2012年12月31日月曜日

レ・ミゼラブル

今年を締めくくる最後の映画に選んだのは「レ・ミゼラブル」。

 キャメロン・マッキントッシュによって創り出されたこのミュージカルは85年の初演以来、世界43か国で上演。
学生時代の大半を日本版を何度となく上演してきた帝国劇場で過ごした自分としては、特別な思い出のあるミュージカルだったりする。
それだけに映画化の話は、若干不安だったのだが、次第に予告編を劇場で目にするようになって、傑作が生まれた事を確信した。

 ミュージカルはちょっと....。
俺もこの作品に初めて出会ったときは、そう思った。
しかし、ミュージカルについて食わず嫌いで、仕事の上で仕方なく見たはずの俺を物語に惹き込ませたあのステージの興奮が、映像の力でさらに大きくなって、スクリーンに完全再現されている。
ほぼ全編、歌でストーリーが紡がれ、魂を揺さぶる重厚な物語。
 究極にガチなミュージカル映画になっていた。

 監督トム・フーパーと製作のキャメロン・マッキントッシュがこだわったのは、すべての歌を実際に歌いながら、生で収録する撮影方法。
つまり、ステージさながらのライヴ感と感情に載せて歌が歌われる。
 ジャン・バルジャンをヒュー・ジャックマン、彼の宿敵ジャベール警部がラッセル・クロウ。
ファンテーヌにアン・ハサウェイ。
コゼットがアマンダ・サイフリッド。
 エポニーヌのサマンサ・バークスは舞台版のオリジナルキャストと、非常に豪華。
全員歌える歌える。
 名曲「On My Own」のせつなさも「Do You Hear The People Sing」の熱情も、とにかくステージと同じ。
いや、それ以上にエキサイティングで、とにかく熱かった。

 数多くの登場人物、台詞がほぼ全部歌。
複雑なストーリーと時代背景。
これを150分あまりで何処まで再現できるのか、ステージ版だって、ぶっちゃけ歌に載った台詞が聴き取りにくくて、一度見たくらいでは意味わからない部分いっぱいあったし..。
そのあたりが映像化でどうなるのかは、いちばん重要で、興味深いところだった。
しかし、この映画は完璧だった。
むしろ映像化により字幕で歌詞が追えることによって、ストーリーの把握は容易になった。
初めて作品に触れる人にもとっつきやすい。これは舞台版にない魅力だ。
 映画企画側の期待通りだと思うが、映画から興味を持って、舞台を見に行く新たなファンが生まれる予感がする。
 またシンプルな装置で観客にパリを想像させていた舞台版と異なり、映像の広がりから、その時代のパリの空気を感じることができるのも、映画の魅力。

 バルジャンが天に召され、先に死んでいった者達に迎えられるラストから、ステージならカーテンコールにあたるくだりは、映像ならではのカタルシスにあふれ、思わず拍手をしたくなった。

 あらゆる意味で、ミュージカル映画の歴史に残る、王道的な作品の誕生。
 この先、何度となく見てしまいそうだ。
 最後に劇場予告編と、本作の「On My Own」。 そして、日本版キャストで唯一、最高のエポニーヌとして、エリザベス女王の前でも歌った島田歌穂の「On My Own」を貼っておく。

この年末年始に是非、劇場へ!

■予告編


■予告編「On My Own」/サマンサ・バークス


「On My Own」/島田歌穂


2012年12月16日日曜日

フランケンウィニー

いつまでもコドモのココロを忘れない。
そんな一握りのクリエイターの作品は、凄く魅力的だ。 ティム・バートンは間違いなくその手の監督のうちの一人。

その昔、実写短編で撮ってお蔵入りになった苦い経験のある題材「フランケンウィニー」を彼は再びディズニーで、しかもモノクロクレイアニメでの3D撮影と言う野心的手法で長編映画化した。 

主人公の少年ヴィクターは、引きこもりがちの変わった少年で、ティム・バートンそのものと言っていい存在。
大好きなペットの犬。死んでしまったけど彼との幸せな暮らしが、ずーっと続いたらいいのに。

 ティム・バートンは自分の子供の頃の犬との思い出と、かなわぬその想いをこの題材にぶつけている。
舞台となる街、ニューオランダは、風車が丘の上に建つ郊外の住宅街。
 郊外の街に風車小屋。最後は風車小屋で対決と言う設定は、彼の多くの作品で見掛ける展開だが、モチーフになったのは監督が育った街、かつてのバーバンクだと言う。

 ヴィクターの愛犬スパーキーは、作品の殆どの時間、愛くるしいゾンビ状態なのだが、生前にもまして活き活きしている(笑)。
 決して、飼い主のことは裏切らないし、いつまでも良き友達で居続ける。
 一方、雷の電流でスパーキーが蘇った事を知ったクラスメイト達が、彼を真似て蘇らせてしまったものは、全て、邪悪で危険。
 子供時代に苛められっ子だったという、監督のこれはちょとした復讐か。

 日本の怪獣映画が大好きな監督らしく、今回は「ガメラ」もどきが登場するし、こそっと日本のキャラクター「キティ」ちゃんの墓らしきものが登場したりと、ちょくちょく遊びが見つかるのも大きな魅力。   
ブサ可愛いゾンビ犬をこんなに愛すべき存在として描けるのは、世界でも間違いなく彼くらいのものだろう。 それ以前に、他の監督はそんな題材選ぼうとしないと思うけど。

モノクロの陰影が非常に美しく、ゾンビ犬の話なのに、ほっこりする映画。
 クリスマスシーズンに、こんな映画も良いよね。
 

2012年12月15日土曜日

ホビット 思いがけない冒険

ホビット族のビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)は魔法使いのガンダルフ(イアン・マッケラン)に誘われ、13人のドワーフたちと共に、恐るべきドラゴン“スマウグ”に奪われたドワーフの王国を取り戻すという危険な冒険に加わる。


 ピーター・ジャクソン監督が、「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の前日譚にあたる「ホビット」をやはり3部作で製作。
その第1弾となるのが本作だ。 上映時間は170分。これは長い。
けど、実際のところ全然「長さ」を感じなかった。
 3D映画化されたミドルアースは美しく、山河や奇怪な森の深部、そしてもちろん戦闘シーンに至るまで、その映像体験は興奮の連続で、愛すべきキャラクターと共に過ごす時間はあっという間に過ぎた。
 シリーズの導入部として「ロード・オブ・ザ・リング」の1部「旅の仲間」と比較しても、この作品のテンポは非常に良いし、そもそもストーリーは、それ以前を描いているから、むしろ「ロード・オブ・ザ・リング」見たことない人に薦められる内容になってる。
 この冒険はホビットではなく、ドワーフたち中心の物語だが、なぜドワーフはエルフと仲が悪くなったのかなど、「ロード・オブ・ザ・リング」で台詞の中でしか語られることがなかったエピソードが、サルマン(クリストファー・リー)や、エルロンド(ヒューゴ・ウィーヴィング)といったお馴染みのキャラクターを交えて描かれる。
 そして、平和だったはずのミドルアースに、邪悪が影を落としつつある様と、ビルボが例の「指輪」に出会うエピソードが描かれ、続きに対する期待をものすごく煽る形で終わる。

いやぁ、ホント、早く続きが見たい!!

 さて、国をあげてこのシリーズへの制作に協力しているニュージーランド。 
今回は「ホビット」の予告編に加えて、「ホビット」とタイアップで作られたニュージーランド航空機内安全ビデオも貼っておく。 良いな。こんな飛行機乗ってみたい。(笑)


2012年12月9日日曜日

砂漠でサーモン・フィッシング

中東情勢が悪化し、首相広報担当官のマクスウェル(クリスティン・スコット・トーマス)が、英国への批判をかわすための話題作りのためにイエメンの大富豪シャイフ(アムール・ワケド)の鮭を泳がせて釣りをするというプロジェクトに白羽の矢を立てる。
 顧問に選ばれた水産学者のアルフレッド・ジョーンズ博士(ユアン・マクレガー)は、呆れるばかりだったが、今の給料の倍の報酬を提示されて、しぶしぶ承諾する。
 シャイフの代理人で投資コンサルタントのハリエット・チェトウォド=タルボット(エミリー・ブラント)とジョーンズそして、シャイフ。
荒唐無稽に思えたその計画はやがて芽生えた友情と共に、英国政府の後ろ盾の下、次第に現実感を帯びていく。 


 ベストセラー原作の映画化ということだが、とにかく脚本が素敵だ。
と、思ったら書いたのは「スラムドックミリオネア」で完璧な純愛と大人向けの寓話を魅せてくれたサイモン・ビューフォイだった。
 荒唐無稽な話だが夢や友情や、あきらめない気持ちを思い出させてくれる。
この作品もまた、現代の御伽噺なのだ。

 この作品に登場するのは、善人ばかりではないが、いずれも憎めない魅力的なキャラクターばかり。
 最初は計画を馬鹿にしていたジョーンズ博士が、次第に目覚め、夢を追い始めるまでに変わっていくのに同期するように、観客もプロジェクトの成功をまるで「プロジェクトX」を見ているみたいに応援するようになっていく。
 大作映画に比べれば凄く地味な題材に思えるのだが、この作品はドラマとして非常にエキサイティングだし、見終えたときに言いようない幸福感や爽快感に包んでくれる。
実に魅力的だ。
 政情不安や、戦争、過激派が登場したりと、複雑な中東情勢を盛り込みつつ、荒唐無稽なプロジェクトが推進される様を描いているが、全編にブラックユーモアや笑いの要素が散りばめられている。 
政権の支持率のためなら、あらゆる手段を使う広報官と首相とのメッセンジャーでの毒たっぷりのやり取りをしばしば挿入したり、本業以外のことにはまるで不器用なジョーンズをユアン・マクレガーが、ぴったりな感じに演じたりして、コトあるごとにいちいち、くすくす笑えるのだ。 

純粋で夢想家の富豪は、キャラクターとして物凄く魅力的で、ヨーロッパから見たステレオタイプな中東ではなく、同じ尊敬しあえる友人同士として、この作品は中東を描く。
 コメディであり、御伽噺であり、ほろ苦さもある、オトナの純愛ドラマになっていて、何より夢にあふれた作品なのだ。 釣りに全く興味のない俺が、こんなにも「釣り」を素敵に感じるだなんて(笑)。
 今年は映画の当たり年だから、大作の影に隠れてしまうかもしれないけど、そんなのは勿体無い。
 地味だけど、元気がもらえる一本だ。
 

2012年12月3日月曜日

007 スカイフォール

あらゆる意味で007の50周年に相応しい作品。
 007が描いてきた伝統的なスパイ映画のローテクな設定に愛情を捧げつつ、新時代のアクション映画に挑戦しようと言うメッセージが強く伝わって来た。

 この作品でボンドは一度死に、蘇る。
 M(ジュディ・デンチ)と共に組織に頼らずに闘い、まるで自分と合わせ鏡のような元凄腕諜報員の敵と対峙する。

古風な方法論を好むボンドにしつつ、冒頭からアクションシーンはど派手で143分の長尺を感じさせないテンポでストーリーが進む。

 ボンド映画らしく世界中でロケを敢行し、今回は悪役の根城のデザインに、なんと長崎の軍艦島が登場したりするあたりも楽しい。
新しいQの登場や、Mとボンドの関係なども含めて、50周年を迎えたシリーズが、今後も益々進化し、続いていくであろう期待を抱かせる内容。
 この作品は新しい「007」シリーズの起点にするくらいの気概で作られているのだ。

 しかし、ダニエル・クレイグのボンドは、つくづく史上最高に野生的だね。
女子のシャワールームに忍び込むとか、ボンドお馴染みのスケベ紳士っぷりを発揮しても、単なるエロ親父には見えない。
この辺り、歴代ボンドとは明らかに違うと思うのだ(笑)
 

人生の特等席

家庭を顧みない、メジャーリーグで名スカウトマンのガス(クリント・イーストウッド)。 
五感の全てを使って選手を発掘してきた彼だったが、今や後輩のスカウトは専らデータ重視で球場に足を運ぶこともなく、パソコンを使えない彼を馬鹿にしていた。
一方、ガスはこのところ視力が衰え、失明の危機にあることを伏せて仕事をしていた。
 父との間にわだかまりを感じ続けてきたひとり娘のミッキー(エイミー・アダムス)は、そんな父の異変に気付き、スカウトの旅に同行する。


 「野球」が壊れかけの「家族」の関係を修復し、「旅」を通じて、父と娘が絆を確かめ合う。
「野球」に「家族」に「ロードムービー」ときた!!
アメリカらしいテーマが三拍子そろったイーストウッド4年ぶりの主演作。
 監督はイーストウッドの映画製作に20年間携わってきたと言うロバート・ロレンツ。これが初監督作品だ。 
無骨なイーストウッドは、佇んで居るだけでも何かを語ってしまう。
 目と耳で、選手の素質を見抜いてきた伝説的スカウトと、選手を見に行く事もしないIT野球スカウトとの価値観のぶつかり合い>
頑固な老兵イーストウッドの魅力は全開だ。 

弁護士先生としてキャリアを築いている娘が、反目しながら父との時間を通じて忘れていた想いを強めて行くというのがこの作品の主題。
視力を失いつつあるという、スカウトとしては致命的な設定を通じて、弱さを見せなかった父の衰えを娘は知る。
親子関係の「触媒」として「野球」が重要な役割を果たす。
 はっきり言って展開を読める作品なのだけど、それだけに、何もわかっていない小僧どもに一泡吹かせるイーストウッドの演技は痛快。
そしてポジティブで気持ち良い作品だ。
 映画ならではのご都合も含めて楽しめる。
地味だけど、心温まる良質なドラマだ。
そして、久しぶりに「野球」を見に行きたくなった。

 

2012年11月24日土曜日

黄金を抱いて翔べ

大阪の銀行の地下に眠る240億の金塊強奪を企む6人の男たちの姿を描く、高村薫デビュー作の映画化。

 高村薫原作の映画って、これまでの経験からあまり期待していなかった俺。
でも妻夫木聡、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン、西田敏行って、豪華なキャスト陣が気になったし、監督はなんと言っても他人の映画をいつも目茶目茶に言ってる井筒和幸ってことで、何ぼのもんじゃいと見極めに行ってみた。 

ちなみに原作は未読(笑)。

大阪の銀行の地下に眠る金塊強奪計画....つまりは銀行強盗のお話。
そんな題材、日本でやって盛り上がるのかいなと懐疑的だった俺だけど、計画のために集められた濃いキャラクターにはそれぞれ、背景があり、特に爆弾に強い元北朝鮮工作員のモモ(チャンミン)の身柄を巡って、銃弾が飛び交ったり、過激派やヤクザ者が嗅ぎ付けてきたりと、強盗に行くまでの段階でも魅せる魅せる。

 大阪と言う土地柄や、どこかちょっと平和ボケした日本を上手に舞台にして、熱く硬派な犯罪サスペンスに仕上げている。

限られた時間の中で、かなりのボリュームになる要素を上手く纏め上げ、スピード感たっぷり、エキサイティグに構成された129分は、全く長さを感じさせない。

 硬派な人間ドラマと、犯罪サスペンスと、エンタテインメントが高度に両立し、単なるハッピーエンドでは終わらない、ダークな作品になっていて、実に映画らしい映画を見たと、満足できる一本。

 脇役も含めて凄いバランス感覚で描かれた脚本だけに、まだまだ映画が描ききれなかったキャラクターの背景が原作にはありそうなので、映画から原作を読んでみたくなった久々の作品だった。

 演者、制作陣共に、このレベル感の映画ばかりなら、日本映画って、本当に凄いんだけどなぁ。


高地戦 THE FRONT LINE

朝鮮戦争の激戦地。 板門店では2年前に始まった停戦協議が難航し、アメリカと北朝鮮、中国の三者が南北境界の線引きを巡って火花を散らしていた。
 停戦協定成立から発効までの12時間に行われた最後の戦闘に参加した兵士たちの姿を描いた戦争映画。 

未だに終結していない朝鮮戦争停戦の現実を最前線の視点から描いた戦争大作。
 真っ直ぐ立つのも困難な高地を、何十回も奪い奪われる戦場で、軍隊の規律や国家の正義といった正論では語れない「生き残る」ための「正義」、人間らしく「生き続ける」ための最前線での「正義」を描いた作品になっている。

 同じ高地の主が何度となく変わる激しい攻防の果てに、いつからか始まった敵への置手紙や、タバコや酒の交換と言ったエピソードから、この手の題材の韓国映画でお馴染みのウエットな人間ドラマへと発展し、やがて舞台となる中隊が抱える恐ろしいトラウマが明らかになっていく。

一貫して描かれるのは同じ民族どうしで殺しあうと言う虚しさだ。
 敵味方に分かれても、根底にお互い複雑なシンパシーを感じあうという複雑なドラマをリアリティをもって描けるのは、韓国映画ならではだと思う。 


 中央から左遷されるように異動してきた防諜隊中尉カン・ウンピョ(シン・ハギュン)の視点を通じて、安全圏からは窺い知れない戦場の現実を観客も目の当たりにする。
韓国版の「プラトーン」とか「ハンバーガーヒル」なのだな。この作品は。
 2年間で二等兵から中尉に特進し、戦場で自分の信じる正義と倫理観のもとに部下を従えるキム・スヒョク(コ・ス)や、どこか死に場所を探しているようにも見える中隊長のシン・イリョン(イ・ジェフン)は、病める戦闘の実態を観客に突きつけ、監督のチャン・フンは、南北どちらに寄ることなく、あくまでその戦争の虚しさに焦点を当て続ける。 

戦闘シーンの迫力も、徴兵制が未だ残る国の映画で現代戦を描いているだけに、リアルに迫るものがある。 
クライマックス。 停戦の知らせに生還した実感を噛み締める両軍の前線。
しかし、その発効が12時間後である事が告げられる「ぬか喜び」感と、12時間後の占領地で国土が決まるとばかりに、最後の総攻撃を命じる両軍の上層部。

救いのない戦闘がこの作品のラストに待っているわけだが、中国やアメリカと言った大国の利害に翻弄され、代理戦争として血を流し続けなくてはならなかった怨嗟をスクリーンから感じずには居られない。

 

2012年11月23日金曜日

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

衛星軌道上に封印されていたエヴァンゲリオン初号機から、ミサトたちにサルベージされた碇シンジは厳重な監視下に置かれていた。
目覚めた世界では14年が経過。
今やミサトたち旧ネルフ職員らは、反ネルフ組織「ヴィレ」を立ち上げ、使徒とネルフ側エヴァと戦っていた。
状況を呑みこめないシンジだったが、14年前、綾波レイを助けようとした自分が「サード・インパクト」の引き金を引き、世界を半壊させてしまった事実が次第に明らかになる。

よくも悪くも想像を裏切った上で、中身については、さっぱり理解できなかった。
 これが感想。
 まず、突然、前作から14年経過した世界に放り出される置いてけぼり感が半端ない。
 観客はシンジ同様に、どうなっているのかよく分からないまま、映像的興奮のつるべ打ちにあう。

 カネ掛かってんな、スゲぇな!でも、全然、判らないぞ。
 どういう経緯で「ネルフ」が分裂したのかも、全然、人の気配が感じられない描き方をされている「ネルフ」に何があったのかも、全く描かれない(笑) 。

にも関わらず、最後まで興味を削がれる事なく突っ走られた感じ。
 作画も演出も、スゲぇよ。 そう言う意味では力業で持ってかれて、なんか疲れた作品。

 結局、この作品は完結編となるであろう次回作への豪華な導入編だ。

 テレビシリーズの展開をほぼ踏襲した「序」、そこから発展して最後には異なる展開に驚かされた「破」。
ここまでが「ホップ」「ステップ」だったとすると、今回はあまりに「ジャンプ」し過ぎて、ついていくのが大変だ。

 絶対余計なことするなと言われた男が、青臭いほどの信念に従い行動した結果、やっぱり最悪の結末を引き起こす。

言ってしまえばそれだけの内容。

 しかし、「前と同じ話をするつもりはない」まさに作品を創り変えたいという「意思」が物凄く明確にされた分、進化して予測不能のこの後の展開に興味を感じずにはいられない。

 気になる人は、まぁ見てくれ。 意味はわからんが、映像は興奮する。どうせ見るならフルスペックに凄さを体感できる劇場へ!


2012年11月10日土曜日

シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語

あの世界最高峰のサーカス・エンタテインメント集団シルク・ドゥ・ソレイユ初の映画化。

 特定の言語に頼らず、音楽と肉体を駆使したパフォーマンスで全世界を魅了してきた彼らだけに、この作品にも台詞は殆どない。
 もっと言えばストーリーすらない。
大スクリーンに繰り広げられるのはシルク・ドゥ・ソレイユが誇る最高峰のステージの壮大なショ-ケースだ。

 田舎町のサーカスに遊びに来た主人公のミア(エリカ・リンツ)が、空中ブランコの青年に魅せられ、砂漠の中にテントが点在するシルク・ドゥ・ソレイユの異世界を彷徨う。

 3Dメガネを掛けて、観客たちも彼女と共にラスベガスの専用劇場で上映されている "O"(オー)、KÀ(カー)、Mystère(ミステール)、Viva ELVIS(ビバ・エルビス)、CRISS ANGEL Believe(クリス・エンジェルビリーブ)、Zumanity(ズーマニティ)、The Beatles LOVE(ザ・ビートルズ・ラブ)など、シルク・ドゥ・ソレイユの7つのステージ世界に迷い込む。 

それぞれの狂言回してきなキャラクターが顔を出し、専用劇場ならではの圧倒的規模の装置と、目を見張るパフォーマンスが展開される。
そもそもシルク・ドゥ・ソレイユは、ドラマチックで映画的なエンタテインメントなのだ。
そして映画では再現が難しかったリアルでライヴな迫力を最新の3D撮影技術は、全国のスクリーンに届けることに成功している。
 どこまでも、シルク・ドゥ・ソレイユの映画なので、監督の個性が作品にどう影響したのかは謎だ。
 しかし、監督のアンドリュー・アダムソンは「シュレック」や「ナルニア」を手掛けてきた人物。
ファンタジー的世界に対する表現力を期待するには良い人選だったのかもしれない。
見所は、客席では不可能なアングルや至近距離でのパフォーマンスを立体映像で楽しめること、これに尽きる。 

 高度な技であっても、それが映画で、しかもあまりに優雅で美しく、静かだとついつい眠気に襲われる。
そして、このフィルムは時として、エンタテインメントというよりアートに近い印象を抱かせる。
 91分はこの題材としては、ギリギリ興味を繋ぎ止めておける時間の限界ラインだった。
 パフォーマンス同様の絶妙なバランス。
そして幾つかの作品は、いつか生で見て見たいと強く思わせられた。
 そういう意味では、映画としてはともかく、ショーケースとしては大成功だと思う。
 薄々、予想は付いていたものの内向的で気が弱そうに見えた主人公のミアも、演じているのはシルク・ドゥ・ソレイユのアーティストなワケで、ラストは本領を発揮!!
あんた、凄いじゃないのという技のつるべ打ちになるところは、個人的にちょっとしたツボだった。

 ラストシーンは、シルク・ドゥ・ソレイユらしさ満点の美しい大円団。
 しかも、エンドロールにかぶせる様に7つのステージそれぞれの感動的なカーテンコールが次々と繋がれて、観客とステージ、 両者の化学反応で訪れるシルク・ドゥ・ソレイユのステージの最高の瞬間を紡いでいく。
そんな素敵なエンドロールなだけに、途中で、誰も客席を立たなかったのが印象的だった。

 しかし、やはりシルク・ドゥ・ソレイユは生で見たいっすね。(笑)


 

2012年11月4日日曜日

のぼうの城

天下統一を目前に控えた豊臣秀吉(市村正親)は最後に残った敵勢力、北条家を滅ぼそうと大軍を投入。 
才覚はありながらも将器に欠ける腹心の石田三成(上地雄輔)に手柄を立てさせようと、すでに自軍に内通し降伏する旨を表明してきていた成田氏の拠城忍城攻略を三成に言い渡した。 
一方、忍城には農民や子供たちと楽しそうに戯れ、親しみをこめて「のぼう」様と呼ばれる成田長親(野村萬斎)がいた。
 しかし、三成軍の不遜な態度に長親は一転、闘う事を決意。
 軍勢2万にたった500名の多勢に無勢ながら、長親を慕う多くの農民も立ち上がり歴史に残る篭城戦に突入するのだった。

 実話を基にした和田竜の脚本は、小説化され大ベストセラーに。
 魅力的な登場人物が多数登場する、空前の歴史スペクタクルとして映画化が待ち望まれ、犬童一心 、樋口真嗣のダブル監督体制で映画化。
ところが公開準備中に3.11の震災が発生、津波を髣髴とさせる水攻めのシーンに配慮して公開がほぼ1年延期されたいわく付きの作品だ。
「でぐのぼう」を意味する「のぼうさま」は、原作では大男でのそのそと動くキャラクター。
正直なところ野村萬斎はキャスティングミスなんじゃなかろうかと、違和感を感じていたのだが、蓋を開けてみれば、彼にしか演じられないであろう「のぼう」様がスクリーンに息衝いていた。

長親の幼馴染で歴戦の強者、丹波(佐藤浩市)。その丹波をライバル視する豪傑・豪腕の和泉(山口智充)。戦の経験は無いが“軍略の天才”を自称する靭負(成宮寛貴)。
忍城で、のぼうを盛り立てるキャラクターたちは、イメージどおり。
榮倉奈々の甲斐姫も中々ツンデレな感じが良く出ていて可愛かった。
三成軍も、脇を固める大谷吉継(山田孝之)、長束正家(平岳大)が、これまた素晴らしい。
久しぶりに老若男女が映画館で一緒に笑ったり、熱くなれる、時代劇の誕生だ。

思わず笑えるが、小気味よい人間ドラマと、スペクタクルシーンの両立がこの作品の最大の魅力。
北海道の苫小牧に東京ドーム20個分のオープンセットを建設し、CGIだけでなくライブアクションにもこだわって、素晴らしい戦国エンタテインメントを成立させた。
「こころ」を感じる戦国スペクタクル。
大きなスクリーンで成田一族のユニークな戦いぶりを是非、堪能してほしい。


2012年11月2日金曜日

リンカーン秘密の書

1800年代のアメリカ。 南部では黒人奴隷を餌にしてヴァンパイア達が繁栄していた。 開拓農民の家に生まれ育ったリンカーン(ベンジャミン・ウォーカー)は、最愛の母を死にいたらしめた地元の名士、ジャック・バーツ(マートン・ソーカス)がヴァンパイアであることを知り、復讐を誓う。 第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンの夜の顔はヴァンパイアハンターだったという設定のアクションホラー映画。 

 ティム・バートンがプロデュース、監督は「デイ・ウォッチ」や「ナイト・ウォッチ」で名を馳せたロシア人監督のティムール・ベクマンベトフ。
この二人がタッグを組んで料理した絶好の題材がこの作品。
原題はシンプルにズバリ、「ABRAHAM LINCOLN: VAMPIRE HUNTER」。
邦題がなんでここまでカッコ悪いのかは置いておいて、久しぶりにテンション駄々上がりのアクションホラーを見ましたよって感じ。
 ホント、今年は映画の当たり年だ。邦題は死ぬほどダサいが、この作品も是非見てほしい。

 誰もが知っているリンカーン大統領。 彼が掲げた奴隷解放運動は、実はヴァンパイアとの対決、殲滅戦のためのもので、南北戦争はヴァンパイアと人類の戦争だったという荒唐無稽アクション。 凄まじい馬鹿設定にも関わらず、一貫したダークなトーンと、伏線。
巧妙に史実を絡ませて知られざるヴァンパイアとの戦いを描く魅力的なシナリオで、ついつい引き込まれてしまった。

この監督、とにかくアクション描写が美しい。
カーチェイスならぬ、あり得ない群馬チェイスや、悪乗りスタイリッシュな機関車のファイトシーンなど、おいおい、そりゃねーだろと、突っ込みながらも拍手をしたくなる衝動に駆られるアクション描写の数々。

実は、まだ戦いは終わっていないということを示唆するラストシーンはお約束だが、流石にリンカーンが最後にどうなるかは誰もが知っているわけで、続編を作るのは難しいだろう。
いや、むしろこれは、これ一発で綺麗に終わってほしいね。

2012年10月27日土曜日

アルゴ

1979年11月4日、イランの過激派がアメリカ大使館を占拠した。
混乱のなか6人が脱出、カナダ大使の私邸に逃げ込む。
残る52人の大使館員を人質にとったイラン側の要求は、アメリカの援助の下で圧政を敷き、自らは贅沢を極めた末にクーデターで失脚、癌の治療のためアメリカに入国した前国王パーレビの引き渡しだった。
6人の脱出が発覚し、捕まれば公開処刑されるのは間違いない。
国務省はCIAに応援を要請、脱出作戦のプロ、トニー・メンデス(ベン・アフレック)が呼ばれる。
トニーが閃いたのは、ウソの映画を企画し、6人をロケハンに来たカナダの映画クルーに仕立て上げ、出国させるという前代未聞の作戦。
トニーの知人の特殊メイクの第一人者で、『猿の惑星』でアカデミー賞に輝いたジョン・チェンバース(ジョン・グッドマン)が協力を快諾する。


ターナーCIA長官 「ほかに“マシな最悪案”は?」 
ジャック・オドネル 「これが最高の最悪案。ズバ抜けています」

「事実は小説よりも奇なり」という諺を地で行く、凄い実話。
事件発生から実に18年後、当時の大統領クリントンが機密扱いを解除し、初めて世に明かされた前代未聞の人質救出作戦を主演も務めるベン・アフレックが硬派に映画化した。
石油の利権のために、トンデモな王様を政権の座に座らせてきたアメリカに対する憎悪が、そもそもの事件の背景にあることを映画は冒頭で、分かり易く説明する。
そして勃発した武装勢力と怒れる民衆による前代未聞のアメリカ大使館占拠事件。
大統領選を間近に控え、カーター大統領と政権は激しく動揺し、混乱する。
そんな中、前イラク政権の要職者の国外脱出を密かに支援してきた、CIAのプロフェッショナルが
立案した作戦は、カナダ人映画関係者に偽装して、偽物のSF超大作のロケハンを仕立て上げること。
あまりにも馬鹿馬鹿しく、壮大な嘘を成立させるため、国家予算を投じて偽の製作会社が設立され、豪華な製作発表まで行う。
この国家を挙げての大ボラの準備からして、心躍る。
危険を顧みず、長期にわたって彼らを匿ったカナダの友情。
映画界にCIAの協力者が居たことも、映画は実名で描き、脱出作戦の準備期間と、長過ぎる脱出までの72時間が緊迫感いっぱいに描かれる。
あまりにも成功確率が低そうな作戦の失敗を恐れた政権が、脱出直前に作戦中止を宣告してくるあたりから一気に観客のアドレナリンも全開状態に。
派手なアクションなど全くないが、熱いのだ。そして手に汗握るコン・ゲーム。

本当のヒーローは、その功績を人に称えられることもなく18年間沈黙を貫いた。
事件の真相が、政府によって情報開示されるまで。
奇想天外な真実と、プロフェッショナル達が織り成す、男のドラマ。

ぜひ、映画を超えた真実を劇場で体験してほしい。

エンドロール。
当時を回想するカーター前大統領のインタビュー音声が流れ、本当に本当にこれが実話だったことを改めて実感させられる。
そして劇中のイラクを描いたスチールと、記録写真や映像を対比させたり、メインキャストのスチールに並んで、実際の登場人物の写真が次々とスクリーンに映し出されて、驚くほど全てを可能な限り忠実に再現し、演出されていたことが判る。
この作品は俳優としても監督としても、ベン・アフレックの代表作の一つになることは間違いないだろう。

2012年10月25日木曜日

エクスペンダブルズ2

シルヴェスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ドルフ・ラングレンなどアクション映画の黄金期を支えたトップスターが集合。 無敵の傭兵部隊として活躍するという、もう映画がネタそのものの様な企画だった前作「エクスペンタブルズ」。

 映画としては、酷いもので、そもそもあれだけ強そうなメンバーを揃えたのに、敵が全くの迫力不足。 南米の田舎に居る不良軍人を、圧倒的に強い筋肉馬鹿たちが一方的に叩きのめしに行ってるだけの内容で、途中眠気にまで襲われたのを覚えている。

懲りずに作った続編がこの「エクスペンタブルズ2」。
スタローンは監督をサイモン・ウエストに譲って、彼らと渡り合える強敵として、ジャン=クロード・ヴァン・ダムをキャスティング。やはり敵が強いことは重要だ。

粗筋は例によって語るほどの内容でもないレベルなのだが(笑)、この作品は、かつて一世を風靡したアクションスターをこれだけ集めてきたという物凄さが売り。
そう考えるとそれぞれに、ちゃんとバランスよく見せ場を作った脚本は、よく出来ていたと言えそうだ。
前作は出オチみたいだったシュワルツェネッガーとブルース・ウィリスも今回は活躍しまくりで、アクション映画ファンを笑わせるための台詞遊びが飛び交ったりするのは当然として、役者を引退していたチャック・ノリスの雄姿が見られるなど、映画ファンにはたまらないネタも満載だ。

そして、この作品が徹底的にこだわっているのが、ライブアクション。
CGIを駆使したリアルだけど妙に現実感のないアクションシーンや、銃撃戦でも流血を表現しなくなってきた映画界への強烈なアンチテーゼだ。
この作品では、これでもかというくらい、血煙が上がり、あほかと言うくらい撃ちまくる。
メインキャストの平均年齢は50代をはるかに超えているが、ホントに元気。
早くも「3」を作る話が巻き起こっているらしいが、爺さんたちは無敵なのだ。


2012年10月14日日曜日

推理作家ポー 最期の5日間

1849年のアメリカ、ボルティモアでは凄惨な連続殺人事件が発生していた。それらの事件は、トリックも殺害方法も、エドガー・アラン・ポー(ジョン・キューザック)の推理小説に酷似していた。 エメット・フィールズ刑事(ルーク・エヴァンス)は、その頃、文無しでいざこざばかり起こし酒場を追い出されるような生活を送っていたポーに事件解決に協力するよう依頼。晩餐会の晩、最愛の恋人エミリー(アリス・イヴ)を犯人にさらわれたポーは、彼の小説を模倣して殺人を繰り返す犯人と対峙し、恋人を救い出すために立ち上るのだった。

 まんまじゃないかというくらいダサい邦題が付けられているこの作品だが、原題はエドガー・アラン・ポーの詩「大鴉(オオカラス)」を意味する「THE RAVEN」。
 実際に若くして変死した推理作家の草分け的存在、エドガー・アラン・ポーを主人公に、彼の変死の真相には、彼の小説通りに猟奇殺人を繰り返す模倣犯との対決があったという設定で作られたサスペンス映画だ。


監督のジェイムズ・マクティーグは、デビュー作「Vフォー・ヴェンデッタ」の頃から画はカッコいいけど、何とも微妙な映画を撮る人...という先入観を俺に植え付けている存在なのだが、この作品でもその期待を裏切ることは無い。
自信過剰で尊大、いけ好かないやつポーは、主役なのにあまり感情移入できるキャラクターにはなっていないし、対峙する殺人鬼も、超人的かつ悪魔的に活躍するのに、ラストに判明する真犯人は、まるで手際よく殺人がこなせたり、抜群の銃の腕を持っているようには見えないキャラクター。つまり、ストーリーに意外性が欲しいだけで設定された臭いプンプンの強引過ぎる展開に、俺は唖然とさせられたわけだ。まさに突っ込みどころ満載の110分。


主人公だって、せめて、「アイアンマン」のロバート・ダウニーJrに習って、笑える尊大さと自意識過剰振りをジョン・キューザックに炸裂させていれば、またちょっと印象が違ったものになったかもしれないが、この作品は殺人シーンが過度に残酷だというだけで、時代がかって上品ぶった三流サスペンス以外の何者でもない。

ラストの大事なシーンでポーの顔が、妙に田舎くさくて間抜けて見えるのは、演じているキューザックの問題なのか、それとも監督が悪いのか。
俺は監督の問題だと思う。そもそもあのアングルから、キューサックのアップにするあたり、作為的に笑いを取りに行ったと思わずには居られない。
死の淵を彷徨う男を描いたはずが、まるで空を見上げるザビエルの像みたいだった。
シリアスなミステリーやサスペンスとしては無しだ。絶対なし。(笑)

そもそもこの作品のラストなんて、いかにポーを史実どおり変死させるかに、苦労した結果、強引に「こうしちまいました」感が漂っていて、俺が謎解きや脚本の素晴らしさに感心し、拍手を送りたくなるような要素は全く無かった。

作品としてのアプローチは面白かったのに何とも残念な、だけど想定どおりの一作。

2012年10月8日月曜日

アウトレイジビヨンド

前作から5年。先代亡きあと加藤(三浦友和)が会長となり、関東の頂点を極めた暴力団「山王会」は、政界にまで影響を発揮するようになっていた。 一方、刑事の片岡(小日向文世)は、山王会の過剰な勢力拡大に業を煮やし、山王会と表向きは友好関係を保っている関西の「花菱会」を対立させようと、裏で策略を仕掛けていく。 そんな中、獄中で死んだと思われていた元山王会配下大友組の組長・大友(ビートたけし)が出所する。 また、かつては大友に恨みを抱いていた木村(中野英雄)も、山王会への復讐のときを静かに待っていた。 ヤクザに戻る気など、さらさらなかった大友だったが、かつて大友を裏切って今や山王会若頭にまで登りつめた石原(加瀬亮)は、大友からの復讐に怯えるあまり、彼の殺害指令を発する。 警察が仕掛ける巨大な陰謀、暴力団同士の覇権争い、そして復讐が連鎖する壮絶な抗争劇。 


 「全員悪人」。
前作「アウトレイジ」は、最早、義理も人情も形骸化したやくざ社会で、昔気質のやくざ組長大友(ビートたけし)が、カネと権力のために、汚い仕事を自分たちに押し付け、捨て駒の様に自分達を扱う組織幹部に、ついに反逆の狼煙を上げるという、バイオレンスエンタテインメントだった。

 飛び交う怒号、リアルで痛そうなバイオレンスシーン、救いの無い、しかしどこか哀しい北野ノワールが展開し、北村総一朗や小日向文世、三浦友和、椎名桔平、加瀬亮といった日頃、ヤクザ映画とは縁の遠そうな役者陣が迫力いっぱいに悪人を演じたのも大きな話題を呼んだ。
 主要な登場人物があらかた死んでしまう容赦ない展開と、「因果応報」という言葉を思い起こさせるような破滅的なラストシーンで、これは続きを作りようが無いと誰もが思ったはずだ。

 しかし、「アウトレイジ」続編製作の計画は、実はかなり前から漏れ伝わっており、製作開始が3.11の影響で1年延期された末の公開に、これはどんな中身になるのだろうと、興味は深まるばかりだった。 発表されたキャスティングは、前作で生き残った面々に加え、西田敏行、神山繁、塩見三省、高橋克典、桐谷健太、新井浩文といった面々が新たに勢揃い。いずれも期待を煽る悪そうな顔触れだ。 

川崎のシネコンは、どこもほぼ満席の入りで、TOHOシネマズに入れずに109シネマズに席を取ったほど。 こういうのも久々だ。 そして蓋を開けてみれば、心配が杞憂に終わる怒涛の展開に見ているこちらも巻き込まれていく。

 実は過激な暴力描写ばかりが話題にされた前作も、好き嫌いはあるにせよ、様々な組織や人物の思惑が交錯する複雑な内容を上手に見せた面白いストーリーだった。

 今回は、一言で言うなら、前作にケジメを付ける内容。
山王会会長の関内(北村総一郎)を謀殺して、会長職に付いた加藤(三浦友和)と、経済ヤクザとしての才覚を買われ大友組を裏切って、加藤の下で出世した石原(加瀬亮)が、死亡説が流れていた大友の出所を機に一気に破滅へと転げ落ちていく内容は非常に上手くまとまっている。
 まさに前作を凌ぐ「因果応報」。
一番汚い奴は誰なのか?
 最大限に楽しむためには、前作のチェックは必須だろう。
 しかし、アイドルみたいな出演者が皆無、全員が本物の演技派という作品は物凄く豪華で満足度が高いよね。
北野監督独特の乾いた暴力と、最悪が連鎖した果てに見え隠れする皮肉な笑いと爽快感。
凄む役者の表情と怒号を映画館の大画面と良い音響で、是非、堪能して欲しい。

最後に...完結編とか言いつつ、続くね。これは(笑)。

 

2012年10月3日水曜日

ボーン・レガシー

マット・デイモン主演の「ボーン」シリーズは、記憶を失ったアメリカの特殊工作員「ジェイソン・ボーン」が、追っ手を交わしながら自分に隠された謎に挑むサスペンス。 国家にとって危険な存在と化したジェイソン・ボーンを抹殺しようと、次々と現れる追っ手。これを撃退しつつ、彼が組織に復讐を果たそうとする様を描いた一連の作品は、近年のスパイ映画の中では誰もが認める傑作だ。 今回の「ボーン・レガシー」は、「ボーン」シリーズの番外編とも言える作品。 凄腕工作員「ジェイソン・ボーン」がもはや自分たちにとってコントロール不能に陥いったことに危機感を覚えたCIAが証拠隠滅を図るために計画関係者を次々と暗殺していく。 そんな中、「ナンバー5」の呼称で管理されてきたアーロン(ジェレミー・レナー)も、自らの命が忠誠を尽くしてきた国家に狙われていると気付いて、反撃に出た。 つまりマット・デイモンこそ出演しないものの、この「ボーン・レガシー」はジェイソン・ボーンの戦いと平行前後して、組織に反撃を開始したもう一人の凄腕工作員の姿を描いたドラマなのだ。 そんなわけで可能であれば関連シリーズを事前に見ておくと、細かいシーンまで腑に落ちて楽しめると思う。 主役のジェレミー・レナーは、「アベンジャーズ」のホークアイ役なんかよりもはるかに活き活きとアーロンを演じているし、ヒロインのシェアリング博士は、ああ..レイチェル・ワイズじゃないか。ポチャポチャだった「ハムナプトラ」の頃が嘘みたいに美しかった。 監督はボーンシリーズにずーっと脚本で関与してきていたトニー・ギルロイ。 それだけに作中の雰囲気は、ボーンシリーズそのものだ。 本作、最大の見所はアクション。物凄いスピード感と、痛そうなアクションシーンは、今回も健在。 特に終盤のフィリピンでの追跡シーンや、激しいバイクチェイスは、名作として記憶に永く残せるレベルだ。 笑っちゃうほどのターミネーター振りを発揮して、執拗にジェイソンたちを追い詰めていく工作員の登場など。 一時たりとも目が離せない。

2012年9月29日土曜日

アイアン・スカイ

第二次世界大戦で敗走したナチス・ドイツが再興と地球への復讐をかけて、月の裏側へ潜伏。
ついに月から地球へ攻めてくる。

 あまりにも不謹慎な設定ながら、フィンランド=ドイツ=オーストラリア合作。
フィンランドB級映画界の雄、ティモ・ヴオレンソラ監督の下、世界中の映画ファンからのカンパ750万ユーロ(約7億5000万円)で製作されたというブラックコメディなSF馬鹿映画..それがこの「アイアン・スカイ」だ。

 「ドイツ人の血と尊厳の保護する」というナチス的価値観の元に、捕虜にした黒人宇宙飛行士を漂白してしまったりする馬鹿馬鹿しさの中で、蓋を開けてみれば、描いているのは、すっかりショウアップされ、広告宣伝戦争と化しているアメリカの大統領選や、アメリカ中心の国際秩序に対する皮肉の嵐。 流石は、ヨーロッパが作った馬鹿映画だ。
ナチスという彼らにとってのタブーを持ち出して、茶化しまくっている先は、実はアメリカなのである。

 そんな、地球人の私利私欲ぶりの方が、月のナチスよりも始末が悪いと言わんがばかりの展開に、俺は抱腹絶倒させられることになった。 一番の見所は、月で信じていたナチスの価値観が地球を見て揺らぎ、どんどん美人になっていくユリア・ディーツェ演じるヒロインのリヒター。この女優さん、ホント、シーンを追うごとに可愛くなっていく。 主人公でありながら、殆どのシーンを不自然に漂白されてしまった姿で、駆けずり回ることになる黒人俳優クリストファー・カービーの熱演も爆笑モノ。

ステファニー・ポールのアメリカ大統領や、広報官のヴィヴィアン・ワグナーといった地球側女性キャラの滅茶苦茶さ、始末の悪さから、女性の社会進出で崩壊していく世界を男性中心のナチスの価値観と対比させて、これまた皮肉ってみせる。

 地球各国の私利私欲が爆発するラストを、敢えてちょっと静かで切ない感じに見せるところなんて、実にセンスを感じた。

 ナチス的デザインを絶妙なセンスで、宇宙船に落とし込んだ美術をはじめ、映画らしく割り切った虚構世界は、SFファンや馬鹿映画好きのハートに刺さること間違いなし。 ハリウッドから送り出される大作SFに対するアンチテーゼとも言える会心の一撃が、繰り出された印象だ。
 久しぶりに、これは、歴史に残るヤバい馬鹿映画だと思う。

 

2012年9月25日火曜日

ロック・オブ・エイジズ

1987年のハリウッド。数々のロックスターを世に送り出してきた名門ライブハウス「バーボンルーム」を舞台にしたマッシュアップロックミュージカル。 店のオーナー、デニス(アレック・ボールドウィン)の下で働きながらロックシンガーを目指す青年ドリュー(ディエゴ・ボネータ)は、シンガーを目指してオクラホマから出てきたシェリー(ジュリアン・ハフ)と恋に落ちる。ある日、バーボンルーム出身の大スター、ステイシー・ジャックス(トム・クルーズ)がボーカルを務めるロックバンド「アーセナル」の解散ライブが店で開催される。

  久々にテンションがマックスに上がるミュージカル映画を見た。 作中で演奏され、キャラクターたちが歌い上げるのは、ガンズ・アンド・ローゼス、ポイズン、ウォレント、エクストリーム、ボンジョビ、デフレパードにジャーニーなど、まさにハードロックが輝きを放ち、ロックスターがレコード業界の華だった最後の時代の名曲の数々。

 多感な時期に聴いていた洋楽といえば、専ら彼らのハードロックだったという俺たちの世代にとっては、限りなくツボ。 特に、この時代の猥雑で馬鹿で、キャッチーなロックが少なからず影響して、レコード業界に就職してしまった俺にとっては、最初から最後まで、映画館に居ることを忘れそうになるくらいエキサイティングだった。

 粗筋は単純明快。ロックスターを夢見る若者が、恋や挫折を味わいながら成長し、酒浸りで堕落しきっていた伝説のロックミュージシャンが、再生と復活を遂げるという最高にハッピーなロック映画。

 ロックミュージシャンを夢見てデビューを果たそうとする若者が、ロックの衰退と共にラップを歌うアイドルグループに仕立て上げられてしまうくだりなんて、あの当時の音楽シーンを現役で体感してきた音楽ファンにとっては、抱腹絶倒モノだし、ちょいちょいカメオ出演しているロックミュージシャンたちを探すのも楽しい。 

また、意外な形でマッシュアップされた、名曲の数々は懐かしさと同時に、あの時代のロックの魅力を再認識させてくれる。
 新人の主役男女二人も、歌は目茶豆茶上手いけど、アクセル・ローズに指導を受けたというトム・クルーズが、ヘロヘロの大物ロッカーを怪演しているのが、やはり最大の見所だろう。
 ヴァン・ヘイレンやローリング・ストーンズみたいなカリスマ性は感じないものの実は、産業ロックのよく居そうなヴォーカリスト以上のレベルで歌えるトム・クルーズ。これはまさに新発見。
 特にデフ・レパードなんかは、ピッタリはまっていた。 

それから驚いたのはアレック・ボールドウィンの肥満ぶり。全然誰だか判らなかった。 他にも圧倒的なインパクトを残すキャサリン・ゼタ=ジョーンズや、さすが本職と拍手を送りたくなるメアリー・J・ブライジなど、脇役も全員豪華絢爛。 

DVDまで待つなんてしみったれたことは考えずに、劇場の大音響、大画面で、クレイジーに盛り上がりたい。
やべぇ、思い出したらテンション上がってきた。
ロックが好きな仲間と、もう一度見ようかな(笑)。





2012年9月20日木曜日

白雪姫と鏡の女王

「インモータルズ -神々の戦い-」のターセム・シンが新作に選んだ題材は、ジュリア・ロバーツとフィル・コリンズの娘リリー・コリンズを主演に迎えての「白雪姫」。 子供からオトナまで楽しめる上に、とびっきり元気なテンションの作品に仕上がっている。 まず、悪役でありながら美に対する努力を惜しまない女王(ジュリア・ロバーツ)が光っている。 かつてはラブコメディの女王だった彼女が、老いを恐れる女王役を演じるのは、それはそれで中々挑戦的なキャスティングだと思うのだが、ジュリア・ロバーツは実に楽しそうにそれを演じているし、嫌な奴ではあるもののまるで憎めない。  白雪姫を演じるリリー・コリンズは、日本のバブル時代を思い出させる太さの眉毛で、登場した段階でツボに入っちゃうインパクトを与えてくれるわけだが、見慣れるのか時間の経過と共に物凄い美人に見えてくる。 魔女と白雪姫に共通して言えるのは、情けない男たちに対して、この二人は強い女性として描かれたキャラクターだってこと。 王子なんて、ほとんどメインのストーリー上関係ない。 王子なしでも暴れられる、それが現代の「白雪姫」なのだ。 そして、ストーリーに欠かすことが出来ない小人たち。 盗賊団として描かれる彼らも、バランスよくキャラクターが描き分けられていて、ちゃんと個性が立っている。 ラストは突然の楽しいミュージカル調エンドロール。 ターセム・シン監督がインド出身だと言う事をここにきて思い出した。 豪華絢爛の衣装は、石岡瑛子がデザイン。 この作品が遺作となったが、実にインパクトが大きかった。

2012年9月8日土曜日

踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望

警視庁湾岸署管轄内で誘拐事件が起こり、数時間後に被害者は射殺体で発見された。犯行には警察が押収した拳銃が使用されたと見られ、所轄の捜査員には情報開示されないことが捜査会議にて発表される。

今から15年前に放送された「踊る大捜査線」のテレビシリーズは、娯楽ジャンルとしての警察ドラマの歴史を塗り替えた作品だった。刑事は銃をいつも携帯していたりはしないし、管轄や役割が事細かに決められ、規則でがんじ絡め。初めて官僚組織としての警察の構造を娯楽作品の世界で描くことに挑戦した野心作にして、ユニークな群像劇は、どこかサラリーマン社会にも通じるユーモラスさにあふれていた。
放送当時、社会人一年目で、まさに会社という組織の中で葛藤していた俺は、同じく警察という組織の中で葛藤する青島(織田裕二)や室井(柳葉敏郎)に共感を覚えたりしたものだ。
テレビドラマ以降、作られた映画は、ご存知のとおり次々と記録を塗り替える大ヒットになったが、残念ながら「映画」としては三流以下の出来で、育ててきたキャラクターや作品の財産を食い潰しただけの企画に思えた。
なにより、取材に裏打ちされたリアルな警察組織の事実に、ユーモアと虚構を加えて絶妙なバランスでエンタテインメントにしていたテレビ版の魅力とそれは、程遠いものだった。
そして、15年。観客もキャストも歳を重ね、ついにシリーズが完結されると聞いて、それを見届けるために劇場へ足を運んだ。

15年というシリーズの人気は流石だ。オープニングタイトルから、フラッシュバックでシリーズの歴史をさかのぼり、ストーリーはどうであれ、同窓会の様にスクリーンは楽しげだった。
劇中もリアルに時間は経過していて、芸達者な署長(北村総一郎)は定年して指導員になっているし、新しい署長は真下(ユースケ・サンタマリア)。ホントにそろそろシリーズも幕引き時だよなと、思わずにはいられない設定だ(笑)。
ストーリーは警察の内部腐敗を描いたもので、これまでの映画シリーズの様に、パッチワークのような酷い展開にはならず、1つの大きなストーリーを追い掛けるものになっている。
これまでの映画版に比べて、非常にダークな展開をみせる最終作は、青島と室井の組織の中での葛藤に、ひとつの終止符を打って見せる。
乱暴に過ぎるところはあるが、最後に「官僚組織の中で葛藤する刑事たちのドラマ」という原点に回帰して、それに蹴りをつけてみせたシリーズ最終作。俺は、ドラマからのファンとして楽しませてもらった。

映画としては、やっぱりあまり良い出来ではないけどね。(笑)

2012年9月7日金曜日

最強のふたり

首から下が麻痺したフィリップ(フランソワ・クリュゼ)の介護者選びの面接にやってきたのは、失業保険目当てのスラム街から来た黒人青年ドリス(オマール・シー)。
しかし、同情ではなく本音をぶつけてくるドリスをフィリップは採用。まるで異なる世界を生きてきた二人は、衝突しながらも徐々にお互いを受け入れ、友情を育んでいく。実話がベースの感動ドラマ。

大人になってから出来る友人というのは、特別なものだ。
今までの人生で経験してきたこと、見てきたことが異なる相手は、自分とは違ったセンスやものの見方をするし、自分に無い能力や美徳をもっていたりもするだろう。そういう相手と過ごす時間は刺激的だ。
似たような場所で生まれ育ち、共に成長してきた幼馴染とは全く異なる友情が芽生える理由はそこにあると思う。

「最強のふたり」は、まさにそんな関係の二人を描いた作品だ。
原題は「アンタッチャブル」。
「比類の無い」という意味であり、インドのカースト制度で最下層に居る人々を指す言葉でもある。
つまり、スラム街から来たドリスが、まるで住む世界の違う富豪のフィリップと、まさに比類の無い友情で結ばれていくというお話だ。

障害者に対する同情ではなく友情。そこに特別扱いは無く、あるのはいたわりだった。
地位や立場を超えて「ひと」として触れ合う。
相手の隠れた才能を見い出し、チャンスのお手伝いをする。
悪ふざけしたり、軽口を叩き合いながらも、お互いを認め合う眩しい友情は、画面から飛び出したり、宇宙から侵略を受けなくても人を夢中にさせる題材になった。

最高のキャスティング。
こんなにもみんなで笑って、見終えたときには、テンションをあげてくれる最高のドラマ。
お奨めの1本だ。



2012年9月4日火曜日

るろうに剣心

漫画原作の実写化と言えばアメコミばかりが幅を利かせている2012年。
邦画が放ったのはあの「るろうに剣心」の実写映画化。
時代考証が滅茶苦茶だろうが、敵に金髪頭が居ようが、これは漫画原作だ、関係ない。
ちょっと惚けたというか間抜けた剣心を学芸会レベルギリギリの水準で成立させた佐藤健。
そんな演技部分の弱さを補って余りあるのがスピード感の強い、これまでの邦画ではあまり見たことが無い水準のアクションシーンの数々。そして、香川照之、蒼井優、江口洋介といった演技派と、凛としたヒロインの武井咲、邪悪なオーラ全開の吉川晃司といった共演陣の健闘あってのものだろう。

監督はNHK出身でドラマ「ハゲタカ」「龍馬伝」等を演出してきた大友啓史。
題材は変われど相変わらず、リッチな画作りを堪能できる。
音楽も、「ハゲタカ」「龍馬伝」と同じく佐藤直紀だ。


ぶっちゃけたいしたストーリーでもないし、続編があったとしても続きが見たい気は全然しない。
一見、無理めのこの企画を先ずは、ちゃんと成立させたという意味において、ご苦労様でしたぁ。

2012年8月28日火曜日

プロメテウス

世界の古代遺跡の壁画から、共通する星と巨人の図案。時代も場所も異なるこれら古代遺跡で見つかったサインを、考古学者のエリザベス(ノオミ・ラパス)は人類創造の鍵を解くサインだと考えていた。
やがて、遺跡に描かれていた星の所在が明らかになり、謎を解くため、巨大企業ウェイランド・コーポレーションはプロジェクトを結成した。
エリザベスや恋人ホロウェイ、女性監督官ヴィッカーズ(シャーリーズ・セロン)、精巧なアンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファスベンダー)らは宇宙船プロメテウス号に乗り込み、未踏の惑星を目指して出航する。


「エイリアン」の巨匠リドリー・スコット監督の新作は、なんと「エイリアン」の前日譚。
作品を謎に包んだプロモーション戦略の影響もあってだろうか、人類の起源などと大袈裟なテーマを振りかざしてはいるが、実はこの作品が「エイリアン」と関係が深いことすら、知らないであろう人は結構多い。
賛否が分かれるところだが、俺は、これはこれで賢明な判断だったのではないかと思っている。いや、むしろこの作品は世界観を「エイリアン」から借りてきているだけで、あれとは全くの別物と考えた方がしっくり来る出来栄えだと思った。
方々で辻褄が合わないと感じたり、デザインに違和感を感じたり、あの巨人なんだよとか、いろいろ突っ込みたくなってしまうのは、結局「エイリアン」の前日譚だと思って見ているからであり、これが独立した1本のSFホラー映画だと思えば、これにはまた少し違った印象を持っただろう。

それにしても、謎は謎のまま、理解不能なレベルで大袈裟に振りかざした「人類の起源」を結局うやむやにして終わらせてしまうこの作品。非常にもやもやする事は確かだ。
人類を創ったのかもしれない「エンジニア」と呼ばれる種族の目的が何だったのかも、よく分からず仕舞い。
しかし、スケール感、世界観、恐怖感、謎、全てにおいてよく出来た「雰囲気」の作品だ。
正直なところ、この中身で124分、興味を引っ張っる様な芸当は、巨匠でなければ難しかっただろう。
早くもこれの続編製作の話題が出ているが、俺は特に強く見たいと思わない(笑)。
嫌いではないが、誰かに絶対見た方が良いと薦められるような類の映画でもなかった。
映画としては、はっきり言ってガッカリした。

主人公の考古学者のエリザベスを演じたノオミ・ラパスは、「ドラゴン・タトゥーの女」のときの印象とはまた違って、可愛い女性らしさを感じさせるキャラクターになっている。それでいて、恐怖に蹂躙されながらも立ち向かい戦う姿は、まんま現代版のリプリー(「エイリアン」の主人公、シガニー・ウイーバーが演じたキャラクター)だ。
人間には、大きな野心があり、巨大企業のすることの裏には秘密の計画がある、そして戦う女性主人公...なんてのが、結局、「エイリアン」の世界観を貫いて語られてきた内容であり、簡単に言えば人間たちが自業自得で大変な目に逢うパニックホラーである。
そう考えてしまえば、3DやCGIで進化した映像以外、テーマ性に新鮮味なんてホントに全く無く、それでいて旧作品とは辻褄の合わない、単に、もやもやしたSFって事になってしまう。
なんで今、敢えてこの内容で撮ったんだ?そもそも製作の意図が分からない。ホント、止めとけば良かったのに(笑)位のことを「エイリアン」ファンだった俺に感じさせる、なんだか高尚な「雰囲気」のSFホラー。
あ、そうそう。シャーリーズ・セロン出てるよ。冷酷な役だったけど、綺麗だった。
この駄文に付き合った上で、それでも興味湧いた人は是非!!



2012年8月20日月曜日

アベンジャーズ

「アイアンマン」、「インクレディブル・ハルク」、「マイティ・ソー」、「キャプテン・アメリカ」この数年で公開されてきたマーベルのアメコミヒーロー映画は、実は全てこの作品を製作するために準備されてきたものだった。
「アベンジャーズ」とは、これらの個性的なヒーローが一堂に会して、地球の危機に際して力を合わせて立ち向かうアメリカの人気漫画を映像化したものだ。
観客に、それぞれのヒーローを知ってもらう意味で、各ヒーローを単独で映画化し、各作品のラストに、この「アベンジャーズ」への繋がりになるシーンを挿入して数年越しで観客に予告してきたわけだから、壮大な映画プロジェクトであることは間違いない。

海外では早くも物凄い観客動員で立て続けのヒット記録を樹立のニュースが飛び込んできているものの前述のヒーローについて多少なりとも知識や思い入れが無いと、はっきり言って「つまらない」映画だと思う。
言ってみればウルトラマン大集合とか、仮面ライダー大集合みたいなノリなのだが、富豪の自己中進派から、モンスターに変身する科学者、神からスパイに至るまで、チームを編成するキャラクターの世界観は見事にバラバラなので、これが許せなければ、まず「ありえない」映画だ。


それにストーリーは、追放された神が、異星人と手を組んで地球を襲うという、これまたとんでも話。
「マーベルって何?アイアンマンって何?」なんて女の子は勿論のこと、「アイアンマン」と「キャプテンアメリカ」は知ってても「マイティ・ソー」を見てないと何で神様出てくんの?と、クエッションの嵐だと思われるので、ホント、見る人を選ぶ映画だと思う。

この作品の正しい楽しみ方は、オタク系や馬鹿映画が大好きな連中と、酒飲んで、盛り上がるような見方だ。
だから、デートで行くならまだ、「トータル・リコール」とかの方がマシだ。
映画としては....続きとか、俺は、あまり見たい感じでは無かったね。(爆)




2012年8月12日日曜日

トータル・リコール

大きな戦争を経て正常な環境を失った世界。
人々に残された場所は、裕福なブリテン連邦と貧しいコロニーという2つの地域だけだった。
コロニーで暮らす工場労働者のダグラス・クエイド(コリン・ファレル)は、来る日も来る日も工場で働く日々に嫌気がさし、好きな記憶を売ってくれると評判のリコール社を訪れる。
しかし、突然、記憶の移植作業は中断され、警官隊が襲撃。
ところが自分でも知らなかった圧倒的な戦闘能力を発揮して、クエイドは警官隊を全滅させてしまう。
命からがら帰宅した彼に、今度は彼の妻ローリー(ケイト・ベッキンセール)が襲いかかる。
「果てして俺は何者なのか...。」


フィリップ・K・ディックの短編小説を原案に、以前にもアーノルド・シュワルツェネッガー主演ポール・ヴァーホーヴェン監督で映画化された事がある本作。
正直、シュワルツェネッガー主演の「トータル・リコール」は眠い映画だった印象しかないのだが、この作品は全くの別物。
CGIが可能にした近未来の世界観は、秀逸で、サスペンスと激しいアクションが息も衝かせず展開する。
主人公を始末しようと地獄の果てまで追ってきそうなケイト・ベッキンセールは、ほぼホラーの領域。
主演が、最初からアクションヒーローにしか見えないシュワルツェネッガーから、いかにも何処かに居そうな割と普通のオジサン => コリン・ファレルになった事で、ごく平凡な労働者だと思っていた男の隠された記憶が、次第に呼び覚まされていくというプロットも大いに盛り上る。

まるまるCGで作られた世界が、最新の大作アクションゲームのムービーを見ているみたいな印象になってしまうのも事実だけれど、ふと、あんなに昔に、CGもない中で「ブレードランナー」ってマジでよく作ったよなぁ..と思わず過去の傑作について考えてしまうほど、この作品の未来都市の描写やデザインは、古くて新しいエッセンスに溢れていて魅力的。
もうひとつの主役は、コロニーという街そのものだと言っても良いかもしれない。

設定も深く考えると説明が消化不良でよく分からないところがあったりするのだが、細かいことを気にする余裕すら与えないスピード感で、一気に押し切り、ちゃんと没入感を与えてくれるあたり、レン・ワイズマン監督の演出は、なかなかのもの。

久しぶりに、「世界観」を感じるSFを見た気分。壮大なSFの嘘に騙されに劇場へ行ってみよう。
夏らしい大作。つまり何も考えなくても楽しめる。大満足ですね。

2012年8月7日火曜日

ダークナイト ライジング

ゴッサム・シティを襲撃したジョーカーを倒したものの、ハービー・デント検事殺害の罪をかぶり、姿を消したバットマン。その8年後、再びゴッサム・シティに戻ってきたブルース・ウェイン(クリスチャン・ベイル)は、街の破壊をもくろむ新たな強敵ベイン(トム・ハーディ)を前に、バットマンとして対峙する……。

トラウマを持ったカネ持ちの生身のおっさんが、カネにモノを言わせて作った凄いスーツと戦闘メカの数々を駆使して、変態な強敵と闘う...。
そんなバッドマンは以前にも実写映画がシリーズ化されていたことがあったわけだが、ぐっとダークにオトナな「バッドマン」を再構成したクリストファー・ノーラン監督のシリーズは、前作「ダークナイト」で悪役ジョーカー(ヒース・レジャー)の狂気が、この手のアメコミ映画に反応しないような映画ファンをも興奮させ、さらに直後にヒース・レジャーが急死してしまった事から、伝説化した。

 そんな前作で、あまりにも悪の華が強い薫りを放っていただけに、そこらの悪役と、主人公のトラウマを持ったカネ持ちの生身のおっさんでは、到底パワー不足になるだろうと思っていた。
そもそもカネ持ちのおっさんは、なんか共感され辛い。
しかし、この作品では、まさに先の戦いでボロボロになって引き篭もっているブルース・ウェインが、再び立ち上る姿が主題になっている。
策略で全ての財産を失い、満身創痍、絶望の底へ落ちた男が、立ち上がり、這い上がって闘う、まさに「闇の騎士が立ち上る」ストーリー。
観客も共感できるヒーローとなってバットマンが、本当の意味で主役を取り戻した。

ジョーカーほどの強いインパクトは残念ながら無く、尺の割には映画だけでキャラクターの魅力が描ききれていないようにも思えた今回の悪役ベインだが、ちょっと想像を超えるような護送機からの空中脱走劇に始まり、見せ場は盛り沢山。
相変わらず長い(165分もある)このシリーズの尺を長いとまるで感じさせないのは、ベインの暴れぶりの賜物だろう。
更には旧シリーズのミシェル・ファイファーを超えたなと個人的には感じた、アン・ハサウェイのセクシーなキャット・ウーマンの登場。最後の最後まで美味しいところを横からさらう活躍は見ていて小気味よい。

何より、ラストシーンはシリーズ最終作を飾るに相応しく、満身創痍のヒーローに安息の時を与え、なんとも幸せなキモチにさせられた。
映像の完成度は、予告編の段階で言わずもがなだったが、ドラマとしてもクリスチャン・ベイルのバットマンにとって完璧な完結編だった。



2012年7月21日土曜日

シャーク・ナイト

美しい水と緑に囲まれたクロスビー湖。
6人の仲間たちを連れて、別荘へ遊びに来た大学生サラ(サラ・パクストン)達を本来そこに存在しないはずの大小さまざまなサメが襲う。


訪れたムラが、なんと村ごと、とんでも無い連中の集まりだったみたいなパニックホラーは、かなり使い古された話の展開だけど、それに加えていろんな種類のサメを放ってみました..というのが、この作品。

ストーリーはあってないようなもので、間抜けで馬鹿な大学生グループが、サメを飼ってる変態野郎共の陰謀で次々と、サメの餌食になるってだけの作品。
「ジョーズ」の時代は、水面からのぞいた背鰭がどんどん近付いて、でも、その全容はなかなか明らかにならない、そういう勿体付け感がまた、味だったんだけど、CG全盛の昨今では、そりゃないだろって突っ込みどころ満載のバリエーションでサメが次々出没。3D上映じゃないけどガンガン画面に飛び出して、そりゃもう大暴れ。
そこかしこにB級感の漂うパニックが展開されます。

キャストも大半が誰だこれって役者さんばかりだし、ヒロイン含めて、可愛くて若い女の子の水着姿が売りだろうよ、この手の映画ならって思うものの肝心の女の子達がこれまた、たいして可愛くないという(笑)。
変態野郎どもは、餌代だけでも大変だろうに、まぁ、いろんな種類のサメを飼っていて、ご丁寧にサメにカメラを付けて怯える大学生たちを撮影している始末。
一番笑ったのは水上バイクで逃げるムキムキの兄ちゃんを、正面から水上に飛び出た大きなサメが一呑みにするシーン。もう、怖いとか残酷とかじゃなく、これは漫画です。

悪乗りに呆れるばかりの90分。
中途半端な悪趣味と、華の無い出演者のせいで、漂う残念感。
女の子のレベルと、話の面白さで「ピラニア3D」が群を抜いてた事を図らずとも実感することになったのであった。



ソニーの定額制音楽聴き放題サービス「Music Unlimited」に登録してみた

とうとう日本にも上陸したソニーの定額制音楽聴き放題サービス「Music Unlimited」に登録してみた。

30日間の無料体験期間以降は継続すると月額1,480円のクラウド音楽配信サービス。
ソニー、ユニバーサル、EMI、ワーナーの主に洋楽とインディの楽曲1,000万曲が、PCやPS3、外出先ではアプリを通じてAndroidやiPhoneなどのスマホ、そしてPS Vitaなどで楽しめる。

日本のレコード業界のCDの生産規模は最盛期の半分以下になってしまい、10年近くにわたってそれを違法なダウンロードのせいにばかりしているうちに、今度はケータイのスマホ化で着うたに牽引されていた配信の市場までも規模の縮小トレンドに歯止めが利かなくなってしまったというのが今の状況。
海外で盛り上がっているこの手のサブスクリプションサービスから、国内のレコード会社が目を背け続けることが得策とは、俺には思えない。
だからとっとと、邦楽の楽曲も解禁しとけよと思うわけだが、今のところは前述のとおり洋楽中心だ。

月額1,480円と言えば、輸入盤1枚くらいの価格だ。
かつては月に5,6枚はアルバムを買っていた俺が、パッケージ、配信を問わず今や年に2,3枚分しかアルバムにカネを消費しなくなっていることを考えても、1,480円×12ヶ月をユーザーが支払ってくれるかもしれないサービスは、業界全体を今より潤わせる可能性が大きい。

海外では当たり前に普及し、合法的な音楽業界の収益源として注目されている月額聴き放題のサービスが、ようやく国内でも展開できるようになったことは素直に歓迎すべきことだと思う。

ここからは、あくまでエンドユーザーの一人として使ってみて思ったこと。
「Music Unlimited」は、まだまだ発展途上だ。

結論として
個人的には1500円近く支払う価値には至っていなかった。

使用感は自分にパーソナライズされた洋楽の有線放送を聴いている感じ。
ラジオかアルバムを通して聴いている状況に、非常に近いのだが、戴けないのはたまに、というか、しばしば(笑)途切れること。
これは音楽を有料で聴かせるサービスである以上、最低限乗り越えて欲しい課題だ。
HE-AAC 48kbpsというビットレートはぶっちゃけ、アーティストが公式にYoutubeに上げているPVと然程、音のクオリティに差がでない。
むしろ、操作に対するレスポンスや、安定感は動画まで見れるYoutubeの方がはるかに上を行く様に感じた。

俺は、外で音楽を聴くなら、デジタルアンプ等を搭載して聴かせる為のシステムにこだわったウォークマンでと決めている。
しかし、なんとAndroidのOS積んだウォークマンにしか、「Music Unlimited」は対応してくれていない。つまり俺の愛機では聴けないのだ。
ソニー製のサービスなのにソニーが音楽を聴かせるために技術を磨いてきた従来からのハードウエアには未対応という悲しさ。

仕方なく、iPhoneアプリで聴くわけだが、ビットレートが低くて、哀しいくらいに薄っぺらいチャチな音質が、そもそも音が安いiPhoneで聴いているせいで余計に際立ったように感じ、一気に萎えた。(個人の主観ですw)

AndroidやPS Vitaでは、事前にインターネットに接続してプレイリストやチャンネルをキャッシュすることで、オフライン再生も可能。地下鉄や飛行機など、インターネットに接続できない環境でも、お気に入りのプレイリストやチャンネルを楽しめることになっているのだが、これにもiPhoneアプリは未対応。
ストリーミングしながらの再生で時折ブチッと音が途切れるし、早送りも巻き戻しも無くて、曲単位での送りと戻ししか出来ない。

そんなわけで、少なくともソフトバンクのiPhoneで、地下鉄通勤メインの俺にとっては、現実的に「Music Unlimited」の外での利用は楽しめないことが分かってきた。
これがAndroidのスマホやウォークマンだと、どう聴こえるのだろう。
試せる人は感想をぜひ、聞かせておくれ。

そんなわけで、ひとまず、俺は30日間の無料期間が終わったら解約する事に決めた。

それでも、この間、愛用しているVAIOの1.5TBのHDDがクラッシュして、おびただしい容量の楽曲ファイルの避難と、工場から復活して返ってきたPCへの再投入に、瞳孔が開きそうになるほどの時間を費やしたばかりの俺としては、個人が個々にとてつもない量の楽曲ファイルをストレージしておく時代より、クラウドベースで音楽を楽しむスタイルの方がはるかにスマートだと信じている。

だから、ソニー頑張れ。
はやく使い物になる、サービスに「Music Unlimited」を育ててくれ。
なんといってもお前は今や、世界最大のタイトル数を誇る音楽出版事業を抱えている企業体なんだから。
 “make.believe”させてくれよ。メッセージの意味はよく分からないけどさ。

かつてCDやDVDの流通でゴハンを食べさせてもらっていた端くれとして、そして何よりひとりの音楽ファンとして、ソニーよ。君に俺は期待している(笑)。

■今、「Music Unlimited」で一押しされてるChris Brown。
 自宅のサウンドシステムに繋げたときの音質は↓の動画とほぼ変わらない。


■「Music Unlimited」
http://www.sonyentertainmentnetwork.com/jp-ja/music-unlimited/why-music-unlimited/

*この投稿の内容は多分に個人の主観が含まれています。
だから、実際どうなのよと思った、そこのお前は、ちゃんと自分でアカウント作って、先ずは使ってみることをお奨めする。1ヶ月無料だし。

<余談>
日本レコード協会の統計資料
(2011年版) http://www.riaj.or.jp/issue/industry/pdf/RIAJ2011.pdf
(2012年版) http://www.riaj.or.jp/issue/industry/pdf/RIAJ2012.pdf

2012年7月17日火曜日

崖っぷちの男

実業家(エド・ハリス)から30億円のダイヤモンドを横領した罪で服役しているニューヨーク市警の元警察官ニック・キャシディ(サム・ワーシントン)が、脱獄。
高級ホテルの高層階の窓枠を越え、飛び降りようとする。
大勢の人が固唾をのみながらニックを見守る中、彼は要求を伝えるための交渉人としてニューヨーク市警の女性刑事リディア(エリザベス・バンクス)を指名する。


荒唐無稽だけど、アイディアの勝利。
まさに人生の「崖っぷち」に立たされた元警官が、自らの無実と、自分を陥れた者たちへの復讐を成し遂げようとする映画。

当初、共感不能。理不尽かつ身勝手にしか見えなかったニックの行動が、やがてどうやらある意味と、目的をもったものであると分かってくる。
次第に敵・味方も明らかになっていって、ストーリーは加速。一気に観客のキモチをつかんで、爽快感さえ感じるラストまで突っ走る。
映画的な嘘やご都合主義に一々揚げ足を取るのは忘れて、ここは作品のテンションに身を任せてしまおう。
何にしても、この手の作品に出遭えるのは、結構久しぶりだから。

地味だけど、出てくる役者は粒そろい。
「アバター」で主役を務めていたはずなのに、CGにばかり目を取られて多分、誰も覚えていないサム・ワーシントンが主役だから(爆)、多くの観客は変なイメージに引き摺られること無く、ニックの追い詰められ感に共感できると思うし、名優エド・ハリスを久々に拝めたのも嬉しかった。個人的にはニックの弟の恋人。セクシーラテン系姉ちゃんを演じてたジェネシス・ロドリゲスに釘付けでしたね(笑)。
物語で鍵を握る存在の女性刑事リディア(エリザベス・バンクス)が、終わってみるとイマイチ印象に残らなかったりするのは惜しいけど、脇役もみんな魅力的。

それにしても1950年代とか60年代のヒッチコックが世に送り出したようなサスペンス映画に、付けられていそうな邦題で、ひょっとしたら随分損してるんじゃないかな。この作品は。
なんか今のセンスでは、面白く思ってはもらえなさそうだよね。このタイトルじゃ。
それにヒッチコックの作品と比較できるほど、構成が素晴らしいわけでも、粋なわけでも無いし。惜しいところだらけの気がするけど、まぁ、ドキュメンタリー畑出身、アスガー・レス監督の長編デビュー戦だって言うならそこは暖かく見守って、今後の活躍に期待しようじゃないか。


期待せずに見れば吉の掘り出し物系作品だと思うので、「1時間半くらいでサクッと楽しめる面白い映画、なんか無いかなぁ。」
なんて時の暇潰しに見る分には、最適の作品です。


2012年7月16日月曜日

BRAVE HEARTS 海猿

海難救助の「最後の砦」と呼ばれる羽田の特殊救難隊に異動していた仙崎大輔(伊藤英明)と後輩の吉岡(佐藤隆太)。吉岡にはキャビンアテンダントの美香(仲里依紗)という恋人が出来ていた。そんなある日、羽田空港に向けて飛行中のジャンボ旅客機のエンジンが炎上する事故が発生。その飛行機には美香も乗務していた。
夕闇が迫り視界が悪くなる中、旅客機の村松機長(平山浩行)は前代未聞の東京湾着水に向けて降下を開始した。


羽田空港に隣接したあの基地が、特殊救難隊なのか...と、今まで救難機の離着陸をたまたま目にしても、それが何かをあまりよく知ずにいた地元民の俺も、さすがに羽田沖にジャンボが緊急着水するというプロットには興味をそそられずには居られなかった「海猿」最新作。

奇をてらって3Dにした前作よりも一層シンプルに、かつダイナミック。
この作品だからこその本物の艦艇や救難ヘリが画面を所狭しと動き回り、ひたすらドラマは男くさい。

お気楽で平和な日々→未曾有の大事故→絶体絶命の救出劇→しかし、二次遭難発生→生還という、すっかり映画版でお決まりの「海猿」フォーマットに綺麗にはまった本作には、良くも悪くも全くと言っていいほど意外性が無い。
言い換えれば、観客がこのシリーズに期待したとおりのモノを期待通り見せてくれる。
羽住英一郎監督のシリーズ集大成とも言える出来栄えだと思う。

エンジンが壊れて、脚も出ないジャンボを生還させるために前代未聞の決断として描かれる東京湾着水。
ライヴアクションもCGも頑張っていて、パニック映画のシズル感が好く出ていた。
本音を言えば、もっと見応えが欲しかった気もするけど、これは絶対、大画面とよい音響で見て欲しい映画。
テレビ放送やレンタル版で見るのはちょっと、勿体無い。

ところで、前作の公開後、映画以上にインパクトの大きな災害と事故を日本は体験した。
本作ではちょっと力み過ぎだけど(笑)、未曾有の大事故に際して、行政も民間も、立場や役割を超えて協力し合い、限られた時間でベストを尽くす姿が感動的に描かれる。
こうして非常に理想的に美しく描かれる映画の中の救出劇が「映画」だからのファンタジーに終わってほしくは無いと、つい考えてしまう。それだけの事が、この1年の間に日本人の記憶に刻み込まれている。

いずれにしても、アメコミヒーローなんかではなく生身の人間である海上保安庁の救難隊を描くドラマは、3.11を挟んで、より大衆にリアリティと強い関心を抱かせるものになった。
本来ならシリーズ最終作になるはずだった前作から2年、作られるべくして作られた熱を感じる好企画だ。


2012年7月1日日曜日

ネイビーシールズ/まさに最前線を追体験

医師に扮してコスタリカに潜入していたCIA女性エージェントが拉致された。
黒幕は、麻薬取引や武器密輸で暗躍し財を成す、通称クリスト。
アメリカ海軍特殊部隊NAVY SEALSに出動命令が下り、彼らによる急襲作戦はエージェントの救出に成功する。
押収された携帯電話を分析すると、クリストはイスラム系テロリストを支援。
新型の自爆テロジャケットを着込んだテロリストが、国境を越えアメリカへ向かおうとしていることが判明する。


「最前線を追体験」。
踊るキャッチコピーに嘘は無い。前代未聞。アメリカ海軍の誇る特殊部隊員自らが、自らを演じ、本物の装備と銃器、実践さながらの設定の下に対テロ戦争を描く、迫力いっぱいの本作。
あたかも彼らと行動を共にしているかのような映像体験は、観客にも緊張感を強いるもので、鑑賞後はどっと疲れる。

かつて無い規模と内容で米軍全面協力の映画だけに、家庭に帰ればよき夫でありよき父親、仲間とは公私共に一心同体、そしてヒロイズムと、多分に米政府のプロバカンダ的な要素が含まれて居そうな予感はあったのだが、それ以上に伝わってくるのは血と埃にまみれたリアリティだ。
時として残酷で、一瞬の判断の違いが生死を分ける戦闘へ、命令があれば実際に世界の何処へでも展開する彼らが演じているのは彼ら自身。
映画本編の殆どを占めるのは戦闘シーンだけに、役者が演じるミリタリーアクション映画と、本作はその本物感において比ではないが、ドラマ部分でも役者が演じる以上に、等身大の演技をみせる隊員たちの姿に、秘密のベールに包まれていた特殊部隊が、映画で主演を務めちゃうんだから、時代も変わったもんだと思わずにはいられなかった。

有名な役者不在。
まるでドキュメンタリーでも見ているかのような109分。




2012年6月25日月曜日

アメイジング・スパイダーマン

ネタ枯れのハリウッドは近年リメイクだのリブートだのに御執心で、「バットマン」に続いて「スパイダーマン」も作り直すんだ...と最初にこの企画を聞いたときにはあまり良い印象を持っていなかった本作。
しかし、予告編の圧倒的な飛翔感。しかも3D。まぁ、期待せずにチェックだけでもしておくかと、先行上映の劇場へ向かった。

で、どうだったのか?
前のシリーズ、あれはあれで好きだったのだが、もう、最初にはっきり言ってしまおう。
今回の「スパイダーマン」は最高だ。正直なところ、前のシリーズよりも気に入った。
前のシリーズを知らなかったり、アメコミの映画はチョッと...という人もきっと、夢中になれると思う。

先ず、言うまでも無いがこの作品は3D向きだ。
ニューヨークの空を飛翔するスパイダーマンを目まぐるしくカメラは追い、時には彼の視点で飛んでいる体験を観客にも与えてくれる。圧倒的な没入感。劇場の大スクリーンで、ぜひ、これは体験して欲しい。
映画を見ると言うより、映画を体験するという表現の方がしっくりくる迫力の映像体験が待っている。

続いてキャスティング。
主人公のピーター・パーカーを演じるのはアンドリュー・ガーフィールド。
ナイーヴさと、高校生らしい爽やかさや、真っ直ぐさ、行動力を持った魅力的なヒーローになっている。
ガールフレンドになるグウェン・ステイシー(エマ・ストーン)も、主張と行動力のあるキャラクター。
何より、しばしばゴリラ顔になってしまう前シリーズのヒロイン、メリー・ジェーン(キルスティン・ダンスト)よりも美人で華やか。
葛藤するより行動するタイプに生まれ変わったメインキャラに引っ張られて、テンポやテンションも前シリーズより大分上がったように思う。

元々善人が、モンスターへと変異してしまう物語のパターンは、かつてのシリーズを踏襲している。本作でもカート・コナーズ博士を演じるリース・イーヴァンズが、なかなかに良い味を出していて、ちゃんと何故、彼がリザードに変身しなくてはならなくなったのかや、リザードなりの正義があることが観客に伝わってくる。

そして語られる物語は「スパイダーマン」の誕生。

爽快感に溢れるラストと、エンドロールの途中で、最近のお約束のように次作へのフリが挟まって、早く続きが見てみたくなった。
マーク・ウェブ監督には、この手のアクション映画のイメージがまるで無かったんだけど、次回作も是非、監督して欲しい。
でも、日本のバンドのタイアップは違和感満載だったな。wあれは今回だけの趣向にしてくれ(笑)。


2012年6月16日土曜日

スノーホワイト

魔力をもって王国を我が物とした女王ラヴェンナ(シャーリーズ・セロン)は魔法の鏡にいつも問いかけていた。
「鏡よ、鏡。この世でいちばん美しいのは誰?」「もちろん女王様です」。
女王を超える美貌をもつ娘が現れない限り、彼女の魔力は絶大で無敵のはずだった。
しかしある日、鏡はこう言った。「この世でいちばん美しいのは女王様ですが、やがてあなたよりも美しい娘が現れます。その時、娘の心臓を食べれば、あなたは永遠の美と若さを手に入れ、不死身となるでしょう」
その娘が自分の継娘スノーホワイト(クリステン・スチュワート)だと知った女王は、彼女を殺そうとするのだった。

プーマ、ナイキ、ノキア、トヨタなどのCMディレクターとして、クリオ賞、カンヌ国際広告賞など数々のアワードを受賞してきたルパート・サンダースの長編映画初監督作品。
CM出身の監督らしく、CGを多用して誰もが知る「グリム童話」の世界を飛び切りダークに、そして幻想的なビジュアルで再構成。オトナの「白雪姫」の世界を創造することに成功した。

見所は、邪悪な女王ラヴェンナ(シャーリーズ・セロン)と穢れを知らないスノーホワイト(クリステン・スチュワート)の火花を散らす美女対決。

特に若い娘から精気を吸いとらないと、みるみる老化してしまうラヴェンナ女王を演じるシャーリーズ・セロンは、CG以上に演技面でも冷酷な美女として観客の目を惹き付ける。
この手の題材では、「悪」に魅力が無ければ、主役は惹き立たない。
その点で、流石はシャーリーズ・セロン。いい仕事をしている。
一方、クリステン・スチュワートはなんといっても目が綺麗。
彼女の出世作にあげられている「トワイライト」のシリーズは一本も見たこと無いんだけど、この女優さんの佇まいとか、雰囲気はこの手のファンタジーにはホント、ピッタリで、凛としつつも可憐。
それから、ハンターのエリックを演じたクリス・ヘムズワースは、何だか昔のブラッド・ピットを見ているような雰囲気で、女性の観客も楽しめるんじゃなかろうか。

コマーシャル出身監督の初長篇映画演出だと、しばししばヴィジュアルが先行するあまり、話がメタメタになってしまうケースがあるわけなんだけど、その点、「白雪姫」という誰もが知る物語を題材として選んだのは実にクレバーだったと思う。
有名な物語を元にしたシナリオを自分のヴィジュアルイメージに再構築した結果は、「鏡」や「森」、「りんご」、「七人の小人」に至るまで、ああ、そう来たか!という驚きをもって楽しめた。
シナリオにはちょっと野暮ったいところもあっけど、長篇監督デビュー戦として、中々よい結果だったんじゃなかろうか。

最後に「白雪姫」って、そんなにダークで怖いおとぎ話だったっけ?って皆さん。
東京ディズニーランドで、「ホーンデッドマンション」なんかより、はるかに幼児が泣き叫ぶアトラクションは、「白雪姫」ですからね。(笑)

2012年6月3日日曜日

外事警察 その男に騙されるな

朝鮮半島で濃縮ウランの流出が判明。一方、日本では原発事故による立ち入り制限地域の研究所から、核兵器開発に利用可能な軍事機密データの消失が発生し、日本での核テロが懸念される事態となった。
日本に密入国するテロリストを取り締まるためなら、あらゆる手段を使う警視庁公安外事課の住本(渡部篤郎)は奥田正秀という男を工作員ではないかと睨み、その妻・果織(真木よう子)に接近。
韓国諜報機関NISも潜入捜査官を日本に送り込み、テロリスト、NIS、外事警察の思惑が交錯する中、事態はいよいよ切迫していく。


オウム真理教と警察との攻防を徹底取材のドキュメンタリー「極秘捜査」等、徹底的に取材して警察組織を描く作家 麻生幾の小説が原案。
これまで殆どスポットを浴びることが無かった警視庁公安部外事課をリアルに描き、2009年に放送されるや、異色の警察ドラマとして大きな評判をよんだNHKの「外事警察」の映画化。
水面下で組織が暗躍するドラマのダークな世界観そのままに、メガホンを取ったのはテレビ版に続いて堀切園健太郎。
ついでに大半のシーンも暗がりだ(笑)。

今回は、渡部篤郎、尾野真千子、石橋凌といったお馴染みのキャストに加えて、核の鍵を握る重要人物に、田中泯や、キム・ガンウを加え、緊張感溢れる演技バトルが火花を散らす。

徹底取材の末、映画的な嘘を巧みに織り交ぜた古沢良太の脚本は、誰も信じられない諜報戦を抑えたトーンで描き、リアリティにこだわった画の創り出す静かな迫力が、130分近い時間、観客にも緊張を強いる。

全てが明らかになるラストで、観客の前に提示されるのはまさに目的のために手段を選ばないダークな世界。
テレビドラマとは独立したエピソードになっているので、ドラマを知らなくても楽しめるが、ドラマ版に夢中になった記憶があるならば、ぜひ、劇場へ住本に会いに行ってみるべきだ。
「その男に騙されるな」。



2012年5月22日火曜日

ヘルタースケルター/沢尻エリカはリアルにリリコだった

芸能界の頂点に君臨し、人々を魅了するりりこ(沢尻エリカ)。
しかし、彼女の美貌は全身整形。「目ん玉と爪と髪と耳とアソコ」以外はすべてつくりものだった。
整形手術の後遺症が身体を蝕み始める中、美容クリニックの隠された犯罪を追うもの達の姿がちらつく。
結婚を狙っていた御曹司は別の女と婚約。さらにはトップスターの座を脅かす後輩モデルの登場。
究極の美の崩壊と、頂点から転落する恐怖に追い詰められたりりこは、現実と悪夢の狭間で滅茶苦茶に疾走する。


スキャンダラスに剥き出しの欲望が渦巻き、美しく在り続けることにのみ自らの存在意義を見出せるトップスターの転落と崩壊を描くこの作品。
いつか失われる「美」への恐怖。いつか「消費」され尽くし、「忘れられる」ことへの恐怖。
そして消費する大衆の「無責任」。そんなテーマの重さに正面から向き合いつつ、ポップな極彩色に彩られた蜷川実花の演出は、哀しくもポジティヴにストーリーを紡いでいく。

スキャンダラスでタブーな匂いが漂うセンセーショナルな作品。
話題だけで中身のヌルい、よくある漫画原作映画とは一線を画した野心作だ。

「美」意識を強く求められる世界でクリエイターとしての顔を持ち、まさに世間の欲望を体現した虚飾と儚げな世界の創り手の1人でもある女性監督-蜷川実花だからこそ語りえた物語がそこには広がっていて、一気に惹き込まれる迫力がある。
ヌードシーンやベッドシーンについても話題だが、扇情的というよりは美しく、そしてどこか哀しげだ。
大胆でありながらも原作の世界観に忠実な金子ありさの脚本も、漫画原作という難物を克服し、新たな価値を創造している。

 最近は専ら芸能ニュースの話題でしか名前を聞く機会が無かった気がする沢尻エリカ。
しかし、このキャスティングは話題づくりだけのものではない事を作品を見れば思い知るだろう。
この作品は、彼女が優れた「女優」だったことを思い出させてくれる。
沢尻エリカのイメージと皮肉なくらい重なるリリコという強烈キャラクター。
この作品の沢尻はリリコそのものだ。美しく痛々しいリアルなリリコを観客は目撃することになる。

また、事務所の社長を演じる桃井かおりや、マネージャーの寺島しのぶ。
検事の大森南朋、後輩モデルの水原希子、整形医の原田美枝子など脇を固めるキャスティングも豪華で曲者揃い。
こうなると唐突な感じのテーマソングが浜崎あゆみ(しかも昔の曲「evolution」)なのも、もしかしたら消費される音楽の代表ってコトなのかと勘繰りたくなる。

多くのファッション雑誌や広告が、作中から現実にリンクする仕掛けを初め、それらのビジュアルを写真家としての蜷川実花が撮りおろすなどマーケティング的にも野心的な試みに溢れ、公開時期の7月に向けて非常に展開が楽しみだ。


2012年5月20日日曜日

ロボット/あの「ムトゥ 踊るマハラジャ」のラジニカーントが無敵のロボットに!(笑)

天才工学者バシー博士(ラジニカーント)はついに自身にそっくりな究極の二足歩行型ロボット、チッティ(ラジニカーント・2役)を生み出した。
だが人間の感情をも理解するようプログラムされたチッティは、バシー博士の恋人サナ(アイシュワリヤー・ラーイ)に恋をしてしまう。
バシー博士の怒りを買ったチッティは遂には廃棄処分にされてしまうが、博士の恩師にしてライバル工学者の手によって改造。無敵のターミネーターと化してガンガン自分を量産、サナを拉致して人間たちに反旗を翻す。


この作品のインパクトたるや他に類を見ない。
先ず、インド発のSFアクション大作であること。
しかも、特撮部分は「ターミネーター」で有名なスタン・ウィストンの遺作。
あの「ムトゥ 踊るマハラジャ」のラジニカーントが無敵のロボットを演じる。
オープニングからタイトル以上に派手に「スーパースター ラジニカーント」って出る。
もう、それだけで別格扱いすぎて笑える。
インド映画だから当然、踊る。突然踊る。張りぼてな豪華さで、沢山出てくるダンサー間でイマイチ踊りが合ってないけど関係ない。
やり過ぎ大袈裟、馬鹿炸裂のアクションは、「少林サッカー」や「カンフーハッスル」に通じるノリ。
ストーリーは単純だけど、上映時間139分。これでも日本公開用に短く編集しました。

これでピーンと来た方は、是非劇場へ。
ピーンと来なかった方は、一生見る必要の無い映画です(笑)。

では、ピーンと来るか来ないか、とりあえず予告編をご覧ください。
ちなみに俺はこういうの大好きです。見るのは一度でいいけどね。(笑)


ダーク・シャドウ/とにかく女優陣が豪華で楽しいカルチャーギャップ・ホラーコメディ

コリンズポートの町の裕福でプレイボーイなバーナバス(ジョニー・デップ)は、使用人のアンジェリーク・ボーチャード(エヴァ・グリーン)を失恋させる。
しかし実は魔女であった彼女は、バーナバスの婚約者を呪いで殺し、さらにはバーナバスをヴァンパイアに変え、生き埋めにした。
二世紀の後、棺は工事現場で掘り起こされ、バーナバスは眠りから覚めた。
しかし、かつて壮大で華々しかった彼の土地はすっかり朽ち果て、さらにコリンズ家の末裔は土地同様に落ちぶれ、それぞれが暗い秘密をひたすら隠して生きていた。
バーナバスは、亡父の「唯一の財産は家族だ」という言葉を胸にコリンズ家の復興を目指すのだが……。


ティム・バートン監督×ジョニー・デップの8度目のタッグ作品。
もう、ティム・バートン監督のユーモラスで不気味で毒のある世界に、顔を白塗りにしたジョニー・デップという組み合わせはマンネリだよねと思いつつも、今回は、お馴染みのヘレナ・ボナム=カーターだけじゃなく、エヴァ・グリーンに、迫力たっぷりに老けたミシェル・ファイファーそれに「キックアス」以降、みるみるオンナになっていく注目株クロエ・グレース・モレッツなどとにかく女優陣が豪華で楽しい。

特に今回のヒロイン、ヴィクトリア役のベラ・ヒースコートって女優さんは全然知らなかったんだけど「コープス・ブライド」や「ナイト・メア・ビフォ・クリスマス」のヒロインにどこか通じる薄幸そうな美貌で、バートン監督のタイプなんだろな多分...とか、勝手な想像が膨らんだ(笑)。

作中しばしば語られる「血は水よりも濃い」という表現に在るように、これは代々呪われてきた一族が、呪いの元凶で代々一家を呪い続けてきた魔女と対峙する話であり、ブラックで笑える味付けだが、時代を超えた適わぬ恋の物語になっている。

ゴシックなバンパイアがカルチャーギャップに苦しむ様は、見ていて面白いし、敢えて2012年ではなく、1970年代に舞台設定してあるのもユニーク。
血に飢えていることに自責の念があり、心から一族の繁栄を願っていて、出来れば人間に戻りたいバーナバスは何処と無く「妖怪人間ベム」みたいな愛すべきキャラクターだ。

アニメ以外のティム・バートン作品の中では、この5年を代表する作品だと思う。


2012年5月6日日曜日

「宇宙兄弟」/マーケティングの勝利?

「二人で宇宙飛行士になる」幼い頃に兄弟で交わした約束を果たし、宇宙飛行士となった弟・ヒビト(岡田将生)。会社をクビになり無職となった兄・ムッタ(小栗旬)は、ヒビトからの1本の電話をきっかけに、再び宇宙を目指し始める。
やがて日本人初にして最年少で宇宙へと飛び立ったヒビトをアクシデントが襲う..。


漫画原作の邦画が次々と公開されてはヒットする中、近年、稀に見る熱い漫画「宇宙兄弟」の実写化の話には、当初、大丈夫かよと思わずには居られなかった俺。

ムッタに小栗旬というのもイメージ沸かず、製作のニュースが届いた時点では「?」だらけだったこの作品も、テンションの上がる予告編が劇場で流れ始めると麻生久美子の「せりか」さんなど、脇役までふくめて「おお、なんか意外にもこのキャスティング、イメージ通りかも!」と、いつしか公開が待ち遠しくなる程になっていた。

実際、東宝映画が制作する久々の超話題作だったし、公開前にはテレビアニメの放送も日曜朝に始まったりして、最高の状況で初日を迎えたんじゃなかろうか。
その証拠に劇場はかなりの入りで、おそらく狙い通り、小さな子供連れ家族の姿を多く見掛けた。

宇宙開発の歴史をCGでコラージュしたカッコいいオープニングに始まり、全編、気合の画作りと本物の施設を借りてのロケーション撮影でこれまでの邦画には無いリアルで熱い宇宙の話が展開されていく....はずだった。


しかし原作漫画のいい部分、月に到着したヒビトを襲うアクシデントと兄弟愛、そして生還と、本来なら劇中で一番の見せ場になるはずだったくだりがすっぽり抜け落ち、130分近い尺でひっぱってきたものを最後の数分で強引にまとめあげようとした大森美香の脚本は、苦しみぬいた痕跡を感じる一方で、そりゃねえだろという感想を禁じえないものになってしまっていた。

最初から脚本ってああだったんだろうか?
森監督がやりたかったのは、本当にこれだったんだろうか?(笑)

結果として、途中で性急かつ乱暴にやっつけられた様な印象になってしまった作品は、終盤、まるで別の制作者によるもののようだった。

劇場の入りは、マーケティングの勝利だ。
でも、映画としては残念ながら破綻している。


2012年5月2日水曜日

テルマエ・ロマエ / 異色コミックの素敵な部分をイメージ通り、見事に実写化

古代ローマの浴場設計技師ルシウス(阿部寛)は、公衆浴場で溺れ突然、現代日本の銭湯にタイムスリップ。そこで出会ったのは、漫画家志望の真実(上戸彩)たち“平たい顔族”(日本人)だった。
日本の風呂文化に衝撃を受けたルシウスは古代ローマに戻ると、そのアイデアを利用して大きな話題を呼び、やがてはハドリアヌス帝(市村正親)からも風呂作りを命じられる程の成功を収めていく。
風呂で溺れてタイムスリップを繰り返すたびに、現代日本から持ち帰った衝撃的風呂文化をローマの風呂作りに持ち込んで、浴場技師としての名声を得ていくルシウスだったが....。


よくもまぁ、こんなアイディアを思いついたよなぁと、読んで感心したヤマザキマリのコミック「テルマエ・ロマエ」を原作に、なんと阿部寛、北村一輝、宍戸開、市村正親ら濃い顔の日本人キャストたちが、イタリア人に混じって何の違和感も無く古代ローマ人を熱演。
市村正親なんかはもともとミュージカル出身の演劇人だから、外国人的身のこなしもバッチリで見事な皇帝ぶり。北村一輝なんて、もうローマの彫刻にありそうな風貌だ(笑)。

加えて、イギリスの大作ドラマ「ROME」で使ったチネチッタの巨大オープンセットが流用されていて(このドラマにハマってた俺としては、物凄く懐かしい風景がそこに!!)、本場の迫力に本気で作ったなかなか野心的なカルチャーギャップコメディなのである。

凄く気合入れて画作りしているローマのシーンに対して、タイムスリップのシーンは、そんなところに、世界三大テノールのひとり(プラシド・ドミンゴ)を使うなよという豪華さと、あえてのチープさを取り混ぜた奇跡の演出(笑)で馬鹿馬鹿しいほどにコミカル。
タイムスリップした日本の露天風呂のシーンでは、俺も大好きな伊豆の大滝温泉のあの画になる滝壺の脇の露天が何度も出てきたり、久しぶりにCM以外で上戸彩のコメディエンヌ振りが見られたりと非常に楽しかった。

異色コミックの素敵な部分をイメージ通り、見事に実写化したこの作品。
見終えると、あったかい風呂に入りたくなると同時に、当たり前に思ってた日本の風呂文化の素晴らしさに、改めて気付かされます。


2012年4月22日日曜日

タイタンの逆襲/ギリシャの神々は、ホント、人間にとっては迷惑(笑)

全能の神ゼウス(リーアム・ニーソン)と人間の間に生まれたペルセウス(サム・ワーシントン)が、怪物クラーケンを打ち破ってから10年。妻を亡くして今は、10歳になる息子ヘリウスを男手ひとつで育てながら、漁師として静かに暮らしていた。
一方、神は人間からの崇拝を失ったことで力が弱まり、投獄していた凶悪なクロノス率いるタイタン族を制御できなくなりつつあった。

リメイクとしては、派手なだけでかなり微妙だった「タイタンの戦い」の続編。
それでも、そもそもオリジナルが大好きなだけに、期待せずにと思いつつ劇場へ。
はっきり言って神々が内輪もめするだけの平坦なストーリーは退屈すら感じさせるものだったが、火を噴く双頭獣キメラのスピード感あふれるアクションシーンとか、一つ目の巨人の暴力的なユーモラスさとか、高速で迷路が動くタルタロスの牢獄なんて難易度高いテレビゲームみたいだったし、最後の圧倒的な巨大さとインパクトながら、意外と呆気ないクロノスとの最終決戦まで前作を遥に凌ぐ映像的興奮は一見の価値ありって感じに。

ハデスのレイフ・ファインズとか、ゼウスのリーアム・ニーソンとか、キャスティングは豪華なんだけど、どうもキャラクターの印象が薄いのはやっぱりストーリーがつまらないからだろうな。
二人のラストの見せ場は、CG以上に役者の力を感じさせるものがありましたけどね。
しかし全体的にはドカーンドカーンと、なんだか騒々しいだけで終わってしまい、アクションシーンの数々で吹っ飛ばされ、石柱に頭がぶつかっても、石柱の方が砕け、本当に人間かよ!と、突っ込みどころ満載のペルセウス(サム・ワーシントン)の石頭の事くらいしか他に思い出せない。(笑)

たいして期待していなかったとは言え、作品を通じて最も残念だったのは、この作品内で美人であって欲しいキャラNo.1のアンドロメダ女王(ロザムンド・パイク)がどうも、ただのオバサンにしか見えなかったこと。

しかしまぁ、ギリシャの神々は、ホント、人間にとっては迷惑な存在ですな。
って、そんな映画。


2012年4月15日日曜日

バトルシップ/海軍全面協力の最高のワルノリSF映画

ハワイ沖。各国の海軍艦船が集結する軍事演習が行われるなか、沖合に正体不明の巨大な物体が出現する。
それは、地球からの友好的な呼びかけに応じて飛来したエイリアンの母船だった。
エイリアンは次々と未知の武器を繰り出し、激しい攻撃を仕掛けてくる。
艦隊から孤立した米駆逐艦の新人将校アレックス・ホッパー(テイラー・キッチュ)と、日本の自衛艦の指揮官ナガタ(浅野忠信)は、孤立無援の中で知略の限りを尽くして立ち向かうことになるのだが....。



 ど派手なアクションシーンに彩られたお決まりの宇宙からの侵略モノ。
しかし、他に無くユニークなのは海軍が舞台で、駆逐艦とかイージス艦が主役だということ。海を舞台にしたバトルエンタテインメントで、男の子ゴコロをくすぐる爽快なミリタリーファンタジーだ。
玩具メーカーのハズブロ(日本の「トランスフォーマー」を海外でヒットさせたあの会社ね)が、製作している理由として、昔からあるボードゲームの「軍艦ゲーム」の発売元だってのがあって、それを元に映画化って事らしいんだけど、随分と地味なゲームからとんでもない映画に発展させたもんだ。(笑)

ライバル心を燃やす日米の海の精鋭が、宇宙から来た共通の敵の前に団結して戦うという非常に単純明快なストーリー。浅野忠信は名実ともに準主役級で、全くメインキャストの中にあってひけを取らない。
主役のテイラー・キッチュは色んな意味で話題のディズニーSFアクション「ジョン・カーター」の主役でもある人ね。それから、歌手のリアーナが魅力たっぷりで男勝りの海軍士官を演じていたり、提督の役でリーアム・ニーソンが出てきたりとキャスティング面も、見ていて非常に楽しかった。

海軍の艦船が主砲や対空砲を撃ちまくるようなアクション映画なんて、近年とんと見たことが無かったので、かなり斬新。
この手の作品なのでノリ重視、良い意味で突っ込みどころ満載だけど、漫画のように楽しめる。
最後なんて「おいおい!!」と爆笑モノの文字通り「バトルシップ」な展開が待っているわけだけど、これは劇場でみんなに爆笑して欲しいので敢えてここでは書きません。
ここ数年の侵略映画の中では、馬鹿映画としてみてもベストな作品に出遭ったと思えました。

海軍全面協力の最高のワルノリSF映画です。この手の作品が好きなら迷わず、劇場へ!!(笑)


2012年3月18日日曜日

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

現代のロンドン。
かつて英国初の女性首相だったマーガレット・サッチャー(メリル・ストリープ)は、既に他界して久しい最愛の夫デニス(ジム・ブロードベント)の死を受容れられず、認知症に苛まれていた。
愛する夫や子供たちとの時間を犠牲にし、深い孤独を抱えたまま不況と低迷にあえぐ英国の再建のために闘い続けたあの時代。苦しいときに陰でいつも寄り添ってくれていたデニスの幻影と、毎日、会話をしながら、かつての思い出の世界を生きているのだった。

名優メリル・ストリープが第84回アカデミー賞で主演女優賞を勝ち取った作品。
雰囲気は、かつてニュースでよく見かけたサッチャー首相そのもの。
(チョッと大柄になった感じは置いといて)
しかし、この作品で描かれるのはかつて「鉄の女」とまで言われた女性政治家が認知症に苦しむ悲哀だ。
ヨタヨタと外出し、スーパーで買い物をする冒頭のシーンからして心を掴まれた。
メイキャップ賞を受賞した老けメイクは見事としか言いようが無い。

作品は夫の遺品を整理しようとする現代の彼女と、ふとした瞬間に思い出す、若かりし頃や、政治家として理想に燃え、信念で国を動かし続けてきた時代の間を行き来する。
そして、亡きテニスと語り合う。そういう趣向で、マーガレット・サッチャーの半生を描いている。

認知症とは言え、まだ存命の政治家を描いた作品だから、過去のシーンにフィクションの要素は少ない。
しかし、スリリングな政治ドラマを期待すると肩透かしを食らうだろう。
政治に女性が参加することは稀な時代に政界に入り、厳しい時代に、如何に厳しい決断を下してきたか、起こった事件と、エピソードを事実を元に淡々と描くこの作品だが、視点はあくまでも夫婦の映画になっている。

女性として、母として、妻としてのマーガレットの苦悩にスポットを当てているこの作品は、彼女のことを知らない世代にも、また、この頃の政治情勢に明るく無かったとしても難しいこと抜きに、共感出来る様に作られている。

彼女が首相だった時代のイギリスが如何に大変だったか、時折挿入される当時のニュース映像は衝撃的だ。
過激な労使抗争が吹き荒れ、景気は低迷し、財政は破綻、デモ隊の中に、騎馬警官隊が凄い速度で突っ込んでいったり、暴徒が火炎瓶を投げ...警官はガンガン警棒で殴り付け、そこいらで爆弾テロが起き...。
そんな中、フォークランド紛争で勝利することで、国をひとつにまとめ、国の景気を上向け、やがて東西冷戦が終結。EUの加盟に反対する頃、党内で孤独が深まり、やがて退陣に至る。
物凄い激動の時代のリーダーだったわけだ。

強いリーダーシップが求められる中、答えが見出せないように見える現代。
EUが今や、ひどい状況だけに、政治家としての晩年のシーンで「ポンドを捨てるなんて在り得ない」と、激高するシーンなんかは、妙に感慨深かった。


2012年3月12日月曜日

シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム

連続爆破事件が発生。
捜査を進めるホームズ(ロバート・ダウニーJr.)の前に立ちはだかったのは、天才的犯罪者モリアーティ教授(ジャレッド・ハリス)だった。



ロバート・ダウニーJr.×ジュード・ロウ×ガイ・リッチー監督のワルノリな「シャーロック・ホームズ」が、さらにスタイリッュに、アクションもエキサイティングになって帰ってきた。

「パイレーツ・オブ・カリビアン」でジョニー・デップがそうであるように、この作品の魅力の殆ど全部は、ロバート・ダウニーJrの醸し出す、チャーミングな駄目駄目中年ホームズにある。
脚本が上手くないからなのか、話の筋はよく判らなくなるし、肝心のモリアーティには、どうも悪のカリスマが感じられず、残念なところが散見されるこの作品だが、ガイ・リッチーの映像センスと、前述した駄目中年の魅力で強引にそれを帳消しにしてくるパワーが、どうやら、このシリーズには宿っているようだ。

そんなわけで、感動も感嘆も、特に無い。
アクションも前に輪を掛け馬鹿馬鹿しい。
特にお奨めってワケじゃないけど、俺はロバート・ダウニーJrが好きだから満足でした(笑)。







戦火の馬/壮大なオトナの寓話

1頭の美しい馬が少年アルバート(ジェレミー・アーヴァイン)の農家にひきとられた。アルバートは馬を「ジョーイ」と名付け、かけがえのない友情を結ぶが、第一次世界大戦の開戦の機運は日増しに高まっていた。
やがて、戦争が始まり家計の助けに英国軍の軍馬として売られたジョーイは、フランスの戦地に送られる。


スティーヴン・スピルバーグ監督の新作の主役は「馬」だった。
ジョーイの手を離れて以降、馬の前に次々と現れる人間たちは、戦禍の中で散々な目に会いつつ、誰も彼もが姿を消していくが、そんな人間たちのエピソードは、この馬の前では刺身のツマみたいなものだ。
極力本物の馬を使って撮影したというこの作品において、馬は眼で語り、いななきや、ギャロップ、そのあらゆる動きがエモーショナルで、観客に感情を訴えかけてくる。その姿は、ときに神々しく、そして美しい。
誰よりも何よりも輝いていたのは「馬」だ。

描かれるのは軍馬にされた馬が数奇な運命を辿りながら元の飼い主の下へと戻る話。
人間にいい様に利用され戦場を必死に生き抜く馬が、迫力一杯で描かれる戦争を走り抜ける。

度々、馬の前に現れる人間たちは、戦争の中にあっても馬との触れ合いを通じて、「良心」に対して誠実に行動を取ろうとする。この話にリアリティなんて無い。
作品中に描かれるキャラクターを通じて「良心とは、こうあって欲しい」という願望が映像化された様な題材だ。

つまり、壮大なオトナの寓話。健気な馬に感動させられる話だ。

ところでこれ、元々、有名な舞台作品だったと知った。
それを聞くと戦場の広がり感や、馬をどんな手法で演出したものか、ステージ版が気になって仕方なくなってきた。

2012年3月4日日曜日

ヒューゴの不思議な発明

駅の時計台に隠れ住むヒューゴ(エイサ・バターフィールド)は、唯一友達のように思っている父の形見の機械人形の修理をしながら、毎日を過ごしていた。
やがて気難しいおもちゃ屋の老人ジョルジュ(ベン・キングズレー)の娘、イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)が機械人形の修理に必要な“ハート型の鍵”を持っていることに偶然気付く。
それは、封印されていた過去の記憶を蘇らせる物語の始まりだった。


巨匠マーティン・スコセッシ初の3Dファンタジー映画。
ファンタジックでありながらアートの様に美しく、映画産業創生期の偉大な作家たちへの尊敬や映画愛にあふれたオトナの鑑賞に堪える作品。
内容的には、ファンタジーのアプローチにはなっているが、決して、おとぎ話的な作品ではなく、むしろ人間を描いたドラマになっている。流石にそこは、スコセッシだ。
子供向けとして考えると、はっきり言って小難しい。(笑)。

あっという間に死んでしまう父親役のジュード・ロウ。
秘密を抱えた気難しいキャラクーを演じたベン・キングズレーなど、名優陣と対等以上に渡り合う子役のエイサ・バターフィールドや将来が楽しみな美少女クロエ・グレース・モレッツが、非常に瑞々しくてよい演技を見せる。

最後に3Dについて。
高さを感じるような夜景シーン、駅の雑踏をリアルに描いたり、美しい美術をより魅力的にスクリーンで表現する上で、この作品の3Dは大きな効果を上げている。
2D版も公開されているが、作品世界に没入したいのであれば、ぜひ、3Dでの鑑賞をお奨めしたい。





アフロ田中/コミックさながらの奇妙な動きを繰り返す松田翔太

のりつけ雅春の人気コミック「上京アフロ田中」を実写化。
強烈な天然パーマでこの世に産まれ落ちた田中(松田翔太)は24歳にして未だ彼女なし。
“仲間5人のうち誰かが結婚する日には、その時の彼女を連れてくる”という高校時代の親友たちとの約束を前に、焦る田中のボロアパートの部屋の隣に、可憐な美女、加藤亜矢(佐々木希)が引っ越してきた。


これまでのクールでシャープな松田翔太のイメージを覆す、青春童貞馬鹿映画。
アフロのズラを被り、コミックさながらの奇妙な動きを繰り返す松田翔太と、やっぱりカワイイ佐々木希が全てといっても過言ではない作品。
内容は全編、中学生ノリで大のオトナが大騒ぎしているのをどれだけ楽しめるかに掛かっている。

馬鹿でエロな妄想をしながら、可笑しなテンションで突っ走った漫画原作の映画には「モテキ」があったが、似たような題材でありながらも、あの作品ほど、共感できるテンションの持って行き方になっておらず、何だかユルくて微妙な苦笑の連続の中、終わってしまったよ。おいおい。

キャラや題材の面白さはあったのに、何だか盛り上がりきらずに地味に終わってしまった勿体無さを感じつつ、苦笑いで劇場の席を立った。
監督は松居大悟。これが初監督作品らしいが、自分も童貞だと公言。
監督業の方がデビューが先になったというエピソードの方が、正直、本編よりもドラマチックだ。


2012年2月27日月曜日

顔のないスパイ

ワシントンで、ロシアと密接な関係を持つ上院議員が暗殺された。その手口から浮かび上がったのは、死んだとされていたソビエトの伝説のスパイ“カシウス”だった。CIA長官ハイランド(マーティン・シーン)は、かつてカシウスの追跡にキャリアを捧げていたポール・シェファーソン(リチャード・ギア)を呼び戻し、FBIの若手捜査官ベン・ギアリー(トファー・グレイス)と共に真相究明にあたらせる。

R.ギアのスパイ映画だって?大丈夫かな?と、本当のところ全く期待せずに鑑賞した一本。
しかし、これがどうして、中々に本格的なスパイサスペンスで、あっという間の98分だった。
原題が「The Double」だって時点で、この手のサスペンス好きだと、だいたい察しがつくわけだが、お決まりの二重スパイやら、どんでん返しやら。アクションよりもむしろシナリオで魅せてくれる作品。
ミッションインポッシブルなんかとは対極にあるオトナなスパイサスペンスだ。

意外にも中盤までで、カシウスの正体は観客に明かされてしまうものの、謎は謎のまま、終盤まで一気に走る展開に興味を惹き付けられる。
台詞が多くて、ちょっと目を離したら付いていけなくなりそうなスピード感。
強引な展開で騙し騙されする無理くりなサスペンスではなく、因縁や復讐というシンプルで共感できるテーマを主軸にしたのが、良かった。
これ以上はネタバレになりそうなので、ここまでで興味が湧いた方は、是非、劇場へ!!


2012年2月21日火曜日

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

9.11同時多発テロ。ワールドトレードセンターで父(トム・ハンクス)を亡くした少年オスカー(トーマス・ホーン)は、父の突然の死を受け入れられずに日々を過ごしていた。
ある日、彼は父の部屋のクローゼットで、花瓶を割ってしまう。
そして割れた花瓶から出てきた「Black」と書かれた封筒の中に1本の“鍵”を見つけた。
オスカーはその鍵に父親の面影を求め、鍵の謎を探すため、ニューヨーク中の「Black」さんに会ってみようと決意して、街へ飛び出した。


まだ2012年は始まったばかりだけど、今年最高の映画だった。
原作のベストセラーは未読だったけど、見終えた後、ネタバレに気を遣うことなく、みんなでこの作品について色んな話をしてみたくなる、そんな作品。

突然最愛の家族を失った混乱から立ち直れずに、触れただけで切れそうな危うさを抱えた少年が、街を走る。
トム・ハンクスの父親、母親にサンドラ・ブロック。
主人公オスカーを演じたトーマス・ホーンは、これだけ豪華な出演者たちと対等以上に渡り合い、喪失感にさいなまれた少年の混乱、素直であるが故の残酷さや、瑞々しさを見事に演じて魅せてくれる。
スティーヴン・ダルドリー監督が少年を描くのは「リトル・ダンサー」以来か。
この作品でもテーマになっているのは家族の絆だ。

父親との思い出、おばあちゃんの家で会った謎の間借り人、街で知り合った沢山の「Black」さんたち。

映画が語る沢山の出会いと記憶の中で、物語のピースが次第に観客の前で埋められていったとき、この奇妙なタイトル「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」の意味を俺はそこに感じ、隠されていた真実、普遍的な愛の大きさに、思わず涙した。

それはテロで引き裂かれた家族の特別な話ではなかった。
ありえないほど近くにあっても、直接は気付けないような愛情についての物語。
みなさんは、この作品から何を見つけるだろうか?



2012年2月18日土曜日

TIME タイム/若手の役者ばかりの安いSFドラマ

全ての人間の成長は25歳でストップする社会。唯一の通貨は「時間」。
限られた一部の富裕層が永遠の命を享受する一方で、圧倒的多数の人々の余命は23時間。
生き続けるためには、日々の重労働によって時間を稼ぐか、他人からもらう、または奪うしかない。
富裕層による寿命の一方的搾取の実態を知ったスラムの青年ウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)は、戦いを決意する。


格差社会の問題が深刻化するアメリカの現状を反映するかのようなテーマのSFアクション映画。
一部の富裕層が独占するのは富ではなく「時間」。貧者が生き残るには、搾取した時間を奪い返さなくてはならないという設定の下、階級闘争と大富豪の娘シルビア(アマンダ・セイフライド)との身分を越えた愛を描く...。
つまり、想像通りの展開で驚きも新しさも大してないSF作品。
なんだろう、この安っぽい展開は。だが、それでいて決して馬鹿映画の体にはなっていない半端な感じ。(笑)

ユニークなのは25歳で全ての人の成長が止まるために、25歳以上に見えるようなキャラが一切出てこないこと。
そのせいか、若手の役者ばかりで輪をかけて安いドラマを見ているような気にさせられた。
アイディアは悪くなかったのかもしれないが、ドラマ部分の魅力に欠けるものがあった様に思う。

2012年2月11日土曜日

ドラゴン・タトゥーの女/最初から最後まで、「完璧じゃね?」と思える完成度

記者ミカエル・プロムクヴィスト(ダニエル・クレイグ)はスウェーデンを揺るがせる財界汚職事件を告発したものの名誉棄損で敗訴。信用が失墜し、多額の賠償金支払いにさらされていた彼の元に、財閥ヴァンゲルの元会長ヘンリック・ヴァンゲル老人(クリストファー・プラマー)から家族史編纂の依頼が舞い込む。
しかしそれは表向きで、彼の真の目的は40年前に殺害されたとされる親族の娘ハリエットに関する真相究明だった。


あの不気味かつスタイリッシュな予告編を劇場で見てから、気になって仕方なかった本作。
間違いなく、久々に「映画を見た」満足感に浸れる秀逸なサスペンスだった。
原作は世界的なスウェーデン発のベストセラー「ミレニアム」シリーズ。
この3部作は元々映画化されていたらしいが、この第一部をハリウッドがデヴィッド・フィンチャー監督でリメイクしたのがこの作品。
シリーズとは言え、ちゃんと一本でストーリーが完結するので、最近多い、話の途中で続編へ続いて「おやつ」を取り上げられた感じを味わわせられることもない。

雪深く一本の橋で隔離された島に住む、怪しげな富豪一族。
次々と明らかになる未解決の殺人事件。
誰もが怪しく、陰鬱なこの島で、封印されていた事件の真実を社会から追われた記者が追う。
そのうえ出てくるキャラクターは変態ばかり。
何かが起きる予感、満々な内容なわけだが、名優ダニエル・クレイグを完全に喰ってしまう存在感で、観客を圧倒するのが、存在自体に緊張感と危険を匂わせるいわくつきの調査員リスベット(ルーニー・マーラー)。
中盤までストーリーの本筋に絡んでこないものの彼女こそが、作品タイトルにもなっている「ドラゴン・タトゥーの女」だ。
触れただけで、こちらが切られてしまいそうな雰囲気を醸しつつ、ストーリーの進行とともにその卓越した能力、異常性、そしてたまに見え隠れする女の子らしさで観客を虜にする強烈なキャラクター「リスベット」。
これを演じているのが実は、「ソーシャルネットワーク」で大学時代の主人公の彼女エリカを演じていたあの可愛い女優さんだとは到底気付かない。
アカデミーのノミネートも納得だ。

最初から最後まで、「完璧じゃね?」と思える完成度で、158分という長さを全く感じさせない衝撃作。
それだけにお願いだから監督を変えず、デヴィッド・フィンチャー監督、ルーニー・マーラー、ダニエル・クレイグの布陣のままで是非とも三部作全てを味わってみたい。


2012年2月7日火曜日

ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵

身の丈を超える長大な剣を自在に操る屈強な剣士ガッツは、ある日、傭兵集団“鷹の団”を率いるグリフィスと出会う。グリフィスは、己の夢の実現のためにガッツを団に引き入れ、やがてガッツとグリフィス、そして鷹の団の仲間たちは、数々の激戦を潜り抜け、固い絆で結ばれてゆく。

人気漫画「ベルセルク 黄金時代篇」を三部作とし映画化、2012年中に立て続けに公開するというSTUDIO4℃制作、窪岡俊之監督の野心的プロジェクト。

一気に観客を作品世界に惹き込む冒頭の戦闘シーンでは、城に殺到する兵士の視点から空を舞う鳥の視点まで、3DCG制作環境でこそ可能になった自在なカメラワークが戦場を駆け抜ける。
中世の戦いを再現した殺陣は、モーションキャプチャで演出され、打撃や斬撃で千切れる肉片などその表現もテレビアニメの基準では不可能な、リアリティを追求したものになっている。

注目なのは、3DCGで起こしたキャラクターの動きに、表情だけはアニメーターの手で2Dで作画するという技法が用いられていること。リアルで正確なキャラクターの動きだけでは、表現しきれない画による「感情表現」をCGを補う形で実現させたこの方法は、映画本編3作をまとめて、クオリティを重視しながらも効率よくプロダクションマネジメントすることを追求した結果のかなりユニークなアプローチだったのではないかと思う。

ところが、俺にはどうもこれが気になって仕方なかった。
2Dで作画されたメインキャラのすぐ脇や、後ろにいる兵士など「その他大勢」の表情はどれもマネキンのように生気が無く、同じ顔で、動きもどこか「ぬらぬら」としていて、ある程度の工数を掛けて描かれたキャラと並ぶと、同一シーン上のそのギャップが何ともキモチ悪かった。
どうやらこの手法。この作品においては、効率化、コスト削減の方向により大きく貢献する形で用いられたようだ。

作品としては、原作をほぼ知らない俺もついていける内容によくまとめられている。
少なくともその良さを台無しにしてしまうような映画化にはなっていないんじゃなかろうか。
映画ならではの音響は迫力あるし、平沢進の音楽に至っては言うことないくらい本当に素晴らしい。
声優陣もキャラにあっている。

言うなれば作品の世界観と人物紹介編と言えなくも無い本作は、最後に6月公開予定の次回作の予告で終わる。
続きを見てみたくなるのは間違いなく、魅力的な原作のチカラによるものだろう。
色々書いた気がするけど、次回作、楽しみ。

2012年2月1日水曜日

ALWAYS 三丁目の夕日’64/ そろそろ飽きてきた

「ALWAYS」も今回で3作目。舞台は東京オリンピックに沸く1964年。
鈴木則文(堤真一)とその妻・トモエ(薬師丸ひろ子)、一人息子の一平(小清水一揮)、住み込みで働く星野六子(堀北真希)、そして小説家の茶川竜之介(吉岡秀隆)、ヒロミ(小雪)と、高校生になった古行淳之介(須賀健太)。
シリーズを通じて既におなじみのキャラクターと、昭和のノスタルジーにひたり、ご近所付き合いや人と人の触れ合いにほっこり出来るのはこのシリーズ最大の魅力だろう。
高度成長を遂げ、国全体が高学歴や高収入を目指す時代を背景に、展開されるドラマは、しかし作品が公開されている2012年の世相を反映して出世競争とは違った形の「幸せ」や「絆」について語って見せる。
とは言えノスタルジーと人情ドラマの繰り返しに、そろそろ飽きてきたのも事実。
シナリオも1作目を超える感動をもたらしてはくれず、回を重ねる毎に失速している。
箱庭のような「3丁目」の世界は「北の国から」の様には広がりようもないし。この平凡な昭和の世界の再現を敢えて3Dで見ることに意味を感じるかについても意見は分かれそうだ。



2012年1月31日火曜日

DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る

正直に言うと俺は、AKB48について、大島優子と前田敦子の見分けがつかないレベルの知識しか持っていない。

 昔、音楽ソフト流通の末端で飯を食べていた事もあってか、一人のファンからの売り上げ最大化を目指すキャバクラ的商法にはあまりよいイメージが無かったし、「おニャン子」以来代わり映えしないようにも見える秋元康のビジネスモデルが盛り上がっていく様子をこれまで、興味なく斜めから見ているのが常だった。
しかし、ここに来てこの「AKB」のフォーマットは、他地域展開し、とうとう海外へまで進出を果たした。
アイドルビジネスとしての「AKB」、それはどんなものなのだろう?
ドキュメンタリー映画の公開を知って、その一端に触れてみたい興味を掻き立てられ、俺は劇場のシートに腰を下ろしてみる事にした。

 秋葉原の小さな専用劇場から「会いにいけるアイドル」のコンセプトで結成された彼女たち。
映し出されたのは、今度は被災地に「会いに行く」アイドルの姿。
そしてオトナ達が次々と仕掛ける「売るため」のスキームに翻弄されつつ、夢や熱意、向上心、そういう想いを、ときに笑い、ときに涙を流し、プレッシャーで過呼吸になったり、熱中症で倒れたりしながら、まさに満身創痍で走り続ける「ふつうの女の子達」の姿だった。

この作品が暴いたのは、そんなショウアップされたステージの裏側だ。
ステージで可能な限り完璧な姿でパフォーマンスしようとする、「プロ意識」と「ふつうの女の子」の狭間で、もがき苦しみながら上へ行こうとする「熱」と「気迫」。
それはオトナ達の作ったビジネスフォーマットの上で、冷たい言い方をすれば「消費されていく」だけかもしれない現代のアイドルビジネスを淡々と追い掛けたドキュメンタリーだった。

作品を見終えて、良くも悪くも、今の邦楽シーンを席巻する「AKB」フォーマットの強さの一端を俺は少しだけ理解できたような気がする。
AKBのファンならずとも現代のエンタテインメントの裏側を描いた作品として、非常に興味深い一本。
フィルムを通じて、ファンとは最も遠いところにいたであろう俺にも生々しい彼女たちの頑張りが伝わったし、少しばかり応援したくもなった。

とは言え、やっぱり俺は今でも、大島優子と前田敦子の見分けがつかないし、あのビジネススキームは嫌いなわけだけど(笑)。


2012年1月20日金曜日

フライトナイト 恐怖の夜/こんなに面白いのに、打ち切られちゃいそうだ

高校生のチャーリー(アントン・イェルチン)の家の隣に、ジェリー(コリン・ファレル)が引っ越してきてから、街の人々が次々と姿を消すようになった。
ジェリーに疑いの目を向けたチャーリーは、彼の家に侵入。そこで彼の正体が人間の生き血を吸うヴァンパイアであることを知ってしまう。
果たしてチャーリーはガールフレンドのエイミー(イモージェン・プーツ)や家族を正体を知られて怒り狂うジェリーの手から守ることが出来るのか!!


1985年のB級ホラーをまさかのリメイク。しかも3D(笑)。
学園、オタク、美女、ちょいエロ、ホラー...と馬鹿映画としての美味しい要素てんこ盛りのこの作品。
不死身のヴァンパイアとオタク高校生の壮絶なアクションバトルは、全く脳味噌を使うことなくスピーディーに気持ちよく展開。
ワルノリな部分もあわせて全く飽きさせない。
助っ人の登場や、その人の意外な過去。
ヴァンパイアを倒すための武器の数々など、この手の映画が好きならたまらない内容。
銃を撃ちまくるようなアクションではなく、杭を打ったり、斬ったり、刺したり、噛んだりするんだが、何処と無くユーモラスで、笑えるホラーになっている。

ヴァンパイア役のコリン・ファレルは、不気味かつ嫌なヤツっぷり全開。本人もかなりこの手の映画のファンのようだけど、嬉々として演じている感じが伝わってくる。
主役のチャーリーを演じていたアントン・イェルチンは気付かなかったけど「ターミネーター4」でカイル・リース役をやってた俳優。ナイーヴな感じで初々しく、かつて雑誌ピープルの「最も美しい100人」に選出されたって言う、かなりのイケメン。
でも、何といっても収穫は健康的な色気全開のヒロイン、イモージェン・プーツだろな。
別に脱いだりとかしないんだけど、この作品の彼女からは、フェロモンが出まくってる。

過度に過激なホラーではなく、とことんB級の青春ホラーだから、デートで見に行くのも悪くない選択かもしれない。中身的には3D版で敢えて見るほどのことは無いんだけど、なんと、人生初。
品川プリンスシネマの3D版上映で、19時の回、客席は俺だけで完全貸切状態で鑑賞する幸運に恵まれた。
俺だけのために画面が飛び出してると思うと、ホント、贅沢だった。
こんなに面白いのに、この入りじゃ、早く行かないと、打ち切られちゃいそうだ。
興味沸いた人、映画館へ急げ!!


2012年1月16日月曜日

マイウェイ 12,000キロの真実/韓国映画界は世界を照準に!

日本・ソ連・ドイツ 3つの軍服を着て戦うことになった二人の男の数奇な運命を描いた、衝撃と感動の物語。アジアからノルマンディーまで12,000キロを生き抜いたという実在した東洋人の物­語を基に、『シュリ』『ブラザーフッド』のカン・ジェギュ監督がオダギリジョー、チャン・ドンゴンを主演に映画化!


日本人の長谷川辰雄(オダギリジョー)と、幼い頃から長谷川家の使用人として働きながら、マラソンにおいては辰雄のライバルとして共に育った朝鮮人のキム・ジュンシク(チャン・ドンゴン)。この二人が時代に翻弄され、反目しながらも友情を培って、ノモンハンからソビエト、そしてノルマンディまで、捕虜となっては生きるために外国人部隊の一員として幾多の戦場を転戦していく。

韓国俳優陣だけでなく、大勢の日本人キャストも出演。
狂気に取り付かれたようなオダギリジョーは、その演技で新境地を開拓。
母国語を禁じられた当時の朝鮮人を描く上でチャン・ドンゴンなど韓国系キャストの多くには淀みの無い日本語の台詞が登場し、国際色豊かな出演者たちが、大陸をまたがる壮大なストーリーに彩を添える。
「マイウェイ」は、韓国の映画業界が世界をマーケットと意識して、作品を世に送り出している...その現実を体感できる超大作だ。
幾多の戦争を描いた大作に劣ること無いリアルな戦場、地獄絵図は、特定の国の視点で歴史を描くありがちな展開とは一線を画し、あくまで国籍は違えども時にライバル、ときに兄弟のように相手の存在を認めあって生きた二人の男の視点で、「戦争」そのものの虚しさを浮き彫りにしていく。

エンタテインメントとして超一級の戦争ドラマになっていること。そしてあの戦争を舞台として、国籍を超えた友情を描いた、このような超大作が、韓国から発信される時代になったことに驚きと、何だかとても感慨深いものを感じたのだった。



ロボジー/予告編で見せすぎた

家電メーカー木村電器の窓際社員、小林(濱田岳)、太田(川合正悟)、長井(川島潤哉)の3人は、社長(小野武彦)からロボット博で披露すべく流行の二足歩行ロボット開発を命じられる。しかし、ロボット博まであと1週間と迫る中、制作途中のロボット“ニュー潮風”はアクシデントにより転落全損大破してしまう。
やむなく3人は、ロボットに体型が似た73歳の鈴木重光(五十嵐信次郎)を何とか騙してバイトに雇い、ロボットの中に彼を入れて窮地をしのごうとするのだが....



 壊れたロボットを誤魔化すために、中に爺さんを入れるというアイディア自体が素晴らしい。
五十嵐信次郎の演技も光る。

制御不能なまでに、ワルノリする爺さんと、慌てふためく駄目社員。
おおまかなストーリーを聞いただけでも、矢口史靖監督の新作は見たくて見たくて仕方ないものだった。
そして、予告編を見た俺の期待は確信に変わった。これ、絶対、面白いよ!!
ロボットオタクの女子学生・葉子(吉高由里子)もカワイイし、キャラもみんなユニーク。

しかし、なんだろこの残念な感じは。

矢口監督は、人間ドラマを見せるのに定評がある方だ。
例えば男子のシンクロナイズドスイミング(「ウォーターボーイズ」)とか、駄目駄目な吹奏楽部(「スウィングガールズ」)とか、乗客を乗せてヒコーキを飛ばす人々(「ハッピーフライト」)とか、外から見るとマニアックだったりちょっと変わった世界を舞台に、その中で情熱を燃やす連中を面白おかしく、熱く描くことで最後に物凄い感動とか、興奮を観客に与えてくれるような作品を世に送り出してきた。

ところが本作にはそれが無い。
今までであれば、ロボット開発というマニアックな世界で悪戦苦闘する駄目社員を描くのがパターンだったのだと思うが、今回、ロボットに爺さんを入れて誤魔化すというアイディアの元、いつものスポ根的展開は封印された。

と、なると....ばれそうでばれない誤魔化しの中で、次第に制御不能のワルノリに走る爺さんが、見所になるわけだが、なんと、笑えるシーンをほぼ全て、予告編の中で見せてしまっているのだ。

だったら世間から相手にされなくなった哀れな偏屈爺が、ロボットを演じることでスポットライトを浴びる快感に目覚める...そんな要素がもっと強くても良かったかもしれない。

いずれにせよ、爺さんが演じるロボットというアイディアで引っ張れるところまで最大限引っ張った結果、ドラマとしては今一歩、物足りず、深さとか熱さを感じない、よくある「ほのぼの」コメディに終わってしまっているのが、本当に勿体無い。
はるかにそれ以上の可能性を感じたアイディアだっただけに。

それでは、本編位においしい予告編をどうぞ。(笑)