2011年2月19日土曜日

太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男/NARIZO映画レビュー

太平洋戦争の激戦地サイパン。総攻撃後の山中で、200名の民間人を守り、47名の兵士を統率して16ヶ月間。ゲリラ戦で米軍を翻弄し続け、「フォックス」の異名で畏れられた大場栄大尉(竹野内豊)の実話を映画化。


テレビ局主導の邦画大作といえば、ドラマ発やコミック原作ばかりという状況の中で、元米軍人が書いたドキュメンタリー小説を原作として、日米の視点から太平洋戦争を描いたこの作品は、間違いなくかなり挑戦的なプロジェクトだ。
監督には「愛を乞う人」の平山秀幸と、アメリカから「ブラックレイン」や「トランスフォーマー」で助監督を務めたチェリン・グラックを迎え、日米の役者のシーンをそれぞれで撮り分ける手法で制作。
タイで撮影された戦闘シーンも、迫力がある。

主演の竹野内豊は、芯の通った信念をもちつつも寡黙で、誰からも慕われる武人であり、リーダーとしての大場大尉を熱演。ヒーローとして描くのではなく、淡々と日米のエピソードを重ねていくことで、過酷な戦場のドラマを成立させようとした。

スキンヘッドのヤクザ兵隊を演じた唐沢寿明をはじめとして脇を固める日本人の役者たちや、敵ながら大場を畏敬し、何とか投降させようと尽力するハーマン・ルイス大尉を演じたショーン・マクゴーウァンの好演など、よい部分は色々あった。

しかし、これだけドラマチックな好材料と、キャスティングを揃えても、あまりに淡々としすぎていて、伝わるもの、迫るものが少なかったのは何とも残念だ。
日米どちらにも寄らず、公平に描くことに注意を払った演出には評価できる部分も大きい。しかし、この作品はドキュメンタリー的手法で当時を明らかにしようというアプローチではなく、あくまでドラマだ。
日米それぞれの将校の気持ちはスクリーンのこちらにも伝わるのに、感情移入して見る事が出来ない結果に終わってしまったのは、非情に残念だった。

食料弾薬が乏しく、米軍キャンプからこれらを奪いながら民間人を守り、16ヶ月に渡り部下を統率して抵抗し続けたという題材。その事実自体は確かに「奇跡」みたいな話のはずだし、こんなにも極限状態のエピソードを題材にしているのだから、観客としてもっと、エモーショナルな人間ドラマを期待してしまうのは当然なんじゃなかろうか。

この手の骨太なテーマを真摯に描いた姿勢と、そのプロダクション力は、近年の邦画の中にあってキラリと光るものがあるのは間違い無かっただけに、この物足りなさが何だかとても残念だった。



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