2012年12月31日月曜日

レ・ミゼラブル

今年を締めくくる最後の映画に選んだのは「レ・ミゼラブル」。

 キャメロン・マッキントッシュによって創り出されたこのミュージカルは85年の初演以来、世界43か国で上演。
学生時代の大半を日本版を何度となく上演してきた帝国劇場で過ごした自分としては、特別な思い出のあるミュージカルだったりする。
それだけに映画化の話は、若干不安だったのだが、次第に予告編を劇場で目にするようになって、傑作が生まれた事を確信した。

 ミュージカルはちょっと....。
俺もこの作品に初めて出会ったときは、そう思った。
しかし、ミュージカルについて食わず嫌いで、仕事の上で仕方なく見たはずの俺を物語に惹き込ませたあのステージの興奮が、映像の力でさらに大きくなって、スクリーンに完全再現されている。
ほぼ全編、歌でストーリーが紡がれ、魂を揺さぶる重厚な物語。
 究極にガチなミュージカル映画になっていた。

 監督トム・フーパーと製作のキャメロン・マッキントッシュがこだわったのは、すべての歌を実際に歌いながら、生で収録する撮影方法。
つまり、ステージさながらのライヴ感と感情に載せて歌が歌われる。
 ジャン・バルジャンをヒュー・ジャックマン、彼の宿敵ジャベール警部がラッセル・クロウ。
ファンテーヌにアン・ハサウェイ。
コゼットがアマンダ・サイフリッド。
 エポニーヌのサマンサ・バークスは舞台版のオリジナルキャストと、非常に豪華。
全員歌える歌える。
 名曲「On My Own」のせつなさも「Do You Hear The People Sing」の熱情も、とにかくステージと同じ。
いや、それ以上にエキサイティングで、とにかく熱かった。

 数多くの登場人物、台詞がほぼ全部歌。
複雑なストーリーと時代背景。
これを150分あまりで何処まで再現できるのか、ステージ版だって、ぶっちゃけ歌に載った台詞が聴き取りにくくて、一度見たくらいでは意味わからない部分いっぱいあったし..。
そのあたりが映像化でどうなるのかは、いちばん重要で、興味深いところだった。
しかし、この映画は完璧だった。
むしろ映像化により字幕で歌詞が追えることによって、ストーリーの把握は容易になった。
初めて作品に触れる人にもとっつきやすい。これは舞台版にない魅力だ。
 映画企画側の期待通りだと思うが、映画から興味を持って、舞台を見に行く新たなファンが生まれる予感がする。
 またシンプルな装置で観客にパリを想像させていた舞台版と異なり、映像の広がりから、その時代のパリの空気を感じることができるのも、映画の魅力。

 バルジャンが天に召され、先に死んでいった者達に迎えられるラストから、ステージならカーテンコールにあたるくだりは、映像ならではのカタルシスにあふれ、思わず拍手をしたくなった。

 あらゆる意味で、ミュージカル映画の歴史に残る、王道的な作品の誕生。
 この先、何度となく見てしまいそうだ。
 最後に劇場予告編と、本作の「On My Own」。 そして、日本版キャストで唯一、最高のエポニーヌとして、エリザベス女王の前でも歌った島田歌穂の「On My Own」を貼っておく。

この年末年始に是非、劇場へ!

■予告編


■予告編「On My Own」/サマンサ・バークス


「On My Own」/島田歌穂


2012年12月16日日曜日

フランケンウィニー

いつまでもコドモのココロを忘れない。
そんな一握りのクリエイターの作品は、凄く魅力的だ。 ティム・バートンは間違いなくその手の監督のうちの一人。

その昔、実写短編で撮ってお蔵入りになった苦い経験のある題材「フランケンウィニー」を彼は再びディズニーで、しかもモノクロクレイアニメでの3D撮影と言う野心的手法で長編映画化した。 

主人公の少年ヴィクターは、引きこもりがちの変わった少年で、ティム・バートンそのものと言っていい存在。
大好きなペットの犬。死んでしまったけど彼との幸せな暮らしが、ずーっと続いたらいいのに。

 ティム・バートンは自分の子供の頃の犬との思い出と、かなわぬその想いをこの題材にぶつけている。
舞台となる街、ニューオランダは、風車が丘の上に建つ郊外の住宅街。
 郊外の街に風車小屋。最後は風車小屋で対決と言う設定は、彼の多くの作品で見掛ける展開だが、モチーフになったのは監督が育った街、かつてのバーバンクだと言う。

 ヴィクターの愛犬スパーキーは、作品の殆どの時間、愛くるしいゾンビ状態なのだが、生前にもまして活き活きしている(笑)。
 決して、飼い主のことは裏切らないし、いつまでも良き友達で居続ける。
 一方、雷の電流でスパーキーが蘇った事を知ったクラスメイト達が、彼を真似て蘇らせてしまったものは、全て、邪悪で危険。
 子供時代に苛められっ子だったという、監督のこれはちょとした復讐か。

 日本の怪獣映画が大好きな監督らしく、今回は「ガメラ」もどきが登場するし、こそっと日本のキャラクター「キティ」ちゃんの墓らしきものが登場したりと、ちょくちょく遊びが見つかるのも大きな魅力。   
ブサ可愛いゾンビ犬をこんなに愛すべき存在として描けるのは、世界でも間違いなく彼くらいのものだろう。 それ以前に、他の監督はそんな題材選ぼうとしないと思うけど。

モノクロの陰影が非常に美しく、ゾンビ犬の話なのに、ほっこりする映画。
 クリスマスシーズンに、こんな映画も良いよね。
 

2012年12月15日土曜日

ホビット 思いがけない冒険

ホビット族のビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)は魔法使いのガンダルフ(イアン・マッケラン)に誘われ、13人のドワーフたちと共に、恐るべきドラゴン“スマウグ”に奪われたドワーフの王国を取り戻すという危険な冒険に加わる。


 ピーター・ジャクソン監督が、「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の前日譚にあたる「ホビット」をやはり3部作で製作。
その第1弾となるのが本作だ。 上映時間は170分。これは長い。
けど、実際のところ全然「長さ」を感じなかった。
 3D映画化されたミドルアースは美しく、山河や奇怪な森の深部、そしてもちろん戦闘シーンに至るまで、その映像体験は興奮の連続で、愛すべきキャラクターと共に過ごす時間はあっという間に過ぎた。
 シリーズの導入部として「ロード・オブ・ザ・リング」の1部「旅の仲間」と比較しても、この作品のテンポは非常に良いし、そもそもストーリーは、それ以前を描いているから、むしろ「ロード・オブ・ザ・リング」見たことない人に薦められる内容になってる。
 この冒険はホビットではなく、ドワーフたち中心の物語だが、なぜドワーフはエルフと仲が悪くなったのかなど、「ロード・オブ・ザ・リング」で台詞の中でしか語られることがなかったエピソードが、サルマン(クリストファー・リー)や、エルロンド(ヒューゴ・ウィーヴィング)といったお馴染みのキャラクターを交えて描かれる。
 そして、平和だったはずのミドルアースに、邪悪が影を落としつつある様と、ビルボが例の「指輪」に出会うエピソードが描かれ、続きに対する期待をものすごく煽る形で終わる。

いやぁ、ホント、早く続きが見たい!!

 さて、国をあげてこのシリーズへの制作に協力しているニュージーランド。 
今回は「ホビット」の予告編に加えて、「ホビット」とタイアップで作られたニュージーランド航空機内安全ビデオも貼っておく。 良いな。こんな飛行機乗ってみたい。(笑)


2012年12月9日日曜日

砂漠でサーモン・フィッシング

中東情勢が悪化し、首相広報担当官のマクスウェル(クリスティン・スコット・トーマス)が、英国への批判をかわすための話題作りのためにイエメンの大富豪シャイフ(アムール・ワケド)の鮭を泳がせて釣りをするというプロジェクトに白羽の矢を立てる。
 顧問に選ばれた水産学者のアルフレッド・ジョーンズ博士(ユアン・マクレガー)は、呆れるばかりだったが、今の給料の倍の報酬を提示されて、しぶしぶ承諾する。
 シャイフの代理人で投資コンサルタントのハリエット・チェトウォド=タルボット(エミリー・ブラント)とジョーンズそして、シャイフ。
荒唐無稽に思えたその計画はやがて芽生えた友情と共に、英国政府の後ろ盾の下、次第に現実感を帯びていく。 


 ベストセラー原作の映画化ということだが、とにかく脚本が素敵だ。
と、思ったら書いたのは「スラムドックミリオネア」で完璧な純愛と大人向けの寓話を魅せてくれたサイモン・ビューフォイだった。
 荒唐無稽な話だが夢や友情や、あきらめない気持ちを思い出させてくれる。
この作品もまた、現代の御伽噺なのだ。

 この作品に登場するのは、善人ばかりではないが、いずれも憎めない魅力的なキャラクターばかり。
 最初は計画を馬鹿にしていたジョーンズ博士が、次第に目覚め、夢を追い始めるまでに変わっていくのに同期するように、観客もプロジェクトの成功をまるで「プロジェクトX」を見ているみたいに応援するようになっていく。
 大作映画に比べれば凄く地味な題材に思えるのだが、この作品はドラマとして非常にエキサイティングだし、見終えたときに言いようない幸福感や爽快感に包んでくれる。
実に魅力的だ。
 政情不安や、戦争、過激派が登場したりと、複雑な中東情勢を盛り込みつつ、荒唐無稽なプロジェクトが推進される様を描いているが、全編にブラックユーモアや笑いの要素が散りばめられている。 
政権の支持率のためなら、あらゆる手段を使う広報官と首相とのメッセンジャーでの毒たっぷりのやり取りをしばしば挿入したり、本業以外のことにはまるで不器用なジョーンズをユアン・マクレガーが、ぴったりな感じに演じたりして、コトあるごとにいちいち、くすくす笑えるのだ。 

純粋で夢想家の富豪は、キャラクターとして物凄く魅力的で、ヨーロッパから見たステレオタイプな中東ではなく、同じ尊敬しあえる友人同士として、この作品は中東を描く。
 コメディであり、御伽噺であり、ほろ苦さもある、オトナの純愛ドラマになっていて、何より夢にあふれた作品なのだ。 釣りに全く興味のない俺が、こんなにも「釣り」を素敵に感じるだなんて(笑)。
 今年は映画の当たり年だから、大作の影に隠れてしまうかもしれないけど、そんなのは勿体無い。
 地味だけど、元気がもらえる一本だ。
 

2012年12月3日月曜日

007 スカイフォール

あらゆる意味で007の50周年に相応しい作品。
 007が描いてきた伝統的なスパイ映画のローテクな設定に愛情を捧げつつ、新時代のアクション映画に挑戦しようと言うメッセージが強く伝わって来た。

 この作品でボンドは一度死に、蘇る。
 M(ジュディ・デンチ)と共に組織に頼らずに闘い、まるで自分と合わせ鏡のような元凄腕諜報員の敵と対峙する。

古風な方法論を好むボンドにしつつ、冒頭からアクションシーンはど派手で143分の長尺を感じさせないテンポでストーリーが進む。

 ボンド映画らしく世界中でロケを敢行し、今回は悪役の根城のデザインに、なんと長崎の軍艦島が登場したりするあたりも楽しい。
新しいQの登場や、Mとボンドの関係なども含めて、50周年を迎えたシリーズが、今後も益々進化し、続いていくであろう期待を抱かせる内容。
 この作品は新しい「007」シリーズの起点にするくらいの気概で作られているのだ。

 しかし、ダニエル・クレイグのボンドは、つくづく史上最高に野生的だね。
女子のシャワールームに忍び込むとか、ボンドお馴染みのスケベ紳士っぷりを発揮しても、単なるエロ親父には見えない。
この辺り、歴代ボンドとは明らかに違うと思うのだ(笑)
 

人生の特等席

家庭を顧みない、メジャーリーグで名スカウトマンのガス(クリント・イーストウッド)。 
五感の全てを使って選手を発掘してきた彼だったが、今や後輩のスカウトは専らデータ重視で球場に足を運ぶこともなく、パソコンを使えない彼を馬鹿にしていた。
一方、ガスはこのところ視力が衰え、失明の危機にあることを伏せて仕事をしていた。
 父との間にわだかまりを感じ続けてきたひとり娘のミッキー(エイミー・アダムス)は、そんな父の異変に気付き、スカウトの旅に同行する。


 「野球」が壊れかけの「家族」の関係を修復し、「旅」を通じて、父と娘が絆を確かめ合う。
「野球」に「家族」に「ロードムービー」ときた!!
アメリカらしいテーマが三拍子そろったイーストウッド4年ぶりの主演作。
 監督はイーストウッドの映画製作に20年間携わってきたと言うロバート・ロレンツ。これが初監督作品だ。 
無骨なイーストウッドは、佇んで居るだけでも何かを語ってしまう。
 目と耳で、選手の素質を見抜いてきた伝説的スカウトと、選手を見に行く事もしないIT野球スカウトとの価値観のぶつかり合い>
頑固な老兵イーストウッドの魅力は全開だ。 

弁護士先生としてキャリアを築いている娘が、反目しながら父との時間を通じて忘れていた想いを強めて行くというのがこの作品の主題。
視力を失いつつあるという、スカウトとしては致命的な設定を通じて、弱さを見せなかった父の衰えを娘は知る。
親子関係の「触媒」として「野球」が重要な役割を果たす。
 はっきり言って展開を読める作品なのだけど、それだけに、何もわかっていない小僧どもに一泡吹かせるイーストウッドの演技は痛快。
そしてポジティブで気持ち良い作品だ。
 映画ならではのご都合も含めて楽しめる。
地味だけど、心温まる良質なドラマだ。
そして、久しぶりに「野球」を見に行きたくなった。