2009年11月2日月曜日

沈まぬ太陽/ NARIZO映画レビュー

国民航空の労働組合委員長を務めた恩地元(渡辺謙)は、報復人事で不遇のビジネスマン人生を送っていた。一方、組合副委員長だった行天(三浦友和)は、出世街道を歩み、二人は対立していく。単独機の事故として史上最悪の死者を出したジャンボジェット機墜落事故を軸に、腐敗した企業の人間模様を描いた山崎豊子原作の長編小説の映画化。

 日本航空をモデルにした原作が物議をかもし、映像化の話が持ち上がっては頓挫してきた山崎豊子原作の長編「沈まぬ太陽」は、3時間20分を越え、間に10分間のインターミッションを挟むほどの大作になった。
原作発表の段階から、取材に偏向があるなどとして一時期、週刊新潮の機内取り扱いを止める等、激しく反発していたと伝えられる日本航空は、映画化にあたっても、あからさまに不快感を示していた様で、ビジネス的に相当な逆風の中で企画を成立させ、この尺に原作のエッセンスをまとめあげた製作陣の苦労が偲ばれる。

つまり、実話を基にしたフィクションとはいえ、それだけリアリティに溢れ、センシティブなテーマに切り込んだ作品。日本航空が再び経営の危機に瀕しているこの時期に、映画が公開されるというタイミングも結果として絶妙な感じがする。(笑)
テレビ局出資の「売らんかな」な邦画ではなく、売り辛いテーマに正面向かって取り組んだ作品としても興味深かった。
そして俳優女優陣は、まさしくオールスターキャスト。
とりたて主役の恩地を演じた渡辺謙には気迫を感じた。
見終えてどっと疲れるが、長いとか、退屈さは感じさせない見応えのあるドラマになっている。

御巣鷹山に国民航空の123便が墜落する展開を冒頭にもってきて、それを核に描かれる巨大企業の腐敗。
国が出資している航空会社であるが故の官僚や政治家との癒着。
安全と引き換えに疲弊していく労働環境や、現場など...3時間超の長尺でも描きたい事は多く、描き足りていない部分も多い。個人的にはカラチ〜テヘラン〜ナイロビと左遷されまくる恩地を描いた部分を少し削ってでも、墜落事故から国見会長による経営改革部分を厚く掘り下げて欲しい物足りなさは残った。

それでも、若松監督の情熱と多くのキャストの熱演に支えられ、単なる原作のエッセンスのダイジェストとは言い切れない、重厚なドラマになっている。
しかし、重厚すぎて久々映画にあたって疲れた感じ。
ハッピーエンドに慣れた観客が、3時間を越えて映画に没入しても、最後にご褒美的な爽快感や幸福感を与えては、もらえないのだ。沈まぬ太陽を魂に宿して不条理に対する恩地の戦いはまだ、続いている(笑)。

恩地が闘ってきた目に見え辛い企業や政治の不条理は、いよいよ、経済成長に陰りが見えているこの国において、表面化してきている様に思う。その空気感に薄々気付いているから、80年代を描いたこの作品に俺は「古さ」を感なかったのかもしれない。

考えさせられる作品になっている。



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