2012年12月9日日曜日

砂漠でサーモン・フィッシング

中東情勢が悪化し、首相広報担当官のマクスウェル(クリスティン・スコット・トーマス)が、英国への批判をかわすための話題作りのためにイエメンの大富豪シャイフ(アムール・ワケド)の鮭を泳がせて釣りをするというプロジェクトに白羽の矢を立てる。
 顧問に選ばれた水産学者のアルフレッド・ジョーンズ博士(ユアン・マクレガー)は、呆れるばかりだったが、今の給料の倍の報酬を提示されて、しぶしぶ承諾する。
 シャイフの代理人で投資コンサルタントのハリエット・チェトウォド=タルボット(エミリー・ブラント)とジョーンズそして、シャイフ。
荒唐無稽に思えたその計画はやがて芽生えた友情と共に、英国政府の後ろ盾の下、次第に現実感を帯びていく。 


 ベストセラー原作の映画化ということだが、とにかく脚本が素敵だ。
と、思ったら書いたのは「スラムドックミリオネア」で完璧な純愛と大人向けの寓話を魅せてくれたサイモン・ビューフォイだった。
 荒唐無稽な話だが夢や友情や、あきらめない気持ちを思い出させてくれる。
この作品もまた、現代の御伽噺なのだ。

 この作品に登場するのは、善人ばかりではないが、いずれも憎めない魅力的なキャラクターばかり。
 最初は計画を馬鹿にしていたジョーンズ博士が、次第に目覚め、夢を追い始めるまでに変わっていくのに同期するように、観客もプロジェクトの成功をまるで「プロジェクトX」を見ているみたいに応援するようになっていく。
 大作映画に比べれば凄く地味な題材に思えるのだが、この作品はドラマとして非常にエキサイティングだし、見終えたときに言いようない幸福感や爽快感に包んでくれる。
実に魅力的だ。
 政情不安や、戦争、過激派が登場したりと、複雑な中東情勢を盛り込みつつ、荒唐無稽なプロジェクトが推進される様を描いているが、全編にブラックユーモアや笑いの要素が散りばめられている。 
政権の支持率のためなら、あらゆる手段を使う広報官と首相とのメッセンジャーでの毒たっぷりのやり取りをしばしば挿入したり、本業以外のことにはまるで不器用なジョーンズをユアン・マクレガーが、ぴったりな感じに演じたりして、コトあるごとにいちいち、くすくす笑えるのだ。 

純粋で夢想家の富豪は、キャラクターとして物凄く魅力的で、ヨーロッパから見たステレオタイプな中東ではなく、同じ尊敬しあえる友人同士として、この作品は中東を描く。
 コメディであり、御伽噺であり、ほろ苦さもある、オトナの純愛ドラマになっていて、何より夢にあふれた作品なのだ。 釣りに全く興味のない俺が、こんなにも「釣り」を素敵に感じるだなんて(笑)。
 今年は映画の当たり年だから、大作の影に隠れてしまうかもしれないけど、そんなのは勿体無い。
 地味だけど、元気がもらえる一本だ。
 

0 件のコメント: