2011年6月13日月曜日

最大の見所は、素人のオヤヂ主役で1本撮ってしまったこと/さや侍

無断で脱藩し、追われる身となった野見勘十郎(野見隆明)は、一人娘のたえ(熊田聖亜)と共に幾度と無く殺し屋に命を狙われつつも流浪の旅を続けていた。
ある日遂に多幸藩の追っ手によって捕らえられた野見勘十郎。
そして殿様(國村隼)が勘十郎に処したのは「三十日の業」。
それは母君を失った悲しみで笑顔をなくした若君を、一日一芸で三十日の間に笑わせられたら無罪放免、できなければ切腹というものだった。


ウケない芸人が手酷い罰ゲームを喰らう。
そんなバラエティ番組にありがちな設定を時代劇に持ってきた。
乱暴に言ってしまえば、そういう代物だ。

ただし、この作品は観客の想像や期待を良くも悪くも、小さいところから大きなところまで裏切り続ける。
バラエティ番組の脱力したお笑い感覚を残しつつ、バラエティではかなわぬ表現を実現したのも事実なら、見ているこちらが恥ずかしくなるような演出をしれっとしてのけたりもしている。

ひとつの価値観に囚われた不器用な侍と、その娘の「愛情」を描くストーリーはオリジナル。
原作無き映画を制作することが、すっかり困難になった最近。その一点においては、間違いなく快作だろう。

そして最大の見所は、バラエティ番組「働くおっさん劇場」で発掘した素人の野見隆明で1本映画を撮ってしまったところ。これに尽きると思う。
不安げで余裕の無い、汚らしいオヤジが、いつしか愛おしく、ときにカッコ良くさえ思えてしまう。
まるで松本人志の分身のように感じられるシーンもあるが、しかし、松本は出なくて正解だったのかもしれない。松本には決して出せないであろう野見の表情の素晴らしさ、キャラクターの強烈さにこの作品は救われている。

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