2012年2月27日月曜日

顔のないスパイ

ワシントンで、ロシアと密接な関係を持つ上院議員が暗殺された。その手口から浮かび上がったのは、死んだとされていたソビエトの伝説のスパイ“カシウス”だった。CIA長官ハイランド(マーティン・シーン)は、かつてカシウスの追跡にキャリアを捧げていたポール・シェファーソン(リチャード・ギア)を呼び戻し、FBIの若手捜査官ベン・ギアリー(トファー・グレイス)と共に真相究明にあたらせる。

R.ギアのスパイ映画だって?大丈夫かな?と、本当のところ全く期待せずに鑑賞した一本。
しかし、これがどうして、中々に本格的なスパイサスペンスで、あっという間の98分だった。
原題が「The Double」だって時点で、この手のサスペンス好きだと、だいたい察しがつくわけだが、お決まりの二重スパイやら、どんでん返しやら。アクションよりもむしろシナリオで魅せてくれる作品。
ミッションインポッシブルなんかとは対極にあるオトナなスパイサスペンスだ。

意外にも中盤までで、カシウスの正体は観客に明かされてしまうものの、謎は謎のまま、終盤まで一気に走る展開に興味を惹き付けられる。
台詞が多くて、ちょっと目を離したら付いていけなくなりそうなスピード感。
強引な展開で騙し騙されする無理くりなサスペンスではなく、因縁や復讐というシンプルで共感できるテーマを主軸にしたのが、良かった。
これ以上はネタバレになりそうなので、ここまでで興味が湧いた方は、是非、劇場へ!!


2012年2月21日火曜日

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

9.11同時多発テロ。ワールドトレードセンターで父(トム・ハンクス)を亡くした少年オスカー(トーマス・ホーン)は、父の突然の死を受け入れられずに日々を過ごしていた。
ある日、彼は父の部屋のクローゼットで、花瓶を割ってしまう。
そして割れた花瓶から出てきた「Black」と書かれた封筒の中に1本の“鍵”を見つけた。
オスカーはその鍵に父親の面影を求め、鍵の謎を探すため、ニューヨーク中の「Black」さんに会ってみようと決意して、街へ飛び出した。


まだ2012年は始まったばかりだけど、今年最高の映画だった。
原作のベストセラーは未読だったけど、見終えた後、ネタバレに気を遣うことなく、みんなでこの作品について色んな話をしてみたくなる、そんな作品。

突然最愛の家族を失った混乱から立ち直れずに、触れただけで切れそうな危うさを抱えた少年が、街を走る。
トム・ハンクスの父親、母親にサンドラ・ブロック。
主人公オスカーを演じたトーマス・ホーンは、これだけ豪華な出演者たちと対等以上に渡り合い、喪失感にさいなまれた少年の混乱、素直であるが故の残酷さや、瑞々しさを見事に演じて魅せてくれる。
スティーヴン・ダルドリー監督が少年を描くのは「リトル・ダンサー」以来か。
この作品でもテーマになっているのは家族の絆だ。

父親との思い出、おばあちゃんの家で会った謎の間借り人、街で知り合った沢山の「Black」さんたち。

映画が語る沢山の出会いと記憶の中で、物語のピースが次第に観客の前で埋められていったとき、この奇妙なタイトル「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」の意味を俺はそこに感じ、隠されていた真実、普遍的な愛の大きさに、思わず涙した。

それはテロで引き裂かれた家族の特別な話ではなかった。
ありえないほど近くにあっても、直接は気付けないような愛情についての物語。
みなさんは、この作品から何を見つけるだろうか?



2012年2月18日土曜日

TIME タイム/若手の役者ばかりの安いSFドラマ

全ての人間の成長は25歳でストップする社会。唯一の通貨は「時間」。
限られた一部の富裕層が永遠の命を享受する一方で、圧倒的多数の人々の余命は23時間。
生き続けるためには、日々の重労働によって時間を稼ぐか、他人からもらう、または奪うしかない。
富裕層による寿命の一方的搾取の実態を知ったスラムの青年ウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)は、戦いを決意する。


格差社会の問題が深刻化するアメリカの現状を反映するかのようなテーマのSFアクション映画。
一部の富裕層が独占するのは富ではなく「時間」。貧者が生き残るには、搾取した時間を奪い返さなくてはならないという設定の下、階級闘争と大富豪の娘シルビア(アマンダ・セイフライド)との身分を越えた愛を描く...。
つまり、想像通りの展開で驚きも新しさも大してないSF作品。
なんだろう、この安っぽい展開は。だが、それでいて決して馬鹿映画の体にはなっていない半端な感じ。(笑)

ユニークなのは25歳で全ての人の成長が止まるために、25歳以上に見えるようなキャラが一切出てこないこと。
そのせいか、若手の役者ばかりで輪をかけて安いドラマを見ているような気にさせられた。
アイディアは悪くなかったのかもしれないが、ドラマ部分の魅力に欠けるものがあった様に思う。

2012年2月11日土曜日

ドラゴン・タトゥーの女/最初から最後まで、「完璧じゃね?」と思える完成度

記者ミカエル・プロムクヴィスト(ダニエル・クレイグ)はスウェーデンを揺るがせる財界汚職事件を告発したものの名誉棄損で敗訴。信用が失墜し、多額の賠償金支払いにさらされていた彼の元に、財閥ヴァンゲルの元会長ヘンリック・ヴァンゲル老人(クリストファー・プラマー)から家族史編纂の依頼が舞い込む。
しかしそれは表向きで、彼の真の目的は40年前に殺害されたとされる親族の娘ハリエットに関する真相究明だった。


あの不気味かつスタイリッシュな予告編を劇場で見てから、気になって仕方なかった本作。
間違いなく、久々に「映画を見た」満足感に浸れる秀逸なサスペンスだった。
原作は世界的なスウェーデン発のベストセラー「ミレニアム」シリーズ。
この3部作は元々映画化されていたらしいが、この第一部をハリウッドがデヴィッド・フィンチャー監督でリメイクしたのがこの作品。
シリーズとは言え、ちゃんと一本でストーリーが完結するので、最近多い、話の途中で続編へ続いて「おやつ」を取り上げられた感じを味わわせられることもない。

雪深く一本の橋で隔離された島に住む、怪しげな富豪一族。
次々と明らかになる未解決の殺人事件。
誰もが怪しく、陰鬱なこの島で、封印されていた事件の真実を社会から追われた記者が追う。
そのうえ出てくるキャラクターは変態ばかり。
何かが起きる予感、満々な内容なわけだが、名優ダニエル・クレイグを完全に喰ってしまう存在感で、観客を圧倒するのが、存在自体に緊張感と危険を匂わせるいわくつきの調査員リスベット(ルーニー・マーラー)。
中盤までストーリーの本筋に絡んでこないものの彼女こそが、作品タイトルにもなっている「ドラゴン・タトゥーの女」だ。
触れただけで、こちらが切られてしまいそうな雰囲気を醸しつつ、ストーリーの進行とともにその卓越した能力、異常性、そしてたまに見え隠れする女の子らしさで観客を虜にする強烈なキャラクター「リスベット」。
これを演じているのが実は、「ソーシャルネットワーク」で大学時代の主人公の彼女エリカを演じていたあの可愛い女優さんだとは到底気付かない。
アカデミーのノミネートも納得だ。

最初から最後まで、「完璧じゃね?」と思える完成度で、158分という長さを全く感じさせない衝撃作。
それだけにお願いだから監督を変えず、デヴィッド・フィンチャー監督、ルーニー・マーラー、ダニエル・クレイグの布陣のままで是非とも三部作全てを味わってみたい。


2012年2月7日火曜日

ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵

身の丈を超える長大な剣を自在に操る屈強な剣士ガッツは、ある日、傭兵集団“鷹の団”を率いるグリフィスと出会う。グリフィスは、己の夢の実現のためにガッツを団に引き入れ、やがてガッツとグリフィス、そして鷹の団の仲間たちは、数々の激戦を潜り抜け、固い絆で結ばれてゆく。

人気漫画「ベルセルク 黄金時代篇」を三部作とし映画化、2012年中に立て続けに公開するというSTUDIO4℃制作、窪岡俊之監督の野心的プロジェクト。

一気に観客を作品世界に惹き込む冒頭の戦闘シーンでは、城に殺到する兵士の視点から空を舞う鳥の視点まで、3DCG制作環境でこそ可能になった自在なカメラワークが戦場を駆け抜ける。
中世の戦いを再現した殺陣は、モーションキャプチャで演出され、打撃や斬撃で千切れる肉片などその表現もテレビアニメの基準では不可能な、リアリティを追求したものになっている。

注目なのは、3DCGで起こしたキャラクターの動きに、表情だけはアニメーターの手で2Dで作画するという技法が用いられていること。リアルで正確なキャラクターの動きだけでは、表現しきれない画による「感情表現」をCGを補う形で実現させたこの方法は、映画本編3作をまとめて、クオリティを重視しながらも効率よくプロダクションマネジメントすることを追求した結果のかなりユニークなアプローチだったのではないかと思う。

ところが、俺にはどうもこれが気になって仕方なかった。
2Dで作画されたメインキャラのすぐ脇や、後ろにいる兵士など「その他大勢」の表情はどれもマネキンのように生気が無く、同じ顔で、動きもどこか「ぬらぬら」としていて、ある程度の工数を掛けて描かれたキャラと並ぶと、同一シーン上のそのギャップが何ともキモチ悪かった。
どうやらこの手法。この作品においては、効率化、コスト削減の方向により大きく貢献する形で用いられたようだ。

作品としては、原作をほぼ知らない俺もついていける内容によくまとめられている。
少なくともその良さを台無しにしてしまうような映画化にはなっていないんじゃなかろうか。
映画ならではの音響は迫力あるし、平沢進の音楽に至っては言うことないくらい本当に素晴らしい。
声優陣もキャラにあっている。

言うなれば作品の世界観と人物紹介編と言えなくも無い本作は、最後に6月公開予定の次回作の予告で終わる。
続きを見てみたくなるのは間違いなく、魅力的な原作のチカラによるものだろう。
色々書いた気がするけど、次回作、楽しみ。

2012年2月1日水曜日

ALWAYS 三丁目の夕日’64/ そろそろ飽きてきた

「ALWAYS」も今回で3作目。舞台は東京オリンピックに沸く1964年。
鈴木則文(堤真一)とその妻・トモエ(薬師丸ひろ子)、一人息子の一平(小清水一揮)、住み込みで働く星野六子(堀北真希)、そして小説家の茶川竜之介(吉岡秀隆)、ヒロミ(小雪)と、高校生になった古行淳之介(須賀健太)。
シリーズを通じて既におなじみのキャラクターと、昭和のノスタルジーにひたり、ご近所付き合いや人と人の触れ合いにほっこり出来るのはこのシリーズ最大の魅力だろう。
高度成長を遂げ、国全体が高学歴や高収入を目指す時代を背景に、展開されるドラマは、しかし作品が公開されている2012年の世相を反映して出世競争とは違った形の「幸せ」や「絆」について語って見せる。
とは言えノスタルジーと人情ドラマの繰り返しに、そろそろ飽きてきたのも事実。
シナリオも1作目を超える感動をもたらしてはくれず、回を重ねる毎に失速している。
箱庭のような「3丁目」の世界は「北の国から」の様には広がりようもないし。この平凡な昭和の世界の再現を敢えて3Dで見ることに意味を感じるかについても意見は分かれそうだ。