2010年3月22日月曜日

マイレージ、マイライフ/NARIZO映画レビュー

 年間322日、出張して誰かにリストラを宣告するのがシゴトのライアン・ビンガム(ジョージ・クルーニー)。モットーは、“バックパックに入らない人生の荷物はいっさい背負わない”。あらゆる面倒を背負わず自由に生きてきた彼の目標は、マイレージ1000万マイルの達成。
そんな彼に会社は、出張を廃止し、テレビ電話でリストラを告げる改革案を提案した新入社員のナタリー(アナ・ケンドリック)の教育係を任命。二人の出張が始まった。


 小粋で笑えるが、ほろ苦くて考えさせられるオトナ映画。残念ながらアカデミー賞は逃してしまったけど、「リストラ宣告人」を主人公に、誰かの人生を変えてしまう面接をフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションで繰り返してきたプロフェッショナルと、マニュアル通り、テレビ電話越しにそれをこなして、出張経費を節減しようと提案する優秀な現代っ子の二人を「出張」させる展開は、時代を捉えている。

ナタリーは目の前でリストラを告げられ、動揺し、激高し、または激しく落ち込む人々の姿を目の当たりにして、衝撃を受け、挙句、皮肉にも恋人からメール一つで別れを告げられてしまう。
ITの力でコミュニケーションは効率化し、様々なメリットを世界にもたらした一方、あえて直接会って話しをすることの「意味」、「価値」は、より大きくなっている。そもそも、人間社会の中で効率化してはいけないコミュニケーションがある事が、説教臭くないカタチで語られる。

ブライアンのエピソードでは、価値観が似ていて、出張で全国を飛び回っているアレックス(ヴェラ・ファミーガ)に、セックスフレンド以上の感情を持ち始めていく様が描かれる。ひとりは自由で気楽、しかし、いつまでも、それで良いのか...という、これまたリアルな葛藤の芽生えは、30過ぎで悠々自適に独身生活を送るビジネスマンのひとりとして、中々イタいところを衝かれた気分で、複雑に共感してしまった(笑)。

主役が、それは駄目だろって要素も含め、可愛げな雰囲気で中年独身を演じられるジョージ・クルーニだったから、余計に良かったというのはあると思うけど、ほろ苦くて、チョット痛い、「よい年」のオトナたちが織り成すドラマは、日頃、考えてそうでそんなに真剣に向き合っていない(向き合わないようにしている?)生き方や価値観について、改めてどう思う?と、問いかけてくる。

監督・脚本は、俺の大好きな「サンキュー・スモーキング」や「ジュノ」など、ユーモアの中で風刺の効いたドラマを作るのには定評があるジェイソン・ライトマン。だから絶対面白いだろうなぁ..という期待はあったんだけど、期待通り。いま、激しくオススメの1本。



2010年3月14日日曜日

シャーロック・ホームズ/NARIZO映画レビュー

貴族でありながら秘密結社を結成し、魔術で世界を操ろうと企むブラックウッド卿(マーク・ストロング)は、絞首刑の後も、墓場から復活し、逆らうものを黒魔術で死に至らしめ、ロンドンを恐怖に陥れていた。
名探偵シャーロック・ホームズ(ロバート・ダウニー・Jr)と、相棒のジョン・ワトソン(ジュード・ロウ)は、ブラックウッドの秘密を暴き、野望を食い止めるために彼を追う。


 推理小説の名作「シャーロック・ホームズ」のキャラクターを借りて、ガイ・リッチー監督がアクションエンタテインメントとして再構築。ここに描かれているのは全く新しい「シャーロック・ホームズ」だ。
ガイ・リッチー版のホームズは、不潔で、駄目なオヤジだが、原作同様、武術の達人。原作にあるような沈着冷静素敵紳士ぶりは皆無だが、ロバート・ダウニー・Jrって、やっぱオモシレぇよね。ってキャラクターになっている。ホームズというより、ハッキリ言って、どこまでも、ロバート・ダウニー・Jr。

そんな彼を放っておけない常識人ワトソンをこれまた魅力いっぱいにジュード・ロウが演じ、これに絡んでくる「ルパン三世」だったら不二子ちゃんみたいなアイリーン(レイチェル・マクアダムス)や、悪のカリスマ、ブラックウッド卿(マーク・ストロング)など、周囲のキャラも中々面白くて、ストーリーそのものよりも、キャラクター設定とキャスティング勝ちで、楽しいエンタテインメント作品になっている。

ホームズといえば宿敵はモリアーティ教授だが、今回は彼の影のみ登場。
しっかり、次回作に繋げる気、満々で終わるわけだが、本作は、キャラに頼りすぎてストーリーや謎解きは薄っぺら過ぎた気がする。
キャラのユニークさだけで引っ張るのが辛い次回作こそ、アクションとキャラクターに加えて、ストーリーや謎解きも、本格的に楽しめる作品を期待したい。

2010年3月8日月曜日

ハート・ロッカー/NARIZO映画レビュー

2004年夏、イラクのバグダッド郊外に駐留するアメリカ軍。爆発物処理班のチームリーダーとして赴任したウィリアム・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)は、まるで死を恐れないかのように無謀な判断を繰り返し、爆弾を解除する任務にあたっていた。彼を補佐するJ・T・サンボーン軍曹(アンソニー・マッキー)とオーウェン・エルドリッジ技術兵(ブライアン・ジェラディ)は、徐々にジェームズへの不安を募らせていく。ブラボー中隊の任務明けまで、あと38日……。果たして彼らは無事に生還できるのだろうか。

 監督のキャスリン・ビグローはジェイムス・キャメロンの元奥さん。
今年のアカデミー賞はキャメロンの「アバター」と、この「ハート・ロッカー」が賞レースで一騎打ちとなり、本作は、作品賞・監督賞など6部門を制す圧勝を収めた。
この結果が明らかになる前日に、俺はなんとか、この話題作を見る機会にありつく事が出来た。

偶然だろうか、賞を争った2作品には大きな共通点があった。
「アバター」が想像の産物である異世界を立体的に描き出した、新しい形の体験型SFファンタジー映画だとしたら、「ハート・ロッカー」もまた、現実に今も誰かが命を落としているイラクの戦場を生々しく描き出した体験型の作品だったのだ。
扱うテーマこそ大きく異なるものの、そこに身を置いているかのような感覚は、この2作品に共通する要素だ。
ただし、視覚的な画面の奥行きで、新しい映像体験をもたらし、史上最も成功した3D映画となった「アバター」に対して、この作品のそれは、死と隣り合わせの緊張感。兵士達の抱えるストレスを観客が共有するカタチで進行する。

この作品で描かれる戦場は、わかり易く敵同士が対峙して、撃ちあってくれる様な世界ではない。たいていそこに広がるのは、一見平穏そうに見える風景で、突如として群衆の中の誰かが発砲したり、足元のゴミ袋が爆発するかもしれないという、一瞬足りと気の抜けない場所に、観客は冒頭から叩き込まれるのだ。

主人公の兵士達は、そこに身を置き、任務として連日、殺傷兵器の爆発解除にあけくれている。
冷静な精神状態を保てという方が無理だろう。気の狂いそうに張り詰め、病んだ世界が、この映画を支配している。
ジェレミー・レナーをはじめ、主要キャストに誰一人有名な役者を配していないところが、リアルさに磨きをかける。誰が死んでもおかしくない。そういう緊張感の持続は、キャスティングの時点から練られていたのかもしれない。
そして、ドキュメンタリー映像の様に、兵士達と一緒に動き回る手持ちカメラで撮影されたシーンの数々。


これは反戦映画なのだろうか。明確にどちらの立場に立つわけでも、誰かを殊更ヒロイックに描いたり、アメリカNo1と、阿呆みたいに叫んだり、説教するわけでもなく、ただただ淡々と、妙に突き放したタッチで、緊張感たっぷりに、しかし誰に感情移入できるでもなく.....これが2時間を越えて続くのだ。

終わって残るのは疲労感と、言いよう無い虚しさだった。