2013年3月16日土曜日

クラウドアトラス

俺は、客席で静かに感動し、しばらく余韻に浸っていた。

3時間近い大作だが、まるで時間の長さを感じさせなかった。
 紡がれたその壮大なストーリーがクライマックスを迎えたとき、その驚愕の構成力と、計算し尽くされたシナリオに圧倒された。

 こんな気持ちになる作品に出会ったのは、いつぶりだろう。

 1849 年、南太平洋。 
奴隷売買を任された若き青年ユーイング(ジム・スタージェス)に訪れる試練と瀕死の航海の物語。

 1936 年、スコットランド。
若き作曲家フロビッシャー(ベン・ウィショー)による幻の名曲「クラウド アトラス六重奏」創作秘話。

 1973 年、サンフランシスコ。
殺し屋に命を狙われながらも無数の人命に関わる原子力発電所での企業汚職を暴こうとするジャーナリストのルイサ・レイ(ハル・ベリー)の物語。

 2012 年、イングランド。
不当に老人施設に監禁された三流の編集者ティモシー・カベンディッシュ(ジム・ブロードベント)が仲間の老人たちと施設から脱出する物話。

 2144 年、ネオ・ソウル 。
自我を持ったクローン人間ソンミ 451(ペ・ドゥナ)がクローンを解放する革命に身を投じていく物語。

 2321 年、現代文明崩壊後のハワイ。
ヤギ飼いのザックリー(トム・ハンクス)が地球を救う旅に出る物語。

 6つの時代を生きる箒星のあざを持つ6人の主人公。

 時代を隔てた物語が交互に語られるが、注意するとそれは、巧妙に繋がりをもって動いている。
 各時代に登場する人物たちは、同じ魂を持って別の時代のエピソードへと輪廻する。
 性別や国籍を超え、その魂は別の姿で、業を背負いながら生き続けている。
 過去の人物やエピソードが、様々な形で後の時代に影響を与える。
そして、物語が進むに連れ、それぞれの物語が壮大なひとつのテーマをもっていることに観客は気付かされる。
 例えばトム・ハンクスは、1849年には青年の財産を狙う悪徳医師として登場し、1936年のストーリーでは、若き作曲家の弱みに付け込むホテルの支配人。
 1973年には、記者に極秘書類を渡す原発の研究者、2012年には自分の作品をこき下ろした書評家をパーティ会場から突き落とす作家、2321年には地球を救う男に転生する。

 時代と肉体は変わるが、魂はそれを超えてストーリーの中で次の時代へと旅を続けているのだ。

 主要キャストが各エピソードでどのキャラクターを演じていたかが、明かされるエンドロールは、必見だ。
 その役をやっていたのが、誰だかまるで判らないケースが幾つもあって、メイクアップ技術の物凄さに驚愕させられる。
それを理解したうえで、もう一度、それぞれのキャラクターに注意しながらこの作品と向き合ってみると、もしかしてまた違った「クラウドアトラス」に出会えるかもしれない。

 「マトリックス」のウォシャウスキー姉弟がプロデュース。
 「ラン・ローラ・ラン」のティム・ティクヴァが監督したこの作品は、1億ドルを超える制作費を投じたものだという。
 輪廻転生、業、といった仏教的な観念が根底に流れ、ドイツ、アメリカ、香港、シンガポールの4カ国が製作に名を連ねる一大プロジェクト。
この作品をSF超大作映画などという使い古された陳腐な表現に押しはめて語るのは勿体無いし、未見の人に不幸な思い込みを植えつけてしまいそうで嫌だ。
 この作品が素晴らしいのは、メカやVFXやアクションではなく、人間の営み、生き様を描いたドラマ演出と、その構成力なのだ。

後世に残る記念碑的な存在になることは間違いない作品だ。
 

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