28年前、正体不明の巨大宇宙船が突如、南アフリカ共和国に飛来。
宇宙船に乗っていたのは不衛生で弱り果てたエイリアンの難民だった。
彼らはヨハネスブルグにある第9地区の難民キャンプに隔離されたが、言葉も通じず、野蛮で不潔なエイリアンたちと一般市民との対立は激化する一方だった。
エイリアンの管理事業の委託を受けた軍需企業マルチ・ナショナル・ユナイテッド社(MNU)は彼らの強制移住を決定。ヴィカス・ヴァン・ダー・マーウィ(シャルト・コプリー)を現場責任者に指名する。
しかし、第9地区内の小屋を調査している際に、ヴィカスは謎のウィルスに感染。変容を遂げて行く彼の身体に、高い価値を見出したMNUは、ヴィガスを人体実験にかけるために追跡する。
SF映画でありながら、今年のアカデミー賞は「アバター」が美味しいところをさらった。そのイマジネーションに溢れた世界観と、3Dで眼前に広がった異世界の映像に世界中の観客は圧倒され、賞賛の拍手をおくった。作品の内容には、他人の生活に土足で踏み込み、争い続けて来た人類の歴史を彷彿とさせるところがあって、風刺的な要素が含まれてはいた。しかし、「第9地区」と比較すると「アバター」は甘い印象のSFファンタジーにしか見えてこない。
つまり、今、作品として俺が是非見て欲しいと他人に薦めたいSFは、作品賞にノミネートされながら、賞に届かなかったこの「第9地区」の方だ。
3DやVFXの技術進化の到達点として、「アバター」は今後も語り継がれるかもしれないが、この「第9地区」は、痛烈な社会風刺をSF映画の形を借りてエンタテインメントにする事に成功した作品として、その衝撃的な内容が、長く語り継がれる事になると思う。
監督は南アフリカ出身のニール・ブロンカンプ。
長く人種隔離政策が続いていたこの国の出身監督が、描くドラマは、まるでアパルトヘイトの再来のようだ。
世界に溢れる難民問題や、そこから生じる、摩擦、犯罪の数々、そして時として流血の惨事に発展する衝突。こういった、今、ニュースで目にする、デリケートな様々な問題を「エイリアン」が難民として飛来する話に置き換えて、この作品は問題提起している。
手持ちカメラを多用した、ドキュメンタリータッチの映像は、SF映画であるコトを忘れそうなリアリティを持っている。作品冒頭で、エイリアンについてのインタビューに答えているのは、実際のヨハネスブルクの住民達。彼らに難民や、不法入国者(エイリアン)について語らせた映像をそのまま挿入して、飛来したエイリアンたちについてのインタビューシーンを作ってしまうなど、風刺や皮肉を利かせながらもリアルにテーマを追求した強烈な演出が全編で炸裂。3D映画の様に飛び出しはしないが、画面に釘付けになる緊迫感に溢れている。
中盤以降は、何か得体の知れないものに感染するというアクシデントにより、追うものから追われるものとなった主人公を通じて、汚くて野蛮だが正直な「異星人」よりも、醜悪な存在としての「人間」が描かれる。
失った全てを元通りに取り戻すため、つまりあくまで自分のために、決心をして困難に立ち向かうヴィガスが、やがてエイリアンとココロを通わせていく。
この映画には、全てを綺麗に解決させてくれるようなハッピーエンドは無い。
これは「ファンタジー」よりも「現実」に近い21世紀版の「E.T」であり、「未知との遭遇」なのだ。
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