい義理人情を感じるものや、韓国製西部劇の「グッド・バッド・ウィアード」みたいに挑戦心にあふれたものが多かった。

しかし、この作品には人情も真新しさも無い。
ただ、どこかで見たような薄っぺらなパーツをかき集めて作ったようなアクション映画だ。
そんな彼の新作が、人生たった一度でもう充分のつまらない暇つぶしにしかならないだなんて、なんだか、余計に残念だ。
 

藁の楯

孫を無残に殺された経済界の大物。
逃亡中のその殺人鬼を殺したら10億円を支払うという新聞広告に殺気立つ人々と、自首してきた彼を警視庁まで移送する任務を受けたSPの息詰まる攻防戦。

 見ているこちらが殺意を抱きたくなるくらい(笑)、何処までも屑の様な殺人鬼 清丸国秀を藤原竜也が熱演。
彼を守る任務にあたるSPに大沢たかお、松たか子。
同行する警視庁の捜査一課刑事に岸谷五朗、永山絢斗。
引渡しもとの福岡県警刑事に伊武雅刀。
孫を殺され、清丸殺害に賞金をかけた経済界の大物を山崎努が怪演。

警察の内部含め、国民の誰もが信用できない状況の中、それぞれ心に傷を持つ刑事やSP達が、守る価値の見い出せない屑のための楯となり、一時も目を逸らせないドラマが展開する。

 この豪華演技陣を纏め上げ、邦画では類を見ない規模の市外ロケを敢行したのは鬼才・三池崇史監督。
 開通前の高速道路を警察車両の護送車列で完全封鎖、新幹線の車内・駅のシーンは台湾ロケで実現。
名古屋市内を封鎖してのラストシーンなど、本物の街と車両を使った逃走攻防劇が演技の火花散るドラマをより一層盛り上げる。
 製作・配給はワーナー。
 まさに世界標準、オリジナリティの強いサスペンスエンタテインメントに、唸らされた。 
誰も信じられない、驚愕と興奮のストーリー。
 さらに、びっくりしたのは、原作があの懐かしい「ビーバップ・ハイスクール」の木内一裕の小説だったということ。
 ネタばれは出来ないので、多くは書けないが、これはこのGWに是非、劇場で見ておくべき映画だ。
 

図書館戦争

国家によるメディア検閲が正当化された日本を舞台に、「知る権利」や「本を読む自由」を守るため図書館が自衛して国家権力と攻防を繰り広げる。

 有川浩のベストセラー小説が原作。
少し前にはアニメ化もされている人気の作品を「GANTZ」を実写化した佐藤信介監督の手で映画化したのがこの作品だ。

 資料収集の自由、資料提供の自由、利用者の秘密保持、全ての検閲への反対。

劇中に登場する宣言は、1954年に図書協会が定めた実際のもので、原作の有川浩はこれを命懸けで図書館が守ったら...という発想でこの物語を生み出したのだという。

 「本を焼く国家はやがて人も焼く」という台詞が出てくるのに代表されるように、全く架空の世界の物語でありながら、人々の無関心がやがて気付かぬうちに当たり前の自由を奪い、権力者の都合のよいような全体主義的な社会になってしまうかもしれないという強烈なメッセージに貫かれたこの作品は、思いの外、見応えがあった。

 原作の有川浩は自衛隊を中心に物語を描く事で有名な若手作家だが、むしろ国家権力の代表ともいえる自衛隊が、図書館を守る「図書隊」という架空組織を描くために映画に全面協力して、ただならぬ迫力をスクリーンに与えていることに少しばかり驚いた。
 しかしこれは、自衛隊が原作者の企画に好意的だという以上に、図書隊の信条が「専守先制」という自衛隊の根幹姿勢と立場を同じくしているからという理由が大きいかもしれない。

 とにかく邦画としてはかなり派手な戦闘シーンが展開され、この架空の世界にリアリティを与えている。 
加えて、主役の笠原を演じる榮倉奈々の健気さというか、図体のでかい体育会系純情乙女っぷりが半端なく可愛い。
 映画の日に見たとはいえ、これだけでもう1,000円の価値はあった(笑)。
 いまやジャニーズきってのアクション俳優 岡田准一の演じる堂上とのコンビは、微笑ましくもあり、「ベタ甘」な世界が見事に映像化されていた。

 終わってみれば、このコンビでの続編を見てみたい気になった。
だって榮倉奈々、可愛いんだもん。
 

舟を編む

この作品、周りが薦めてくれなかったらノーマークのまま見過ごすところだった。
 2012年度の本屋大賞で第1位に輝いた、三浦しをんさんのベストセラーの映画化。
 辞書の編纂に携わる人たちを描いた、和やかで静かな人間ドラマ。
 もちろん、ノーマークだっただけあって原作未読のまま、劇場へ。

意外に思われるかもしれないが俺は昔から辞書が好きだった。
 iPhoneになって、電子辞書として「大辞林」のアプリを入れてから、学生の頃以来、隙間の時間に何気なく辞書を読んだりするようになった。
これが結構面白いんだ。

それでは辞書はどんな風に作られているのだろう?

 おそらく大変な作業なのだろうという想像までは何となくつくものの、そこで何が行われているのかを詳しく知る機会はこれまでになかった。
 いや、正確に言うと、便利で当たり前にある「辞書」の作り方がどんなものであるのか、知ろうという気にさえなっていなかったのかもしれない。

この映画は実に静かで緩やかな語り口の中で、そこに携わる人々と辞書作りの過程を魅力的なドラマとして魅せてくれる。
 石井裕也監督の演出はゆったりした時間の流れを作りながらも、決して退屈させない魅力にあふれている。
そして辞書一冊の完成に15年もの歳月が掛かるということ、それは編集者にとって半生を賭けたビッグプロジェクトであることを観客の多くはおそらくそこで知ることになる。 

月日の中で、どこか頼りなげでぶっきらぼうの馬締光也(松田龍平)は、立派な編集者に成長する。
そして15年の歳月の中で変わったもの変わらないものが描かれる。
かぐや(宮崎あおい)との出会いと、結婚、全くタイプの違う西岡(オダギリジョー)との親交。そして大切な人の死。


この作品は、ぶっきらぼうで言葉数が少ない松田龍平よりも、根に熱い想いを隠しながら軽妙な台詞回しで軽いキャラを熱演したオダギリジョーの果たした役割が大きかった。

完成へ向けていよいよ一体感を増す編集室。

 全く地味。全く地味な話なのに、胸が熱くなる。
辞書編纂がカッコよく思える。
日本語の美しさ、難しさ、そして何より言葉はどんどん進化を遂げていくという現実を再認識させてくれる作品になっている。