2012年9月29日土曜日

アイアン・スカイ

第二次世界大戦で敗走したナチス・ドイツが再興と地球への復讐をかけて、月の裏側へ潜伏。
ついに月から地球へ攻めてくる。

 あまりにも不謹慎な設定ながら、フィンランド=ドイツ=オーストラリア合作。
フィンランドB級映画界の雄、ティモ・ヴオレンソラ監督の下、世界中の映画ファンからのカンパ750万ユーロ(約7億5000万円)で製作されたというブラックコメディなSF馬鹿映画..それがこの「アイアン・スカイ」だ。

 「ドイツ人の血と尊厳の保護する」というナチス的価値観の元に、捕虜にした黒人宇宙飛行士を漂白してしまったりする馬鹿馬鹿しさの中で、蓋を開けてみれば、描いているのは、すっかりショウアップされ、広告宣伝戦争と化しているアメリカの大統領選や、アメリカ中心の国際秩序に対する皮肉の嵐。 流石は、ヨーロッパが作った馬鹿映画だ。
ナチスという彼らにとってのタブーを持ち出して、茶化しまくっている先は、実はアメリカなのである。

 そんな、地球人の私利私欲ぶりの方が、月のナチスよりも始末が悪いと言わんがばかりの展開に、俺は抱腹絶倒させられることになった。 一番の見所は、月で信じていたナチスの価値観が地球を見て揺らぎ、どんどん美人になっていくユリア・ディーツェ演じるヒロインのリヒター。この女優さん、ホント、シーンを追うごとに可愛くなっていく。 主人公でありながら、殆どのシーンを不自然に漂白されてしまった姿で、駆けずり回ることになる黒人俳優クリストファー・カービーの熱演も爆笑モノ。

ステファニー・ポールのアメリカ大統領や、広報官のヴィヴィアン・ワグナーといった地球側女性キャラの滅茶苦茶さ、始末の悪さから、女性の社会進出で崩壊していく世界を男性中心のナチスの価値観と対比させて、これまた皮肉ってみせる。

 地球各国の私利私欲が爆発するラストを、敢えてちょっと静かで切ない感じに見せるところなんて、実にセンスを感じた。

 ナチス的デザインを絶妙なセンスで、宇宙船に落とし込んだ美術をはじめ、映画らしく割り切った虚構世界は、SFファンや馬鹿映画好きのハートに刺さること間違いなし。 ハリウッドから送り出される大作SFに対するアンチテーゼとも言える会心の一撃が、繰り出された印象だ。
 久しぶりに、これは、歴史に残るヤバい馬鹿映画だと思う。

 

2012年9月25日火曜日

ロック・オブ・エイジズ

1987年のハリウッド。数々のロックスターを世に送り出してきた名門ライブハウス「バーボンルーム」を舞台にしたマッシュアップロックミュージカル。 店のオーナー、デニス(アレック・ボールドウィン)の下で働きながらロックシンガーを目指す青年ドリュー(ディエゴ・ボネータ)は、シンガーを目指してオクラホマから出てきたシェリー(ジュリアン・ハフ)と恋に落ちる。ある日、バーボンルーム出身の大スター、ステイシー・ジャックス(トム・クルーズ)がボーカルを務めるロックバンド「アーセナル」の解散ライブが店で開催される。

  久々にテンションがマックスに上がるミュージカル映画を見た。 作中で演奏され、キャラクターたちが歌い上げるのは、ガンズ・アンド・ローゼス、ポイズン、ウォレント、エクストリーム、ボンジョビ、デフレパードにジャーニーなど、まさにハードロックが輝きを放ち、ロックスターがレコード業界の華だった最後の時代の名曲の数々。

 多感な時期に聴いていた洋楽といえば、専ら彼らのハードロックだったという俺たちの世代にとっては、限りなくツボ。 特に、この時代の猥雑で馬鹿で、キャッチーなロックが少なからず影響して、レコード業界に就職してしまった俺にとっては、最初から最後まで、映画館に居ることを忘れそうになるくらいエキサイティングだった。

 粗筋は単純明快。ロックスターを夢見る若者が、恋や挫折を味わいながら成長し、酒浸りで堕落しきっていた伝説のロックミュージシャンが、再生と復活を遂げるという最高にハッピーなロック映画。

 ロックミュージシャンを夢見てデビューを果たそうとする若者が、ロックの衰退と共にラップを歌うアイドルグループに仕立て上げられてしまうくだりなんて、あの当時の音楽シーンを現役で体感してきた音楽ファンにとっては、抱腹絶倒モノだし、ちょいちょいカメオ出演しているロックミュージシャンたちを探すのも楽しい。 

また、意外な形でマッシュアップされた、名曲の数々は懐かしさと同時に、あの時代のロックの魅力を再認識させてくれる。
 新人の主役男女二人も、歌は目茶豆茶上手いけど、アクセル・ローズに指導を受けたというトム・クルーズが、ヘロヘロの大物ロッカーを怪演しているのが、やはり最大の見所だろう。
 ヴァン・ヘイレンやローリング・ストーンズみたいなカリスマ性は感じないものの実は、産業ロックのよく居そうなヴォーカリスト以上のレベルで歌えるトム・クルーズ。これはまさに新発見。
 特にデフ・レパードなんかは、ピッタリはまっていた。 

それから驚いたのはアレック・ボールドウィンの肥満ぶり。全然誰だか判らなかった。 他にも圧倒的なインパクトを残すキャサリン・ゼタ=ジョーンズや、さすが本職と拍手を送りたくなるメアリー・J・ブライジなど、脇役も全員豪華絢爛。 

DVDまで待つなんてしみったれたことは考えずに、劇場の大音響、大画面で、クレイジーに盛り上がりたい。
やべぇ、思い出したらテンション上がってきた。
ロックが好きな仲間と、もう一度見ようかな(笑)。





2012年9月20日木曜日

白雪姫と鏡の女王

「インモータルズ -神々の戦い-」のターセム・シンが新作に選んだ題材は、ジュリア・ロバーツとフィル・コリンズの娘リリー・コリンズを主演に迎えての「白雪姫」。 子供からオトナまで楽しめる上に、とびっきり元気なテンションの作品に仕上がっている。 まず、悪役でありながら美に対する努力を惜しまない女王(ジュリア・ロバーツ)が光っている。 かつてはラブコメディの女王だった彼女が、老いを恐れる女王役を演じるのは、それはそれで中々挑戦的なキャスティングだと思うのだが、ジュリア・ロバーツは実に楽しそうにそれを演じているし、嫌な奴ではあるもののまるで憎めない。  白雪姫を演じるリリー・コリンズは、日本のバブル時代を思い出させる太さの眉毛で、登場した段階でツボに入っちゃうインパクトを与えてくれるわけだが、見慣れるのか時間の経過と共に物凄い美人に見えてくる。 魔女と白雪姫に共通して言えるのは、情けない男たちに対して、この二人は強い女性として描かれたキャラクターだってこと。 王子なんて、ほとんどメインのストーリー上関係ない。 王子なしでも暴れられる、それが現代の「白雪姫」なのだ。 そして、ストーリーに欠かすことが出来ない小人たち。 盗賊団として描かれる彼らも、バランスよくキャラクターが描き分けられていて、ちゃんと個性が立っている。 ラストは突然の楽しいミュージカル調エンドロール。 ターセム・シン監督がインド出身だと言う事をここにきて思い出した。 豪華絢爛の衣装は、石岡瑛子がデザイン。 この作品が遺作となったが、実にインパクトが大きかった。

2012年9月8日土曜日

踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望

警視庁湾岸署管轄内で誘拐事件が起こり、数時間後に被害者は射殺体で発見された。犯行には警察が押収した拳銃が使用されたと見られ、所轄の捜査員には情報開示されないことが捜査会議にて発表される。

今から15年前に放送された「踊る大捜査線」のテレビシリーズは、娯楽ジャンルとしての警察ドラマの歴史を塗り替えた作品だった。刑事は銃をいつも携帯していたりはしないし、管轄や役割が事細かに決められ、規則でがんじ絡め。初めて官僚組織としての警察の構造を娯楽作品の世界で描くことに挑戦した野心作にして、ユニークな群像劇は、どこかサラリーマン社会にも通じるユーモラスさにあふれていた。
放送当時、社会人一年目で、まさに会社という組織の中で葛藤していた俺は、同じく警察という組織の中で葛藤する青島(織田裕二)や室井(柳葉敏郎)に共感を覚えたりしたものだ。
テレビドラマ以降、作られた映画は、ご存知のとおり次々と記録を塗り替える大ヒットになったが、残念ながら「映画」としては三流以下の出来で、育ててきたキャラクターや作品の財産を食い潰しただけの企画に思えた。
なにより、取材に裏打ちされたリアルな警察組織の事実に、ユーモアと虚構を加えて絶妙なバランスでエンタテインメントにしていたテレビ版の魅力とそれは、程遠いものだった。
そして、15年。観客もキャストも歳を重ね、ついにシリーズが完結されると聞いて、それを見届けるために劇場へ足を運んだ。

15年というシリーズの人気は流石だ。オープニングタイトルから、フラッシュバックでシリーズの歴史をさかのぼり、ストーリーはどうであれ、同窓会の様にスクリーンは楽しげだった。
劇中もリアルに時間は経過していて、芸達者な署長(北村総一郎)は定年して指導員になっているし、新しい署長は真下(ユースケ・サンタマリア)。ホントにそろそろシリーズも幕引き時だよなと、思わずにはいられない設定だ(笑)。
ストーリーは警察の内部腐敗を描いたもので、これまでの映画シリーズの様に、パッチワークのような酷い展開にはならず、1つの大きなストーリーを追い掛けるものになっている。
これまでの映画版に比べて、非常にダークな展開をみせる最終作は、青島と室井の組織の中での葛藤に、ひとつの終止符を打って見せる。
乱暴に過ぎるところはあるが、最後に「官僚組織の中で葛藤する刑事たちのドラマ」という原点に回帰して、それに蹴りをつけてみせたシリーズ最終作。俺は、ドラマからのファンとして楽しませてもらった。

映画としては、やっぱりあまり良い出来ではないけどね。(笑)

2012年9月7日金曜日

最強のふたり

首から下が麻痺したフィリップ(フランソワ・クリュゼ)の介護者選びの面接にやってきたのは、失業保険目当てのスラム街から来た黒人青年ドリス(オマール・シー)。
しかし、同情ではなく本音をぶつけてくるドリスをフィリップは採用。まるで異なる世界を生きてきた二人は、衝突しながらも徐々にお互いを受け入れ、友情を育んでいく。実話がベースの感動ドラマ。

大人になってから出来る友人というのは、特別なものだ。
今までの人生で経験してきたこと、見てきたことが異なる相手は、自分とは違ったセンスやものの見方をするし、自分に無い能力や美徳をもっていたりもするだろう。そういう相手と過ごす時間は刺激的だ。
似たような場所で生まれ育ち、共に成長してきた幼馴染とは全く異なる友情が芽生える理由はそこにあると思う。

「最強のふたり」は、まさにそんな関係の二人を描いた作品だ。
原題は「アンタッチャブル」。
「比類の無い」という意味であり、インドのカースト制度で最下層に居る人々を指す言葉でもある。
つまり、スラム街から来たドリスが、まるで住む世界の違う富豪のフィリップと、まさに比類の無い友情で結ばれていくというお話だ。

障害者に対する同情ではなく友情。そこに特別扱いは無く、あるのはいたわりだった。
地位や立場を超えて「ひと」として触れ合う。
相手の隠れた才能を見い出し、チャンスのお手伝いをする。
悪ふざけしたり、軽口を叩き合いながらも、お互いを認め合う眩しい友情は、画面から飛び出したり、宇宙から侵略を受けなくても人を夢中にさせる題材になった。

最高のキャスティング。
こんなにもみんなで笑って、見終えたときには、テンションをあげてくれる最高のドラマ。
お奨めの1本だ。



2012年9月4日火曜日

るろうに剣心

漫画原作の実写化と言えばアメコミばかりが幅を利かせている2012年。
邦画が放ったのはあの「るろうに剣心」の実写映画化。
時代考証が滅茶苦茶だろうが、敵に金髪頭が居ようが、これは漫画原作だ、関係ない。
ちょっと惚けたというか間抜けた剣心を学芸会レベルギリギリの水準で成立させた佐藤健。
そんな演技部分の弱さを補って余りあるのがスピード感の強い、これまでの邦画ではあまり見たことが無い水準のアクションシーンの数々。そして、香川照之、蒼井優、江口洋介といった演技派と、凛としたヒロインの武井咲、邪悪なオーラ全開の吉川晃司といった共演陣の健闘あってのものだろう。

監督はNHK出身でドラマ「ハゲタカ」「龍馬伝」等を演出してきた大友啓史。
題材は変われど相変わらず、リッチな画作りを堪能できる。
音楽も、「ハゲタカ」「龍馬伝」と同じく佐藤直紀だ。


ぶっちゃけたいしたストーリーでもないし、続編があったとしても続きが見たい気は全然しない。
一見、無理めのこの企画を先ずは、ちゃんと成立させたという意味において、ご苦労様でしたぁ。