2012年5月22日火曜日

ヘルタースケルター/沢尻エリカはリアルにリリコだった

芸能界の頂点に君臨し、人々を魅了するりりこ(沢尻エリカ)。
しかし、彼女の美貌は全身整形。「目ん玉と爪と髪と耳とアソコ」以外はすべてつくりものだった。
整形手術の後遺症が身体を蝕み始める中、美容クリニックの隠された犯罪を追うもの達の姿がちらつく。
結婚を狙っていた御曹司は別の女と婚約。さらにはトップスターの座を脅かす後輩モデルの登場。
究極の美の崩壊と、頂点から転落する恐怖に追い詰められたりりこは、現実と悪夢の狭間で滅茶苦茶に疾走する。


スキャンダラスに剥き出しの欲望が渦巻き、美しく在り続けることにのみ自らの存在意義を見出せるトップスターの転落と崩壊を描くこの作品。
いつか失われる「美」への恐怖。いつか「消費」され尽くし、「忘れられる」ことへの恐怖。
そして消費する大衆の「無責任」。そんなテーマの重さに正面から向き合いつつ、ポップな極彩色に彩られた蜷川実花の演出は、哀しくもポジティヴにストーリーを紡いでいく。

スキャンダラスでタブーな匂いが漂うセンセーショナルな作品。
話題だけで中身のヌルい、よくある漫画原作映画とは一線を画した野心作だ。

「美」意識を強く求められる世界でクリエイターとしての顔を持ち、まさに世間の欲望を体現した虚飾と儚げな世界の創り手の1人でもある女性監督-蜷川実花だからこそ語りえた物語がそこには広がっていて、一気に惹き込まれる迫力がある。
ヌードシーンやベッドシーンについても話題だが、扇情的というよりは美しく、そしてどこか哀しげだ。
大胆でありながらも原作の世界観に忠実な金子ありさの脚本も、漫画原作という難物を克服し、新たな価値を創造している。

 最近は専ら芸能ニュースの話題でしか名前を聞く機会が無かった気がする沢尻エリカ。
しかし、このキャスティングは話題づくりだけのものではない事を作品を見れば思い知るだろう。
この作品は、彼女が優れた「女優」だったことを思い出させてくれる。
沢尻エリカのイメージと皮肉なくらい重なるリリコという強烈キャラクター。
この作品の沢尻はリリコそのものだ。美しく痛々しいリアルなリリコを観客は目撃することになる。

また、事務所の社長を演じる桃井かおりや、マネージャーの寺島しのぶ。
検事の大森南朋、後輩モデルの水原希子、整形医の原田美枝子など脇を固めるキャスティングも豪華で曲者揃い。
こうなると唐突な感じのテーマソングが浜崎あゆみ(しかも昔の曲「evolution」)なのも、もしかしたら消費される音楽の代表ってコトなのかと勘繰りたくなる。

多くのファッション雑誌や広告が、作中から現実にリンクする仕掛けを初め、それらのビジュアルを写真家としての蜷川実花が撮りおろすなどマーケティング的にも野心的な試みに溢れ、公開時期の7月に向けて非常に展開が楽しみだ。


2012年5月20日日曜日

ロボット/あの「ムトゥ 踊るマハラジャ」のラジニカーントが無敵のロボットに!(笑)

天才工学者バシー博士(ラジニカーント)はついに自身にそっくりな究極の二足歩行型ロボット、チッティ(ラジニカーント・2役)を生み出した。
だが人間の感情をも理解するようプログラムされたチッティは、バシー博士の恋人サナ(アイシュワリヤー・ラーイ)に恋をしてしまう。
バシー博士の怒りを買ったチッティは遂には廃棄処分にされてしまうが、博士の恩師にしてライバル工学者の手によって改造。無敵のターミネーターと化してガンガン自分を量産、サナを拉致して人間たちに反旗を翻す。


この作品のインパクトたるや他に類を見ない。
先ず、インド発のSFアクション大作であること。
しかも、特撮部分は「ターミネーター」で有名なスタン・ウィストンの遺作。
あの「ムトゥ 踊るマハラジャ」のラジニカーントが無敵のロボットを演じる。
オープニングからタイトル以上に派手に「スーパースター ラジニカーント」って出る。
もう、それだけで別格扱いすぎて笑える。
インド映画だから当然、踊る。突然踊る。張りぼてな豪華さで、沢山出てくるダンサー間でイマイチ踊りが合ってないけど関係ない。
やり過ぎ大袈裟、馬鹿炸裂のアクションは、「少林サッカー」や「カンフーハッスル」に通じるノリ。
ストーリーは単純だけど、上映時間139分。これでも日本公開用に短く編集しました。

これでピーンと来た方は、是非劇場へ。
ピーンと来なかった方は、一生見る必要の無い映画です(笑)。

では、ピーンと来るか来ないか、とりあえず予告編をご覧ください。
ちなみに俺はこういうの大好きです。見るのは一度でいいけどね。(笑)


ダーク・シャドウ/とにかく女優陣が豪華で楽しいカルチャーギャップ・ホラーコメディ

コリンズポートの町の裕福でプレイボーイなバーナバス(ジョニー・デップ)は、使用人のアンジェリーク・ボーチャード(エヴァ・グリーン)を失恋させる。
しかし実は魔女であった彼女は、バーナバスの婚約者を呪いで殺し、さらにはバーナバスをヴァンパイアに変え、生き埋めにした。
二世紀の後、棺は工事現場で掘り起こされ、バーナバスは眠りから覚めた。
しかし、かつて壮大で華々しかった彼の土地はすっかり朽ち果て、さらにコリンズ家の末裔は土地同様に落ちぶれ、それぞれが暗い秘密をひたすら隠して生きていた。
バーナバスは、亡父の「唯一の財産は家族だ」という言葉を胸にコリンズ家の復興を目指すのだが……。


ティム・バートン監督×ジョニー・デップの8度目のタッグ作品。
もう、ティム・バートン監督のユーモラスで不気味で毒のある世界に、顔を白塗りにしたジョニー・デップという組み合わせはマンネリだよねと思いつつも、今回は、お馴染みのヘレナ・ボナム=カーターだけじゃなく、エヴァ・グリーンに、迫力たっぷりに老けたミシェル・ファイファーそれに「キックアス」以降、みるみるオンナになっていく注目株クロエ・グレース・モレッツなどとにかく女優陣が豪華で楽しい。

特に今回のヒロイン、ヴィクトリア役のベラ・ヒースコートって女優さんは全然知らなかったんだけど「コープス・ブライド」や「ナイト・メア・ビフォ・クリスマス」のヒロインにどこか通じる薄幸そうな美貌で、バートン監督のタイプなんだろな多分...とか、勝手な想像が膨らんだ(笑)。

作中しばしば語られる「血は水よりも濃い」という表現に在るように、これは代々呪われてきた一族が、呪いの元凶で代々一家を呪い続けてきた魔女と対峙する話であり、ブラックで笑える味付けだが、時代を超えた適わぬ恋の物語になっている。

ゴシックなバンパイアがカルチャーギャップに苦しむ様は、見ていて面白いし、敢えて2012年ではなく、1970年代に舞台設定してあるのもユニーク。
血に飢えていることに自責の念があり、心から一族の繁栄を願っていて、出来れば人間に戻りたいバーナバスは何処と無く「妖怪人間ベム」みたいな愛すべきキャラクターだ。

アニメ以外のティム・バートン作品の中では、この5年を代表する作品だと思う。


2012年5月6日日曜日

「宇宙兄弟」/マーケティングの勝利?

「二人で宇宙飛行士になる」幼い頃に兄弟で交わした約束を果たし、宇宙飛行士となった弟・ヒビト(岡田将生)。会社をクビになり無職となった兄・ムッタ(小栗旬)は、ヒビトからの1本の電話をきっかけに、再び宇宙を目指し始める。
やがて日本人初にして最年少で宇宙へと飛び立ったヒビトをアクシデントが襲う..。


漫画原作の邦画が次々と公開されてはヒットする中、近年、稀に見る熱い漫画「宇宙兄弟」の実写化の話には、当初、大丈夫かよと思わずには居られなかった俺。

ムッタに小栗旬というのもイメージ沸かず、製作のニュースが届いた時点では「?」だらけだったこの作品も、テンションの上がる予告編が劇場で流れ始めると麻生久美子の「せりか」さんなど、脇役までふくめて「おお、なんか意外にもこのキャスティング、イメージ通りかも!」と、いつしか公開が待ち遠しくなる程になっていた。

実際、東宝映画が制作する久々の超話題作だったし、公開前にはテレビアニメの放送も日曜朝に始まったりして、最高の状況で初日を迎えたんじゃなかろうか。
その証拠に劇場はかなりの入りで、おそらく狙い通り、小さな子供連れ家族の姿を多く見掛けた。

宇宙開発の歴史をCGでコラージュしたカッコいいオープニングに始まり、全編、気合の画作りと本物の施設を借りてのロケーション撮影でこれまでの邦画には無いリアルで熱い宇宙の話が展開されていく....はずだった。


しかし原作漫画のいい部分、月に到着したヒビトを襲うアクシデントと兄弟愛、そして生還と、本来なら劇中で一番の見せ場になるはずだったくだりがすっぽり抜け落ち、130分近い尺でひっぱってきたものを最後の数分で強引にまとめあげようとした大森美香の脚本は、苦しみぬいた痕跡を感じる一方で、そりゃねえだろという感想を禁じえないものになってしまっていた。

最初から脚本ってああだったんだろうか?
森監督がやりたかったのは、本当にこれだったんだろうか?(笑)

結果として、途中で性急かつ乱暴にやっつけられた様な印象になってしまった作品は、終盤、まるで別の制作者によるもののようだった。

劇場の入りは、マーケティングの勝利だ。
でも、映画としては残念ながら破綻している。


2012年5月2日水曜日

テルマエ・ロマエ / 異色コミックの素敵な部分をイメージ通り、見事に実写化

古代ローマの浴場設計技師ルシウス(阿部寛)は、公衆浴場で溺れ突然、現代日本の銭湯にタイムスリップ。そこで出会ったのは、漫画家志望の真実(上戸彩)たち“平たい顔族”(日本人)だった。
日本の風呂文化に衝撃を受けたルシウスは古代ローマに戻ると、そのアイデアを利用して大きな話題を呼び、やがてはハドリアヌス帝(市村正親)からも風呂作りを命じられる程の成功を収めていく。
風呂で溺れてタイムスリップを繰り返すたびに、現代日本から持ち帰った衝撃的風呂文化をローマの風呂作りに持ち込んで、浴場技師としての名声を得ていくルシウスだったが....。


よくもまぁ、こんなアイディアを思いついたよなぁと、読んで感心したヤマザキマリのコミック「テルマエ・ロマエ」を原作に、なんと阿部寛、北村一輝、宍戸開、市村正親ら濃い顔の日本人キャストたちが、イタリア人に混じって何の違和感も無く古代ローマ人を熱演。
市村正親なんかはもともとミュージカル出身の演劇人だから、外国人的身のこなしもバッチリで見事な皇帝ぶり。北村一輝なんて、もうローマの彫刻にありそうな風貌だ(笑)。

加えて、イギリスの大作ドラマ「ROME」で使ったチネチッタの巨大オープンセットが流用されていて(このドラマにハマってた俺としては、物凄く懐かしい風景がそこに!!)、本場の迫力に本気で作ったなかなか野心的なカルチャーギャップコメディなのである。

凄く気合入れて画作りしているローマのシーンに対して、タイムスリップのシーンは、そんなところに、世界三大テノールのひとり(プラシド・ドミンゴ)を使うなよという豪華さと、あえてのチープさを取り混ぜた奇跡の演出(笑)で馬鹿馬鹿しいほどにコミカル。
タイムスリップした日本の露天風呂のシーンでは、俺も大好きな伊豆の大滝温泉のあの画になる滝壺の脇の露天が何度も出てきたり、久しぶりにCM以外で上戸彩のコメディエンヌ振りが見られたりと非常に楽しかった。

異色コミックの素敵な部分をイメージ通り、見事に実写化したこの作品。
見終えると、あったかい風呂に入りたくなると同時に、当たり前に思ってた日本の風呂文化の素晴らしさに、改めて気付かされます。