2011年10月16日日曜日

やはり62年の名作「切腹」は凄かった/一命

太平の世が続く江戸時代。貧窮した浪人が大名屋敷に押し掛け、庭先で切腹させてほしいと願い出て、面倒を避けたい屋敷側から職や金銭を受け取ろうとする狂言切腹が流行していた。
ある日、名門・井伊家の門前に一人の侍が、切腹を願い出た。名は津雲半四郎(市川海老蔵)。
家老・斎藤勘解由(役所広司)は、数ヶ月前にも同じように訪ねてきた若浪人・千々岩求女(瑛太)の、狂言切腹の顛末を語り始め、半四郎を思い止まらせようとする。
求女は武士の命である刀を売り、竹光に変え、狂言切腹をしに井伊家を訪れたのだという。これ以上、厄介な浪人が押し掛けることを嫌った井伊家は見せしめとしてその竹光の脇差しで腹を切ることを命じ、その最期は壮絶なものとなった。
これを聞いた半四郎は、なおも動じることなく切腹したい旨を申し入れ、介錯人として3名の武士を指名する。しかし、指名された3人は奇怪なことに全員病欠であった。
それを聞いた半四郎は、静かに驚くべき真実を語り出すのだった……。


1962年小林正樹監督の傑作時代劇「切腹」は、武家社会の見栄、虚飾、矛盾と残酷性を描いた人間ドラマの大傑作で、今見ても鮮烈なインパクトは色褪せない。

同じ「異聞浪人記」を原作にして監督・三池崇史、音楽・坂本龍一、主演・市川海老蔵の3D映画でこれをリメイクすると聞けば、興味津々。

四季の移ろい、蝋燭の薄明かりに浮かび上がる屋敷の光景3D撮影されたシーンは美しく、坂本龍一の音楽も陰惨な物語を物哀しく彩る。

少し頬がこけ、眼光鋭い市川海老蔵の迫力もなかなかのものなのだが、現代の最新技術を集めて作ったこの作品を見てしまうと、尚更、62年の「切腹」で半四郎を演じた仲代達矢の得体の知れない凄みと鬼気迫る演技、家老を演じた三国連太郎とのやり取りや、丹波哲郎ら当時の役者陣の熱演。
殺陣のシーンの迫力。陰影深く想像を掻き立てられるモノクロの世界で語られたドラマの高い完成度を再認識させられる結果になった。実際、「一命」は「切腹」を超えるべく、相当、旧作を研究したのではないだろうか。

武家社会のルールや美徳とされてきた概念が、いかに暴虐極まりない上辺だけを取り繕った、見せかけのものにすぎないかをテーマにしたこの作品には、その実、時代を超越した普遍的なテーマが隠されている。
権力が重んじてきた体面や体裁は、大きな危機に瀕したとき、もろくもその実態が露呈する。
それはそのまま、今、日本で進行している事態にも重なって映るように感じられるのだ。


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